ペットを家族の一員として扱う飼い主が増える中、新たな学術研究が、特定の健康やウェルネスに関する表示がされたドッグフードに対して、飼い主がどれだけ多く支払う意思があるかを明らかにしました。

この研究は『Journal of Agricultural and Applied Economics(農業応用経済学ジャーナル)』に掲載され、アメリカを拠点とするペット用品専門のオンライン通販サイトChewy.comに掲載されている1,268種類のドライドッグフード製品を調査し、どのような健康志向の特性が価格を上昇させているか、またどの特性がそうでないかを明らかにしました。

この結果は、新製品を開発するペットフードメーカーにとって有益な情報になるに違いありません。

この研究は、プレミアム化やヒューマナイゼーション(人間化)といったトレンドが、飼い主にペットの食事の健康と安全への意識を高めさせていると指摘しています。これは、飼い主がペットを健康で幸せに保ちたいという思いから来ています。

「ペットは“外で飼う番犬”から“家族の一員”へと変化しました。ペットの食事は、その絆が現れる大きな側面の一つです。」と、本研究の共同著者であり、アーカンソー大学およびアーカンソー農業実験場の農業経済学助教授であるアンドリュー・アンダーソン氏は言います。

これらのトレンドの中で、ペットフード業界は2012年の659億ドルから2022年には1,236億ドルに成長したと、研究では統計会社Statistaの数字を引用して述べています。米国のペットフード市場は世界最大であり、2022年には530億4,000万ドルの売上を記録し、世界の総売上高に大きく貢献しています。

アンダーソン氏はさらに次のように付け加えます。「これに対応して、ペットフード業界は、人間向けの高級食品でよく見られるようなラベル表示を持つ製品が増えてきています。」

特定の健康特性によるプレミアム価格

アンダーソン氏と共著者であるカンザス州立大学の助教授ロニー・ホッブズ助教授は、ドライドッグフードが世界市場で支配的なシェアを持っていることから、今回はドライフードに着目して分析を実施しました。

そして、ブランド名によるバイアスを避けるため、ブランド名を除外した価格モデルを用いて、60ブランドのドライドッグフードを調査し、特定の健康特性に関する表示が価格にどのような影響を与えるかを明らかにしました。

最も高い平均価格(1ポンドあたり)が見られたのは、「アレルギー緩和」($3.89)、「体重管理」($3.52)、「敏感肌」および「消化に良い」(いずれも$3.19)などの表示がされた製品でした。

アレルギー緩和をうたった製品は、全体のわずか2%しか占めていなかったにもかかわらず、同じようなドッグフードと比較して17%も価格が高いことが分かりました。アンダーソン氏は、これは抗ヒスタミン剤などの追加成分による可能性があると述べています。

一方で、「デンタル・ブレスケア」($2.63)、「筋肉ケア」($2.72)、「免疫サポート」($2.74)といった表示がされた製品は、1ポンドあたりの平均価格が最も低いことも分かりました。

「たとえば『消化に敏感』という特性は、全製品の24%に含まれているにもかかわらず、平均より3.7%高いプレミアム価格になっています。」とアンダーソン氏は述べます。「このように高い数量と価格は、それらが需要によってもたらされる特性である事の一種の指標になります。

一方で、アレルギー緩和はわずか2%しか含まれていないのに17%高いプレミアム価格がついています。これは明確な証拠はありませんが、この場合は供給側の要因が大きい可能性が高いです。」

「高い数量と高い価格が共に見られる場合、それは“需要”があると想定できますが、数量が少ないのに価格が高い場合は、そうとは言い切れません。」とアンダーソン氏は説明しています。

健康への関心が購買欲を高める

ペットフード市場では、健康とウェルネス製品がますます重要となり、顧客の購買行動を高めるポイントとなっています。アンダーソン氏とホッブズ氏は、米国と英国における最近の研究を引用し、多くの犬が肥満であるか、歯・皮膚・腸などの少なくとも1つの健康障害を抱えていることを指摘しました。

ペット肥満予防協会(Association for Pet Obesity Prevention)の2022年の調査によると、米国の犬の59%が太りすぎ、または肥満と分類されました。これは2018年から3%の増加となっています。

英国の調査では、784の動物病院から無作為に選ばれた22,000頭以上の犬を対象にした結果、約66%の犬が少なくとも1つの健康障害を持っていることが分かっています。

ペットメーカーの戦略的意味合い

ホッブズ氏は、マーケターにとって今回の結果は、ある健康特性がどのくらいの頻度で製品に含まれており、どのような価格帯であるかを確認することで、その製品の需要を評価する材料として利用できると述べています。

製造業者はまた、複数のプレミアム関連属性を組み合わせた製品開発戦略を評価することもできると、ホッブズ氏は述べています。

例えば、「アレルギー緩和」と「消化に敏感」の両方に顕著なプレミアムが見られることは、複数の健康上の懸念に対応する専門的な処方における潜在的な機会を示していると言えます。

一方、「デンタルケア」など特定の健康表示に関連した製品は、これらの機能が主要な製品特性というよりは、補完的な特性として位置付けた方がよい可能性があると、アンダーソン氏は付け加えています。