犬も人間と同じようにアレルギーに悩まされることがあり、その症状はかゆみや消化器系の問題として現れることが多いです。しかし、ドッグフードに適切な栄養素を取り入れることで、これらのアレルギー症状を緩和し、犬たちの生活の質を向上させることが出来るかもしれません。本記事では、犬のアレルギー改善に繋がる可能性のある栄養素について詳しく解説し、犬の健康をサポートするためのドッグフード開発のヒントをお届けします。
脂肪酸
アレルギー疾患を持つ犬は、皮膚における脂肪酸レベルの低下や脂肪酸代謝の障害を持っていることがわかっています。そのため、適切に脂肪酸を供給することは犬のアレルギー管理において重要であると認識されています。
おそらく皆さんは、魚油の脂肪酸が犬に対して持つ多くの利点について聞いたことがあるでしょう。一方で、アレルギーに効果的な脂肪酸を含む油は、魚油だけではありません。
多価不飽和脂肪酸、特にオメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)、またオメガ6脂肪酸であるガンマ-リノレン酸(GLA)は、犬のアレルギー症状の緩和に寄与することが示されています。
これらの必須脂肪酸の適切なバランスは抗炎症作用を持ち、犬の免疫系をサポートし、アレルギー症状を和らげ、さらに皮膚バリアを保護するのに役立ちます。
したがって、犬のアレルギーに対して、魚油(優れたオメガ3脂肪酸)に加えて、フラックスシードオイル、大豆油、鶏脂、菜種油などのオメガ6脂肪酸が豊富なものも検討してみて下さい。
研究結果が示すもの
最近の研究では、魚油とイブニングプリムローズオイルのブレンド(EPA、DHA、GLAを提供)の投与、そしてオメガ6:オメガ3比が5.5:1の割合でアレルギー性の犬に毎日投与することで、かゆみや脱毛を含む症状の重症度が改善したとあります。しかし、より慢性的で重度の症状を持つ犬は、大きな効果はありませんでした。
また別の研究では、魚油とボラージオイル(EPA、DHA、GLA、リノール酸(LA)の供給源)を受けたアレルギー性の犬が臨床症状の改善と免疫抑制薬の使用量の減少を示しました。
さらに、異なる服用量で魚油とボラージオイルを一緒に与えた場合、犬の皮膚状態とアレルギー症状が改善し、さらに量を増やすことでより大きな効果が見られました。
脂肪酸と犬のアレルギーに関する研究は続いており、オメガ3とオメガ6脂肪酸の両方が重要な役割を果たしていることは明らかです。
ビタミンE
通常、ビタミンE(トコフェノール)は犬の皮膚に存在します。これは、必須の脂溶性ビタミンであり、強力な抗酸化物質で、犬の皮膚バリアを保護する上で重要な役割を果たします。それに対応して、アトピー性皮膚炎を持つ犬は、健康な犬と比較してビタミンEのレベルが著しく低いことが判明しています。
ある研究では、アトピー性皮膚炎を持つ犬にビタミンE(0.01mg/kg)を1日1回、8週間投与したところ、症状の重症度が大幅に改善しました。さらに、ビタミンEを投与された犬は、プラセボを与えられた犬に比べて、研究終了時に血漿値が著しく高かったことが報告されています。
別の研究では、ビタミンEを含むフードまたはサプリメントにて検証されました。アトピー性皮膚炎を持つ犬に与えられた皮膚用の食事には、1000 kcalあたり210 mgのビタミンEが含まれており(参考までに犬には毎日最低でも1000 kcalあたり8.4 mgのビタミンEが必要です)、かゆみ、ひっかき行為、赤みの軽減に役立つことが分かりました。
これらを総合すると、犬のアレルギーにおいてビタミンEがアレルギー改善の役割を果たすことが明らかです。ただし、最適な投与量などの理解を深める為には、さらなる研究が必要です。
ビタミンB群
犬のビタミンB群の欠乏症は稀ですが、皮膚状態の悪化と深く関連しています。ビタミンB群には、パントテン酸(B5)、ナイアシンアミド(B3)、ピリドキシン(B6)、およびビタミン様物質であるイノシトール(B8)とコリン(B4)が含まれ、犬の皮膚バリアとアレルギー性疾患の初期兆候に有益であることが示されています。
犬の皮膚バリア機能を改善するためにスクリーニングされた栄養素の中で、いくつかのビタミンB群(パントテン酸、コリン、ナイアシンアミド、プロリン、ピリドキシン、イノシトール)が最も優れた結果を示しました。
12週間の給餌試験では、パントテン酸、コリン、ナイアシンアミド、およびイノシトールが犬の皮膚バリアを維持するために最も効果的な栄養素の一部であることがわかりました。
この研究を受けて、より感受性の高い犬種であるラブラドールで、これらの栄養素がアトピー性皮膚炎の発症を防ぐかどうかの試験が行われました。そして、妊娠中のラブラドール・レトリバーとその子犬にビタミンB群の強化食を与えた結果、アトピー性皮膚炎に関するアレルギー症状の頻度が減少しました。
ビタミンAとカロテノイド
ビタミンAは脂溶性ビタミンであり、レチノールおよびその誘導体として広く分類されます。ビタミンAは犬にとって多くの重要な機能を持ち、その1つは皮膚の健康を保つ効果があります。ビタミンAの欠乏または過剰摂取は、犬の皮膚や被毛の状態の悪化と関連しています。
カロテノイドは、果物や野菜に見られる黄色または赤色の脂溶性色素です。ルテインとβカロテンは食事中の最も一般的なカロテノイドの2種ですが、実際には何百種類も存在します。βカロテンはプロビタミンAに分類され、犬はこれを体内でビタミンAに変換して使用することができます。
一方、ルテインはビタミンAに変換することはできません。しかし、ルテインとβカロテンの両方は強力な抗酸化物質であり、犬における酸化損傷の軽減や免疫サポートに効果があると示されています。
ある研究では、成犬(18~19ヶ月齢)にβカロテンを与えたところ、免疫機能が向上し、この効果は高齢犬でさらに顕著に現れました。犬にルテインを与えた場合も、免疫効果が見られました。
これらの免疫効果がアレルギーに与える影響は依然として不明ですが、ビタミンAとカロテノイドが犬のアレルギーに有益である可能性を示唆しています。
ビタミンC
ビタミンC(アスコルビン酸)は、犬の皮膚の健康を維持するために重要な抗酸化物質の一つであり、アレルギー性疾患に有益である可能性があるとされています。
驚くべきことに、犬は体内でビタミンCを生成することができるため、食事での摂取は必須ではありません。しかし、ビタミンCの補給によって血中ヒスタミン濃度を減少させ、アレルギー症状を軽減する作用があると言われています。
健康な犬にビタミンCを補給したところ、免疫システムにある程度の影響を与えることが確認されましたが、その反応は限定的でした。
一方、ある研究では、ビタミンCと他の抗炎症および抗菌成分との組合せにより、犬の皮膚の健康をサポートする結果を示し、これがアレルギー性疾患を含む犬の皮膚病に治療効果があると理論づけられました。
加水分解物
アレルギー症状の原因が環境アレルゲンであるかどうかを判断するには、食物アレルゲンを除外することが第一のステップとなります。これは、新奇タンパク質ドッグフードや加水分解タンパク質ドッグフードを用いて行うことができます。
多くの場合、犬が食物アレルギーを持つとき、それは通常タンパク質が原因となっています。加水分解されたタンパク質は、タンパク質構造を分解しますが、必須アミノ酸は保持されます。
これにより、タンパク質源として消費されても、犬や猫の体はそれを感知せず、アレルギー反応が引き起こされず、犬や猫はかゆみを発症することはありません。したがって、チキンのようなタンパク質源にアレルギー反応を示す犬でも、加水分解されたチキンには反応しないということになります。
注意点としては、低アレルゲン性を持つためにタンパク質加水分解物はできるだけ多くの低分子ペプチド(3000 Da未満)を含んでいる必要があります。
亜鉛
亜鉛は犬の体内で多くの役割を果たしており、その中にはアレルギー性皮膚疾患の発症に関連する可能性があるものも含まれます。
正常な皮膚の健康を維持するために重要であり、亜鉛は炎症および免疫システムの両方に寄与し、脂肪酸代謝に不可欠な要素です。アレルギー性疾患における亜鉛の研究は限られていますが、アレルギーを持つ犬の食事に亜鉛(65mg/1000kcal)を含めることで、アトピー性皮膚炎の症状(かゆみやひっかき行為)の改善が見られました。
同様に、バランスの取れた食事を与えられた健康な犬に、必須脂肪酸であるリノール酸(LA)と共に亜鉛(100mg/1000kcal)を補給したところ、被毛状態の改善が見られました。したがって、犬のアレルギーに対する亜鉛の効果が期待できますが、これを確証するためにはさらなる研究が必要です。
プロバイオティクス
プロバイオティクスは、多くの利益をもたらすことが示されています。アレルギーに関しては、特に「Lactobacillus rhamnosus GG」と「Lactobacillus sakei probio 65」という2つの細菌が、アレルギー症状に有益であることがある実験で示されました。
「Lactobacillus rhamnosus GG」をアトピー性皮膚炎を持つ妊娠中の母犬とその子犬に与えたところ、アレルギーの免疫指標に変化が見られ、プロバイオティクスが犬のアレルギー性疾患の予防に役立つ可能性が示唆されました。
また「Lactobacillus sakei probio-65」をアレルギーを持つ犬に与えたところ、アトピー性皮膚炎の症状が著しく改善されたことが確認されました。
プレバイオティクス
プレバイオティクスは、胃や小腸で分解・吸収されることなく大腸まで届き、腸内に生息する微生物の栄養源となる難消化性のオリゴ糖や、食物繊維などの食品成分を指し、健康な腸内細菌の発達と維持を促進します。
プレバイオティクスのアレルギー症状に対する効果についての証拠は、プロバイオティクスと比べてもさらに限定的ですが、アレルギー改善の関連性があることが以下のような実験で示唆されています。
マウス実験においては、プレバイオティクスであるフルクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、およびイヌリンがアレルギーに対する免疫効果を示しました。
犬に対しては、フルクトオリゴ糖(FOS)、マンナンオリゴ糖(MOS)、イヌリン(チコリー由来)などが免疫システムに影響を与える結果が出ており、これが犬のアレルギーに有益である可能性が示唆されていますが、さらなる検証が必要です。
イースト菌
人間の研究では、消化器の健康、風邪やインフルエンザへの効果にまで研究が進められていますが、犬に関する研究は初期段階です。
現在わかっているのは、イースト菌を多く摂取しても犬にとって安全であり、イースト菌はアトピー性皮膚炎を持つ犬には低下している抗体レベルの改善を促し、免疫機能、抗炎症効果を向上させる可能性があるということです。
これまでのところ、犬においてイースト菌がアレルギー症状の軽減や免疫機能の性質を持つことを示す研究はありませんが、その可能性には多くの人が関心を寄せています。