肥満に関連する健康問題は、日本を含む多くの国で、犬や猫にとって深刻な問題の一つとなっています。2022年のペット肥満予防協会(APOP)の調査によると、獣医師が評価した猫の61%、犬の59%が過体重または肥満であると診断されました。
その為、ペットフードメーカーはこのペットの肥満問題に対応する為、さまざまな体重管理用ペットフードを開発しています。その中でも、犬や猫の肥満対策としてプロバイオティクスが注目されているのはご存じでしょうか?
プロバイオティクスが、腸内健康に与える重要性については周知のとおりですが、ある科学者たちによってプロバイオティクスが犬の体重管理に役立つ可能性があるという調査報告がなされました。
当調査では、高い脂肪量を含むフードを与えられた犬に対して、2つのプロバイオティクス、Enterococcus faecium(エンテロコッカス・フェシウム)IDCC 2102、そしてBifidobacterium lactis(ビフィドバクテリウム=ビフィズス菌)IDCC 4301の効果が調査されました。
Veterinary Microbiology誌の記事によれば、「これらのプロバイオティクスは、高カロリー摂取に反応して全身のエネルギー利用を促進し、脂質の蓄積を防ぎ、便の腸内細菌の安定性を回復させました。」とあります。その結果、高脂肪食によって引き起こされる全身の炎症が減少したとあります。
プロバイオティクスと犬の肥満
プロバイオティクス(腸内に存在する有益な細菌)は、人間とペットの両方で腸内の健康を維持する役割がありますが、韓国で行われた今回の研究では、代謝への影響に焦点が当てられました。
ソウル大学、慶北大学、忠南大学の研究者たちは、高脂肪フードを摂取する犬における肥満関連の問題をこれら二つのプロバイオティクスが緩和する可能性を探りました。
この研究は、高カロリー食を与えられた犬で、E. faecium IDCC 2102およびB. lactis IDCC 4301の両方が体重増加と脂質蓄積を大幅に減少させることを示す結果となりました。
さらに当研究では、これらのプロバイオティクスの生物学的メカニズムに深く掘り下げ、全身の炎症、脂質代謝、およびホルモン調節における顕著な効果を明らかにすることが出来ました。
腸内細菌叢の調整
IDCC 2102およびIDCC 4301の両方が、Lactobacillaceae(乳酸菌を含む腸内の有益な細菌)、Ruminococcaceae(大腸に多く存在する細菌)、S24-7(腸内細菌で、短鎖脂肪酸を生成し、腸内環境のバランス維持や健康に寄与)といった有益な細菌を促進することで、腸内細菌叢に良い影響を与えることが確認されました。
その結果、高脂肪食に関連する炎症促進細菌レベルの低下に繋がり、腸内のバランスが改善されることで、炎症性の細菌が抑制されます。炎症が低下すると、脂肪細胞の正常な機能が回復し、余分な脂肪の蓄積が抑えられ、肥満予防や改善に役立つのです。
エネルギー利用の向上
プロバイオティクスはピルビン酸代謝を促進し、グルコース調節を助け、ATP(アデノシン三リン酸)生産を増加させました。特にB. lactis IDCC 4301は、エネルギー生産と利用の効率に不可欠な短鎖脂肪酸の生成を促進しました。
これにより、食事から得られたエネルギーを効果的に燃焼し、脂肪としての蓄積を減少させることができます。エネルギーがうまく利用されると、余分なカロリーが体脂肪に変換されにくくなり、体重増加が抑えられるのです。
ドーパミン生成の促進
E. faecium IDCC 2102はドーパミンの生成を促進し、犬の正常な摂食行動への回復に寄与する可能性があることが確認されました。これは、肥満動物における病的な過食行動やグルコース不耐症がドーパミン神経の乱れに関連しているため、非常に重要です。
肥満対策用ペット製品への影響
腸内細菌の調整、エネルギー利用の向上、ドーパミン生成の促進により、これらのプロバイオティクスはペットの肥満に関連する健康問題に対処するための有望な手段となり得ます。
ペットフード市場において機能性成分の需要が高まる中、プロバイオティクスの導入は、ペットの健康向上と商業的成長の両方に可能性をもたらします。
結果は有望ですが、研究者たちは、これらのプロバイオティクスが代謝性疾患の管理にどのように応用できるかを更に調査する必要があると述べています。もしかすると、これらのプロバイオティクスが肥満対策を超えた多面的な利益をもたらす可能性があることを示唆しています。
ペットフード業界が健康改善に向けた取り組みを続ける中、プロバイオティクスの導入は、ペット(犬や猫)の体重管理において革新的な解決策になる可能性があります。
しかし、その潜在能力を最大限に引き出すには、メタゲノミクス(遺伝子分析)およびメタボロミクス(生体内の代謝物質を網羅的に分析・解析する技術)のさらなる研究が必要であり、これにより、メカニズムと動物の健康への影響について、より深い理解が得られるでしょう。