ペットフードの開発・販売に携わる方なら、「AAFCO基準」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。AAFCO(米国飼料検査官協会)は、ペットフードの栄養基準やラベル表示に関するガイドラインを定める業界の指標となる存在です。
特に「総合栄養食」として市場に出すためには、AAFCOの栄養基準を満たすか、給餌試験をクリアする必要があるため、多くのメーカーがその基準を採用しています。
しかし、AAFCOは認証機関ではなく、直接的な規制権限も持ちません。それにもかかわらず、なぜ世界中のメーカーがAAFCO基準を重視するのでしょうか?また、日本市場においてAAFCO基準はどのような位置づけにあるのでしょうか?
AAFCOとは?
「AAFCO」という文字がペットフードのパッケージング裏側に記載されているのを見たことがあるかもしれませんが、AAFCOとは何でしょうか?そして、なぜ注意すべきなのでしょうか?
AAFCOは「アメリカ飼料検査官協会(Association of American Feed Control Officials)」の略で、ペットフードのラベル、栄養成分、成分定義、給餌試験、実験室分析などの基準を設定する非営利団体です。
AAFCOは、動物の健康、安全、福祉をサポートし、犬や猫が摂取すべき栄養素を科学的研究と実験室試験に基づいて定めた栄養プロファイルを作成しています。例えば、AAFCOのドッグフード栄養プロファイルは、栄養成分分析やAAFCO準拠の給餌試験によって裏付けられています。
AAFCOはペットフードを承認または規制するのか?
AAFCOは、ペットフードに関する規制権限を持つわけではない為、メーカーやレシピを「承認」することはありません(これは食品医薬品局FDAが実施している)。そのため、「AAFCO基準のキャットフード」や「AAFCO推奨のドッグフード」という表現は、そのペットフードがAAFCOの栄養基準を満たしていることを意味します。
AAFCOは直接的にペットフードをテスト、規制、認証することはありませんが、FDAのパートナーや州機関と密接に連携して、すべてのペットフードが安全に製造され、適切にラベル表示されていることを確認しています。FDAの職員は、AAFCOの複数の委員会、特にペットフード委員会や理事会にも参加しています。
また、いくつかの州は独自のペットフード規制を実施しています。例えば、ニューヨーク州のような州は、AAFCOの「モデル法案」の更新や規制変更を基に独自の法律を作成していますが、これは必須ではなく、各州で異なります。
AAFCOの目的
AAFCOのガイドラインは、ペットの健康と栄養に関するものです。また、AAFCOには多くの重要な役割と責任があります。これらには以下が含まれます。
- ペットの飼い主に正確な情報を提供し、ペットフードに関する疑問を明らかにすること。(AAFCOのメンバーは現役の獣医師ではないため、獣医的な医療アドバイスや推奨は行いません。)
- 動物飼料(ペットフードを含む)について製造業者が明確で正確な情報を提供できるようにするための規制モデルを確立すること。
- AAFCOのドッグフード&キャットフード栄養プロファイルを作成・維持し、必須栄養素の最小必要量を明確にすること。
- 標準化された給餌試験方法を設定すること。ペットフードの製造業者は、AAFCOの栄養基準を満たす製品を製造するか、AAFCOが推奨する給餌試験を実施することができます。
- 州の規制当局を指導するためのモデル法案の更新と規制を作成すること。
- 世界中のペットフード規制当局に対して、ラベル定義と基準に関する指針を提供すること。
- 規制当局や製造業者向けの研修セミナー、ワークショップ、イベントを開催すること。
- アメリカの商業飼料製品に新しい飼料成分が使用される際の「成分定義申請プロセス」を監督すること。これは、FDAとの覚書(MOU)に基づいて行われます。
AAFCO基準の定義
ドッグフードのパッケージに記載されているAAFCO基準とは、AAFCOによって定められた必須栄養素のプロファイルを満たすことを意味します。
この基準は、アメリカ産ドッグフードにはほぼ必ず記載されていますが、AAFCOが世界で最もよく知られた基準であるため、日本を含む多くの国の製品でもよく見られます。この基準は、特定のライフステージに必要なすべての栄養素がそのフードに含まれていることを確認するためのものです。
AAFCOが定めるライフステージには、「成犬」と「成長期・繁殖期」があり、さらに最近では大型犬向けの追加ガイドラインも策定されています。
栄養素
栄養素 | 単位 (乾燥時) | 成長期・繁殖期 (最低値) | 成犬期 (最低値) |
---|---|---|---|
粗タンパク質 | % | 22.5 | 18.0 |
アルギニン | % | 1.0 | 0.51 |
ヒスチジン | % | 0.44 | 0.19 |
イソロイシン | % | 0.71 | 0.38 |
ロイシン | % | 1.29 | 0.68 |
リシン | % | 0.9 | 0.63 |
メチオニン+シスチン | % | 0.7 | 0.33 |
メチオニン | % | 0.35 | 0.65 |
フェニルアラニン+チロシン | % | 1.3 | 0.45 |
フェニルアラニン | % | 0.83 | 0.74 |
スレオニン(トレオニン) | % | 1.04 | 0.48 |
トリプトファン | % | 0.2 | 0.16 |
バリン | % | 0.68 | 0.49 |
粗脂肪 | % | 8.5 | 5.5 |
リノール酸 | % | 1.3 | 1.1 |
α-リノレン酸 | % | 0.08 | N/A |
エイコサペンタエン酸+ドコサヘキサエン酸 | % | 0.05 | N/A |
(リノール酸+アラキドン酸):(α-リノレン酸+エイコサペンタエン酸+ドコサヘキサエン酸)の比率 | % | – | – |
ビタミン&その他
ビタミン&その他 | 単位 | 成長期・繁殖期 (最低値) | 成犬期 (最低値) |
---|---|---|---|
ビタミンA | UI/kg | 5,000 | 5,000 |
ビタミンD | UI/kg | 500 | 500 |
ビタミンE | UI/kg | 50 | 50 |
チアミン(ビタミンB1) | mg/kg | 2.25 | 2.25 |
リボフラビン(ビタミンB2) | mg/kg | 5.2 | 5.2 |
パントテン酸 | mg/kg | 12 | 12 |
ナイアシン | mg | 13.6 | 13.6 |
ピリドキシン(ビタミンB6) | mg | 1.5 | 1.5 |
葉酸 | mg | 0.216 | 0.216 |
ビタミンB12 | mg | 0.028 | 0.028 |
コリン | mg | 1360 | 1360 |
ミネラル
ミネラル | 単位 | 成長期・繁殖期 (最低値) | 成犬期 (最低値) |
---|---|---|---|
カルシウム | % | 1.2 | 0.5 |
リン | % | 1 .0 | 0.4 |
カルシウム:リン比率 | % | 1:1 | 1:1 |
カリウム | % | 0.6 | 0.6 |
ナトリウム | % | 0.3 | 0.08 |
塩化物 | % | 0.45 | 0.12 |
マグネシウム | % | 0.06 | 0.06 |
鉄 | mg/kg | 88.0 | 40.0 |
銅 | mg/kg | 12.4 | 7.3 |
マンガン | mg/kg | 7.2 | 5.0 |
亜鉛 | mg/kg | 100.0 | 80.0 |
ヨウ素 | mg/kg | 1.0 | 1.0 |
セレン | mg/kg | 0.35 | 0.35 |
また、日本で販売されているAAFCO基準に準じたペットフードには、その栄養適合性がどのように証明されたのかも記載されています。これには以下の2つの方法があります。
AAFCO基準の評価方法
- ラボ分析による証明
この方法では、ペットフードのサンプルを採取して実施される実験室分析により、製品がAAFCOの基準を満たしているか確認されます。基準を満たしていれば、ラベルには「この商品は、ペットフード公正取引協議会の定める分析試験の結果、総合栄養食の基準を満たすことが証明されています。」と記載されます。
- 給餌試験による証明
実験室分析に加えて、この方法では実際の犬に対して給餌試験を行い、フードの栄養価を実証します。この方法を採用する場合、ラベルには「この商品は、ペットフード公正取引協議会の定める給餌試験の結果、総合栄養食であることが証明されています。」と記載されます。
日本でAAFCO認証は必要?
結論:いいえ、日本のペットフードは必ずしもAAFCO基準を満たす必要はありません。
日本では、ペットフードの安全性や栄養基準については**「ペットフード安全法」**(2009年施行)によって規制されています。この法律に基づき、農林水産省と環境省が定める基準に従う必要があります。しかし、アメリカのAAFCOのように、ペットフードの栄養基準を定める独自のガイドラインはありません。
そのため、日本のペットフードメーカーの多くは、国際的に認知度の高いAAFCOの栄養基準を参考にして製品を開発しています。ペットフードのパッケージに「AAFCO基準を満たす」と記載されている製品が多いですが、これはAAFCOによる認証ではなく、メーカーが独自に基準を満たしていると証明しています。
また、日本のペットフード業界団体である**「一般社団法人ペットフード協会」は、AAFCOやヨーロッパのFEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)**の基準を参考にしつつ、品質や安全性の向上を図っています。
日本で総合栄養食と記載する為に
しかし、ペットフード安全法(日本)における「総合栄養食」の条件については、ペットフードの栄養バランスを保証するために、いくつかの条件を満たす必要があります。この条件は主に、栄養バランスが適切であることや製品が特定の基準を満たしていることを確認するために設けられています。
総合栄養食の条件
- AAFCO(FEDIAF)基準への準拠
日本のペットフード安全法では、栄養成分に関する具体的な基準は設けられていませんが、AAFCO(米国飼料管理官協会)の栄養基準やFEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)の栄養ガイドラインなど、国際的な基準が参考として広く用いられています。多くの製品は、これらの基準に基づいて製造され、「総合栄養食」として認められるための要件を満たす必要があります。
- 給餌試験またはラボテストの実施
製品が総合栄養食として適切かどうかを証明するために、給餌試験(フィーディングトライアル)やラボテストが行われることが一般的です。給餌試験を通じて、実際に犬や猫に食べさせ、その健康状態を監視しながら栄養バランスが適切であることを確認します。もし給餌試験が行われていない場合は、栄養成分をラボで分析して基準を満たすことが求められます。