ペットフード業界は、消費者の期待に応えるために日々進歩を遂げていますが、その進歩を支えているのは、精密で一貫性のある製造プロセスです。品質の高いドッグフードを提供するためには、単に良質な原材料を使うだけでは不十分です。製造の各工程を理解し、最適化することがペットフードの品質向上に直結するのです。
本記事では、ペットフードメーカーとして押さえておくべき製造工程の重要なポイントを解説します。粉砕、混合、加熱・成形、乾燥、コーティング、冷却…各ステップがいかに製品の品質に影響を与えるのでしょうか。
製造工程プロセス

粉砕工程
ドッグフード製造における「粉砕工程(Grinding / Milling)」は、原材料を細かく砕いて均一な粒子にする重要な工程です。
この工程では、穀物、肉ミール、豆類などの原材料を粉状にすることで、その後の混合や成形、加熱処理がスムーズに行えるようになります。さらに、粒子を細かくすることで犬の消化性が高まり、栄養吸収が促進されるというメリットもあります。
粉砕の主な目的
粉砕工程の第一の目的は、原材料の粒度(粒の大きさ)を均一にすることです。均一な粒度は、次工程にある原材料の混合をムラなく行えるだけでなく、エクストルーダーなどの成形機械での処理効率も向上させます。
また、細かく粉砕された原材料は熱が均等に通りやすく、加熱される工程での調理効果も高まります。これにより、犬にとってより消化しやすく、栄養価の高い製品を作ることが可能になります。
さらに、異物や大きな塊を取り除くことで、後工程の機械への負荷や詰まりといったトラブルを防ぐ役割も果たしています。
使用される主な粉砕機械
粉砕工程で使用される代表的な機械には、以下のようなものがあります。
ハンマーミル
- 回転するハンマーが原料を叩き潰す構造。
- 原料が金網(フィルター)を通過することで粒度調整。
- ドライフード製造で最も一般的に使用。
- 処理能力が高く、様々な原料に対応可能。
ローラーミル
- 2本以上のローラー間に原料を通して圧力をかけながら粉砕。
- 粒度をより均一に仕上げることが可能。
- 熱の発生が少なく、栄養素の損失を抑制。
- 特定用途や高級ペットフードで採用傾向。
粒度の重要性と管理
粉砕後の粒度が適切でないと、さまざまな問題が生じます。粒度が粗すぎると混合不良やエクストルーダーでの成形不良が発生し、犬の消化にも悪影響を与える可能性があります。
一方、粒度が細かすぎると、粉塵が発生しやすくなり、作業環境の悪化や機械の摩耗が早まるほか、加熱によって栄養素が失われやすくなるという課題があります。
混合工程
ドッグフード製造において、混合工程はさまざまな原材料を均一に混合するために不可欠な機械であり、一貫性と栄養価の維持を保証します。これらの機械は、乾燥成分と湿った成分をバランスよく組み合わせ、最適な製品を作る上で重要な役割を果たします。
パンやケーキを作るとき、材料の混ぜ方が仕上がりを左右することがありませんか?ドッグフードの製造でも、ミキサーはそのキッチンの調理器具のような存在ですが、さらに大規模なものになります。これらの機械は、肉類、穀物、ビタミン、ミネラルなどの成分を均等に混ぜ、すべての粒がバランスの取れた栄養を保つことが出来ます。
使用される混合技術
| 項目 | バッチ混合 | 連続混合 |
|---|---|---|
| 処理方式 | 一度に一定量の原料を混合 | 途切れることなく原料を連続的に混合 |
| 生産規模 | 小中規模生産に最適 | 大規模生産向け |
| 品質管理 | 各バッチごとの微調整が容易 | 安定した均一性、高い生産効率 |
| 適した製品 | 特別処方フード、小ロット製品 | 標準的な大量生産フード |
混合するには「バッチ混合」と「連続混合」 の2つの主要な技術があります。
バッチ混合|Batch Mixing
- 一度に一定量の原料を混ぜる方式。
- 各バッチごとに微調整ができるため、品質管理がしやすい。
- 小規模な製造や特別な処方のフードに最適。
連続混合|Continuous Mixing
- 大量のドッグフードを生産する大規模工場向けの方式。
- 途切れることなく原料を混ぜ続けるため、効率が非常に高い。
- 高い需要に対応するために、大手メーカーでよく採用される。
押し出し工程
混合された原料は、ドライドッグフードの主要技術のひとつである押出機(エクストルーダー) に送られます。ここで、高温高圧(100-180度)で加熱調理されます。エクストルーダーを分解してみると、それぞれの部品が特定の役割を果たしていることがわかります。
| コンポーネント | 機能 |
|---|---|
| 投入口(ホッパー) | 原材料を投入する |
| バレル(筒) | 材料を混ぜ、加熱する |
| スクリュー | 摩擦と熱を発生させ、押し出しを促す |
エクストルーダーを使用するメリット
エクストルーダーにおける品質管理
品質管理は、シェフが料理をチェックするように厳密に行われます。水分量、密度、調理時間などをモニタリングし、安全基準を満たしていることを確認します。一般的に、高度なセンサーや監視システムを活用し、一貫性のある生産が可能となっています。
押し出し工程は、安全で栄養価が高く、美味しいドッグフードを作るために不可欠な技術です。このプロセスを理解することで、メーカーは高品質なドライドッグフード製造を実現できます。
成形と切断工程
ドライドッグフード製造における「成形」と「切断」の工程は、エクストルーダー(押出し機)の直後に行われる重要なプロセスです。
これらの工程では、ドッグフードの形状やサイズを決定づける作業が行われます。見た目だけでなく、犬の嗜好性や食べやすさ、消化性にも大きく関わるため、非常に重要な役割を果たしています。
よく使用される成形の例
・ 丸形
・ 四角形
・ 星形
・ 骨型
・ 円盤型
・ ドーナツ型
これらの形状は、犬のサイズ(小型犬・中型犬・大型犬)や年齢(パピー・成犬・シニア)に応じて変更されます。小型犬には小粒で噛みやすい形、大型犬には大きめで噛みごたえのある形状が選ばれることが一般的です。
温度と水分量
切断工程においては、押し出された原料の温度と水分量が非常に重要な要素となります。原料の温度が高すぎたり、水分量が多すぎたりすると、カッターで切断する際に原料が柔らかくなりすぎてしまい、形が崩れやすくなります。
逆に水分が少なすぎると生地が硬くなりすぎて切断しにくく、形状のばらつきが生じる原因にもなります。そのため、原料の状態を常に監視し、適切な温度・水分のバランスを保つように条件を調整する必要があります。
カッターの回転速度
また、カッターの回転速度も切断結果に大きな影響を与える要素の一つです。カッターの速度を速く設定すると、生地が素早く短く切断され、短めのキブル(粒)が形成されます。
一方で、カッターの速度を遅くすると、押し出された生地の長さが保たれ、やや長めのスティック状に切断されることになります。この調整によって、製品のサイズや形状をターゲット市場(小型犬向け・大型犬向けなど)に合わせて最適化することが可能になります。
刃の角度や数
さらに、カッターの刃の角度や枚数も重要なパラメーターです。刃の角度が適切でない場合、切断面が滑らかにならず、キブルの見た目や食感に悪影響を及ぼすことがあります。
また、刃の数を調整することで、同時に切断される個数や速度に変化を与えることができ、生産効率や製品の均一性にもつながります。
乾燥工程
成形後のキブルにはまだ水分が多く含まれているため、大型乾燥機(オーブン)で70-100度の温度帯で乾燥させます。乾燥工程では、キブルの水分含有量を約10%以下まで減少させ、保存期間を延ばし腐敗を防ぐことで、ペットフードの安全性と品質が確保されます。
一見、水分が多く残っても問題ないように思えますが、それが原因で細菌が繁殖し、ドッグフードにカビが生えたりしてしまいます。ですから、この工程では栄養素の損失を防ぎつつ、十分に乾燥させるために精密な温度管理が重要になります。
栄養価と風味の保持
袋を開けた瞬間に広がる香ばしい香りに、愛犬が夢中になってしまうことはありませんか? これこそが、乾燥技術の効果なのです。水分を適切に除去することで風味を引き立てることができます。
また、しっかり乾燥されたキブルには、タンパク質、炭水化物、脂質のバランスが最適に保たれています。
賞味期限の延長
乾燥工程のおかげで、ペットの飼い主は腐敗の心配をせずにドッグフードを長期保存することができます。水分を除去することで、ドッグフードの賞味期限が大幅に延び、長期間にわたって鮮度を保つことが可能になります。
コーティング・冷却工程
コーティング・冷却工程は、ドッグフードの最終的な品質を決定づける重要なステップです。この工程では、風味や栄養価を高めるためのコーティングと、製品の保存性を向上させる冷却が行われます。
適切なコーティングと冷却を施すことで、ペットフードの嗜好性や栄養価を最大限に引き出し、長期的な保存にも対応可能な製品を実現します。
乾燥を終えたキブル(ドッグフードの粒)は、そのままでは風味や栄養価がやや物足りない場合があります。そこで行われるのがコーティング工程です。この工程では、栄養価の向上や嗜好性の強化を目的として、脂肪やフレーバー、ビタミン、ミネラル、プロバイオティクスなどの成分をキブルの表面に添加します。
通常、回転ドラム式のコーターが用いられ、キブルを回転させながらスプレーノズルで均一に液体や粉末の添加物を噴霧します。この工程によって、キブルの表面に薄い脂肪膜が形成され、香りが強調されると同時に、嗜好性が飛躍的に向上します。
さらに、栄養補強として熱に弱いビタミンや酵素などをこの段階で添加することで、押し出し工程や乾燥工程で失われがちな成分を補うことが可能になります。この工夫により、最終製品の栄養バランスが整い、ペットの健康維持に大きく寄与します。
コーティングが終了したキブルは、まだ熱を帯びており、表面にもわずかな水分や油分が残っている状態です。このまま包装してしまうと、袋の中で蒸れて結露が起きたり、カビの発生や劣化につながる恐れがあります。そこで欠かせないのが、冷却工程です。
冷却は主に冷風を利用したクーリングトンネルや冷却コンベアで行われます。コーティング直後のキブルを常温までしっかり冷やすことで、油分の定着を促すとともに、余分な湿気を飛ばし、製品の安定性を高める役割を果たします。
この工程が適切に行われることで、パッケージ内での結露防止、品質保持、そして製品の長期保存性の向上が実現されます。