米国市場では、プライベートブランド(以下、PB)の成長がナショナルブランド(以下、NB)を上回っています。2024年には、PBの売上高成長率が3.9%と、NBの1%を大きく上回り、その差は約4倍に達しました。単位販売量でも、PBが2.3%増加したのに対し、NBは0.6%減少しています。
ペットケア分野でも同様の傾向が見られ、PBは売上高で1.7%増(53億ドル)、単位販売量で3.5%増という堅調な成長を遂げています。これは、PBに対する消費者の品質・栄養面での評価が高まり、価格や利便性が購買決定における重要な要素として再認識されていることを示しています。
小売業者もPBへの投資を拡大しており、品質と価値をより強く訴求するためにパッケージデザインのプレミアム化を進めています。消費者が「品質を損なわずに節約できる」ことに気づき始めた今、PBセグメントの市場シェアはさらに拡大していくと見込まれます。
市場環境の変化とプライベートブランド
現在、米国のペットフード市場は、消費者行動の変容と経済的プレッシャーが交差する重大な転換期にあります。この状況は、PBにとって市場構造を再定義し、永続的なリーダーシップを確立するための、またとない好機を示しています。
しかし、このチャンスは永続的なものではありません。本提言は、この好機を最大限に活用し、受動的な追随者から市場の主導者へと飛躍するための行動計画を示すものです。早速ですが、近年の市場データはPBがNBを凌駕する成長を遂げています。
| 指標 | PB(2024年) | NB(2024年) |
|---|---|---|
| ドル売上高成長率 | +3.9% | +1.0% |
| ユニット販売数量成長率 | +2.3% | -0.6% |
Private Label Manufacturers Association (PLMA)によれば、2024年における米国のPB製品全体の総売上高は過去最高の2,705.8億米ドルに達しました。ペットケア市場に目を向けると、Cascadia Capitalは同年のPB売上高を53億ドルと報告しており、PLMAのデータでは、ドルシェアで16.5%、ユニットシェアでは17.6%を占めるなど、確固たる地位を築いています。
この躍進の背景には、ADMのColton Clason氏が指摘するように、消費者の認識の根本的な変化があります。「製品の品質と栄養に対する認識が向上し、利便性や価格といった要因がより影響力のある購入動機となっている」のです。かつての「安価な代替品」というイメージは払拭され、PBは品質と価格を両立させる「賢明な選択肢」として認知されつつあります。
しかし、この追い風は、同時に従来のPBビジネスモデルが内包する構造的脆弱性を浮き彫りにしています。現在の成功に満足することは、未来の機会を逸することを意味します。次の成長ステージへと移行するためには、現行モデルを直視し、より能動的かつ革新的な戦略へと転換することが必要です。
現行PBモデルの課題と限界
持続的な成長を実現するためには、現在の成功を支えるビジネスモデルを深く分析し、その内に潜む戦略的リスクを認識することが不可欠です。現行モデルは効率性に優れる一方、市場の進化に対する深刻な脆弱性を内包しています。
Colton Clason氏の分析の通り、現在のPBビジネスモデルは市場創造ではなく、コスト効率を最適化する為に「スピード&模倣」を基本戦略としています。
その本質は、中間業者を排除した直接調達や、店舗内の「captive audience(ロイヤルカスタマー顧客)」への依存によるマーケティング費用の抑制を通じて、NBの類似品を低コストで提供することにあります。この「模倣」を基本とするモデルは、以下の3つの致命的なリスクを抱えています。
差別化の欠如
無数の選択肢が氾濫するペットフード市場において、単なる模倣は消費者の注意を惹きつける力を持ちません。価格以外の明確な価値提案がなければ、製品はコモディティ化の波に埋没してしまいます。
ブランドエクイティ構築の欠如と、店舗トラフィックへの過度な依存
店舗への来店客に依存する受動的なモデルは、顧客の能動的なブランド指名を促すことができず、真のブランドロイヤルティを構築できません。これは、競合が提供する魅力的なイノベーションに対し、顧客基盤が常に脆弱であることを意味します。
ナショナルブランドの革新性への脆弱性
NBが科学的根拠に基づくイノベーションや新たなソリューションで付加価値を創造し続ける一方、模倣に留まるPBは、消費者が真に求める価値提供の機会を逸しています。
この脆弱性は、ADMの調査結果によって明確に数値化されています。「世界のペットオーナーの77%が、機能的な利点をもたらす製品に対しては、より多く支払う意思がある」という事実は、現行モデルが巨大な高価値市場を取りこぼしている動かぬ証拠です。
これらの課題は、PBが「低価格な代替品」という枠組みから脱却できない根本原因です。この限界を突破することこそが、次の成長段階へ進むための絶対条件であり、以下に示す戦略提言の基盤となります。
シェア拡大に向けた3つの戦略的提言
これまでの分析で明らかになった課題を克服し、市場機会を戦略的に掌握するため、以下の3つの戦略的転換を提言します。これらは、受動的な「模倣」モデルから脱却し、消費者に積極的に選ばれるブランドへと進化するための戦略となります。
「模倣」から「価値創造」へ
最優先課題は、単純な製品模倣からの完全な脱却です。Euromonitorのレポートが示す通り、現代の消費者は「付加価値を期待」しています。価格競争から脱却し、独自のブランド価値を構築するため、以下のイノベーションを推進します。
科学的根拠に基づく付加価値提案
ADMの調査によると、「飼い主の77%が機能性フードに対して追加の支払いをいとわない」という強力なインサイトが示されています。このデータを基盤に、消化器サポート、皮膚・被毛ケア、関節の健康維持など、臨床的に効果が検証された機能性成分を配合した製品レシピを開発します。これにより、競争の焦点を「価格」から「付加価値(機能性・効果)」へとシフトさせることが可能になります。
独自の感覚的価値の追求
NBがまだ手を伸ばしていない領域で、PBは独自の存在感を確立します。斬新なフレーバーやユニークな食感、ペットの食欲を刺激するパラタントなど、ペットの感覚体験を豊かにしつつ、飼い主にとっても魅力的な物語性を備えた要素を取り入れていきます。
認知方法の改善
Euromonitorのレポートによれば、「消費者の約4分の3が日用品の価格上昇を懸念している」一方で、品質や利便性のためであれば支出を惜しまない傾向が見られます。この動きは、PBがもはや単なる低価格路線から脱却すべきであることを示唆しています。
Colton Clason氏が指摘するように、一部のストアブランドでは、手頃さだけでなく品質と価値を訴求するために、よりプレミアム感を意識したパッケージデザインが主流となりつつあります。これは、パッケージが単なる包装材ではなく、ブランド価値を伝える重要なコミュニケーションツールへと進化していることを意味しています。
洗練されたデザインや高品質な素材、そして製品の便益を明確に伝えるパッケージングは、消費者の品質認識を高め、ブランドへの信頼を育みます。このプレミアム化戦略は、顧客ロイヤルティを獲得し、PBを店舗独自の「フラッグシップ」へと押し上げるための不可欠な要素です。
新たな価値提案の構築
Cascadia Capitalのレポートが指摘するように、消費者は「品質を大きく犠牲にしなくても節約できる」ことに気づき始めています。こうした消費者心理の成熟は、PBの価値提案を根本から再定義する絶好の機会です。
もはや「NBより安い」という従来型の価値訴求は通用しません。これから求められるのは、「革新的な製品を、手の届く価格で提供する」という前向きで新しい提案、すなわち「アクセス可能なイノベーション」です。これは、前述の製品イノベーションとプレミアム化戦略を掛け合わせることで実現できます。
この新しい価値提案こそが、PBを単なるNBの代替品から、消費者が自ら選び取る「独立したブランド」へと進化させる原動力となるのです。
結論と今後に向けた戦略
市場環境は、プライベートブランドにとって追い風であることに疑いの余地はありません。しかし、その恩恵を享受し、持続的な成功を収めることができるのは、従来の「模倣」モデルから決別し、革新と価値創造へと大胆に舵を切った企業のみです。
本提言の核心は、以下の3つの戦略的柱に集約されます。
- 製品革新:模倣から脱却し、科学的根拠に基づく機能性と独自の価値で市場をリードする。
- プレミアム化戦略:パッケージングと品質訴求を通じて、消費者の信頼とブランドエクイティを構築する。
- 新たな価値提案:「安さ」から「アクセス可能なイノベーション」へと進化し、ブランドの定義を再構築する。
これからも他社が定義した市場の受動的な追随者であり続けるのか、それともペット栄養における新たな価値を自ら構築する設計者となるのか。本記事は、後者を実現するための青写真です。