私たち人間の健康や美容に良いとされ、広く親しまれているスーパーフード「チアシード」。実はこの小さな種子、犬にとっても非常に魅力的な栄養源であることをご存じでしょうか?

古代マヤ文明やアステカ文明では、エネルギーと持久力を支える重要な作物として重宝されてきたチアシード。現代では、その豊富な栄養素と機能性により、ペットフードの原材料としても注目を集めています。

本記事では、チアシードの基本情報から、犬の健康に役立つ5つの具体的な効果、さらにドッグフードのレシピ設計における応用のポイントまでを詳しくご紹介します。機能性フードの差別化やプレミアム化を目指す方にとって、必見の内容です。

チアシードとは?

チアシードはシソ科ミント属の植物(学名:Salvia Hispanica)の種子で、メキシコ南部および中央アメリカが原産です。

かつてはマヤ文明やアステカ文明で栽培されており、彼らの主食の一つであり、交易通貨としても使用されてたと言います。アステカの戦士やランナーたちは、チアシードを1日にスプーン1杯摂取するだけで、豊富なエネルギーと持久力を得ていたとも言われています。

長時間にわたって持久力をもたらしてくれる為、チアシードは魔法のような存在とされていました。その優れた栄養価から、チアシードはこれら古代文明にとって神聖な種とされ、宗教的な儀式や神々への供物としても使用されていました。

チアシードはシソ科ミント属の植物に属しており、白いチアと黒いチアの2種類があります。チアシードオイルは、保湿作用があるため多くの軟膏の成分として使われています。

犬はチアシードを食べれるのか?

はい、犬はチアシードを食べることができます。むしろ適量であれば、機能性原料としての活用が推奨される素材のひとつです。チアシードはビタミンB群、ミネラル、食物繊維、そして植物性のオメガ3脂肪酸(α-リノレン酸:ALA)を豊富に含み、健康維持や栄養強化の目的でドッグフードに応用するケースが増えています。

チアシードは、水分を含むと膨張してジェル状になる性質を持っており、満腹感のサポートや消化機能の改善にも寄与します。また、グルテンフリーでアレルゲンリスクが低い点も利点です。ただし、いくつか注意点もあります。

  1. 配合量の調整が必要(多量摂取は消化負担や水分吸収の影響を及ぼす可能性あり)
  2. ALAを主要なオメガ3脂肪酸源とする場合、EPA・DHAの補完も必要あり

このように、チアシードは犬にとって安全かつ栄養価の高い原材料であり、ドッグフードの機能性強化やプレミアム化を図る上で有望な食材です。

チアシードが犬に与える5つの効果

先述したように、チアシードは適量であれば犬にとっても良い食材です。チアシードはビタミンB群の優れた供給源であり、オメガ3脂肪酸、抗酸化物質、食物繊維、カルシウム、マグネシウム、リンなどのミネラルも豊富に含まれています。ここでは、チアシードが犬にもたらすいくつかの利点について説明します。

オメガ3脂肪酸:皮膚と被毛の健康をサポート

犬にとって、オメガ3脂肪酸はとても大切な栄養素です。というのも、ほとんどの犬の食事にはオメガ6脂肪酸が多く含まれており、それとのバランスをとるためにもオメガ3脂肪酸をしっかり補う必要があるからです。そして、オメガ3脂肪酸は次のような健康維持に関わっています。

  1. 免疫系
  2. 皮膚と被毛
  3. 関節
  4. 脳の発達と維持
  5. 目の発達と維持
  6. 体の成長

また、オメガ3脂肪酸は体内の炎症を抑えるのにも役立ちます。慢性的な炎症は多くの病気の根本的な原因となるため、犬に抗炎症作用のある食材を与えることが重要です。しかし、チアシードは本当にこれらすべてのオメガ3脂肪酸の利点を提供することができるのでしょうか?

チアシードはオメガ3脂肪酸の供給源としてよく知られており、サーモンの3倍の量のオメガ3脂肪酸があると言われています。ただし、注意点しなければならないのは、チアシードに含まれるオメガ3脂肪酸のタイプは、ほとんどがα-リノレン酸(ALA)であり、これは犬にとって効果的なオメガ3脂肪酸ではありません。

α-リノレン酸:炎症抑制と全身の健康サポート

α-リノレン酸(ALA)は必須脂肪酸である為、犬の体内では生成されず、食事から摂取する必要があります。チアシードはALAの優れた供給源です。(他にも種子、葉物植物、ナッツなどにも含まれます。肉や乳製品にもALAは含まれますが、それは動物たちがALAの豊富な食事をしているかどうかに依ります。)

ただし、ここで注意しておきたい点があります。チアシードに含まれるオメガ3脂肪酸の主成分は「ALA(アルファリノレン酸)」というタイプですが、犬の体はこのALAを、そのままでは十分に利用できません。

犬の体内では、ALAはまずSDA(ステアリドン酸)、次にETA(エイコサテトラエン酸)、そして最終的にEPA(エイコサペンタエン酸)という形へと、いくつものステップを経て変換されます。ですが、この変換はとても効率が悪いため、チアシードから必要な量のEPAを得るのは難しいのです。

つまり、チアシードだけをオメガ3脂肪酸の唯一の供給源として与えるのは不十分かもしれません。犬の健康をしっかりサポートするためには、EPAやDHAといった「体がすぐに使える形のオメガ3脂肪酸」を含む食材も、あわせて取り入れることが大切です。

食物繊維:腸内環境の改善と便通のサポート

チアシードは食物繊維が豊富で、34.4 g/100gの食物繊維が含まれています。チアシードに含まれる食物繊維のほとんどは「水溶性食物繊維」であり、これは消化可能な食物繊維(プレバイオティクス)です。

水溶性食物繊維は水分を吸収してゼリー状になります。水溶性食物繊維は、大腸で善玉菌によって発酵され、腸壁の健康を維持し、炎症を抑制する「短鎖脂肪酸」を形成します。

チアシード由来の水溶性食物繊維は、犬の胃の中で膨張して満腹感を与えます。したがって、チアシードは犬の食欲を満たすのに役立ち、肥満の予防にもなる可能性があります。

また、炭水化物の糖への変換を遅らせて血糖値の安定化を助けるため、糖尿病の予防にも役立つ可能性があります。そのため、チアシードはインスリンの正常な働きや感受性、血糖値の調整、グルコース耐性をサポートします。

食物繊維はまた、消化管を調整して便秘を緩和することができ、肛門腺の問題の緩和にも役立つ可能性があります。乾燥状態で与えると、消化管内の余分な水分を吸収することで下痢の改善にもつながるかもしれません。

抗酸化物質:抗酸化作用で健康維持

チアシードは、犬にとって抗酸化物質の優れた供給源でもあります。犬の体はフリーラジカルによる酸化ストレスを防ぐために、抗酸化物質を必要とします。

フリーラジカルとは、細胞がエネルギーを作る過程でできる「副産物」や、汚染やストレスなど外部の影響で生じるものです。これらのフリーラジカルは、細胞膜や細胞内の重要な成分である酵素やDNAを傷つけ、その機能を妨げます。

これが酸化ストレスと呼ばれるもので、病気や早期老化の原因になります。抗酸化物質は酸化ストレスの進行を遅らせ、犬の健康を保つのに役立ちます。

チアシードには、ケルセチン、ケンフェロール、クロロゲン酸、カフェ酸といった抗酸化物質が含まれています。これらの抗酸化物質は心臓や肝臓を守るのに役立ち、抗がん作用がある可能性もあります。

ミネラル:骨や関節の健康維持

チアシードは、全乳よりも多くのカルシウムを含み、生のホウレン草より多くの鉄分、ブロッコリーよりも多くのマグネシウムを含んでいます。また、リン、カリウム、銅、鉄、亜鉛の優れた供給源でもあります。

アルゼンチンのある研究では、チアシードを長期的にラットに与えたところ、骨密度の改善や肝臓・腸の健康向上が見られたと報告されています。

レシピ設計上の注意点

チアシードは、機能性原料として犬用フードに取り入れる価値のあるスーパーフードです。しかし、製品開発に活用する場合には、その栄養特性を理解し、慎重にレシピに組み込む必要があります。

配合量の目安と製品設計での役割

チアシードはオメガ3脂肪酸や食物繊維、ミネラルを豊富に含むことから、栄養強化の目的で少量を添加する形が一般的です。配合量は、最終製品の給餌設計やAAFCO/NRCの基準を踏まえて設定する必要がありますが、総量の0.5〜2%程度に抑える設計が多く見られます。

とくにオメガ3供給源として使用する場合は、ALA(α-リノレン酸)が主成分であり、EPA・DHAへの変換効率が低い点を考慮し、他のオメガ3原料(例:魚油、藻類油、緑イ貝など)との併用が推奨されます。