猫と炭水化物に関する話題は、たびたび議論の対象となります。飼い主が野生の猫が食べる肉食の習性を参考にして、猫も高タンパク・低炭水化物の食事を取るべきだと考えるのは理解できます。
しかし、市販のドライキャットフードのほとんどはタンパク質の割合が約40%で、炭水化物の割合がはるかに高いのです。これにより、猫が炭水化物を必要とするのか、そして炭水化物を消化できるのかという疑問が生じます。
飼い猫の為にバランスの取れた食事を与えたいと考える際に、炭水化物の含有量について知っておくべきことを以下にまとめました。
猫は炭水化物を必要とするの?
多くの飼い主は、猫は完全肉食動物である為キャットフードに炭水化物を含める必要はないと考えます。これは非常に混乱を招きやすいですが、実際には炭水化物はすべての哺乳類に必要です。
哺乳類の消化過程において、炭水化物はグルコース(ブドウ糖)に分解されます。グルコースは体の細胞にエネルギーを供給し、彼らの活動を支えます。つまり、猫の食事にも炭水化物は必要なのです。
また、猫は炭水化物に含まれる繊維を使って、消化器系を正常に機能させています。タンパク質には繊維が含まれていないため、炭水化物を完全に排除すると、便秘や他の消化器系の問題が発生する可能性があります。
とはいえ、猫が他の哺乳類に比べて必要とする炭水化物の量は非常に少ないです。猫の必要量は犬と比べてかなり少ないですが、いくつかの炭水化物は必要であり、完全に炭水化物を排除した食事は、猫に十分なエネルギーを供給できません。
そして、炭水化物の供給源も重要です。たとえば、猫は炭水化物を穀物から摂取する必要がありません。炭水化物は適切なビタミン、ミネラル、繊維が含まれている野菜や果物など植物由来のリソースからでも摂取できます。
炭水化物と糖尿病の関係性
多くの猫の飼い主は、炭水化物が多すぎると糖尿病のリスクがあるため、猫に多くの炭水化物を与えることを恐れます。猫は他の哺乳類のように炭水化物を消化できないため、炭水化物が多すぎると血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まると考えられています。
しかし、ある研究によれば、室内での生活、運動不足、そして肥満が糖尿病の大きなリスク要因であり、炭水化物が多い食事ではありません。バランスの取れた食事と定期的な運動が、糖尿病から守るために重要です。
野生ネコと家ネコの違い
家ネコと野生ネコは同じ起源を共有していますが、食生活はまったく異なります。多くの飼い主が猫により本来の食事に近いものを提供しようと、キャットフードや缶詰をやめ、野生ネコの食事に近いと思われる新鮮なフードを与えますが、この方法では炭水化物を摂取出来ない可能性があります。
確かに野生ネコが野菜や果物を食べる姿をほとんど見かけませんが、実は彼らも炭水化物を摂取しています。野生ネコは獲物を捕らえた後、獲物を丸ごと消費します。これは、獲物の胃の内容物などを含み、これが炭水化物の供給源となります。
チーターは家ネコに近いとされている野生ネコですが、彼らは獲物(草食系動物)の胃の内容物(植物)をまず食べることがあります。これにより、植物由来の食物を摂取し、バランスの取れた食事を維持しています。
しかし、家ネコは通常、缶詰やドライフードを食べており、生きた獲物を摂取していません。たとえ新鮮な生肉を食べたとしても、獲物全体を食べるわけではなく、胃の内容物を摂取することはできません。そのため、家ネコには別の方法で炭水化物を与える必要があるのです。
どのように炭水化物を処理するの?
一般的にキャットフード(ウェット、ドライ)に含まれる炭水化物の主成分はデンプン(多糖類)です。したがって、ここではデンプンがどのように消化され、猫の体にエネルギーとして利用されるかについて説明します。
本来デンプンは猫にとって消化しづらい物質です。しかし、加熱によってデンプンが糊化すると、消化しやすくなります。例えば、ドライフードはエクストルーダー製法により、デンプンが100-160℃で加熱されるので糊化され、猫の体内ではデンプンからグルコースに分解されやすくなります。
猫の体内で吸収されたグルコースは、門脈という血管を通って全身に運ばれます。血液中にあるグルコースは「血糖」と呼ばれ、体の細胞に取り込まれてエネルギーとして使われます。
多量摂取は要注意
しかし、猫にとってデンプンの多量摂取は注意が必要です。というのも、猫の唾液にはデンプンをグルコースに分解するアミラーゼという酵素が含まれていないのに加え、膵臓から分泌されるアミラーゼの量も少ない為、多くのデンプンを処理することができません。
炭水化物における理想の割合
炭水化物は猫の食事に必要ですが、摂取量を制限する必要があります。ある専門家は野生の猫が炭水化物を摂取する量と同じ割合の10-15%を推奨しています。しかし現実的に考えると、炭水化物の割合を30%以下に抑えれると良いという意見が多いです。
炭水化物の計算方法(%):100%-タンパク質-脂質-灰分-水分
AAFCO基準の場合
米国飼料検査官協会(AAFCO)は、ペットフードメーカーに炭水化物の含有量を表示することを要求しておらず、猫用フードに炭水化物の要件は設けられていません。しかし、AAFCOは粗タンパク質の基準を定めており、成猫の場合は26%、粗脂肪は9%が推奨されています。
また、特定のミネラル、ビタミン、粗繊維の基準もあります。これらの比率と栄養素を満たしている場合、AAFCOは炭水化物の含有量に関係なく、そのフードを「総合栄養食」として認定しています。
バランスの取れた食事の重要性
猫が健康で幸せな生活を送るためには、バランスの取れた食事が必要です。このバランスが取れた食事というのは、ペットフード業界では「プロテインフォワード」と呼ぶれており、つまりキャットフードの中で最も高い割合を占める栄養素がタンパク質であるという意味です。
しかし、猫にタンパク質だけの食事を与えれば良いという訳ではありません。新鮮な魚や肉だけでは猫に必要な重要なビタミン、ミネラル、繊維が不足してしまいます。
バランスの取れた食事を与えることで、血糖値の安定が保たれ、最適な体重管理が可能となります。また、エネルギー生成に必要な炭水化物を摂取することも猫にとって大切な要素です。
炭水化物がもたらす食物繊維
炭水化物が非常に少ない食事が猫にとって良くない理由の1つは、食物繊維が不足することです。食物繊維は通常炭水化物から供給され、猫にとって非常に重要です。
猫は自分で舐めて毛づくろいをするため毛玉が体内に溜まってしまうことがありますが、食物繊維はそれらの毛玉を絡めとりお腹の調子を整えてくれる作用があります。
猫にとって必要不可欠なアミノ酸
猫のフードについて議論する際、アミノ酸について触れないわけにはいきません。炭水化物の摂取とは関係ありませんが、アミノ酸は猫にとって無くてはならない有機化合物です。
例えば、タウリンは猫が食事から摂取しなければならないアミノ酸の1つです。猫はタウリンを体内で生成することができないため、食事から摂取する必要があります。タウリンは質の高い肉類に含まれ、心機能や視力に重要なアミノ酸です。
また、アルギニンは猫が食事から摂取しなければならないもう1つのアミノ酸です。タウリンとは異なり、アルギニンは体内で生成することができますが、十分な量を生成することができません。
アルギニンは尿路系でアンモニアを尿素に変換する役割を果たし、アルギニンが不足すると、血中にアンモニアが蓄積し、特に中枢神経系に強く働き、意識障害が生じることがあります。