ペットは家族の一員として、特に高齢犬には健康をサポートする適切な栄養が欠かせません。しかし、高齢犬のライフステージに合わせた特別なドッグフードの開発は、一筋縄ではいきません。消化吸収のしやすさ、関節や免疫力のサポート、そして美味しさを両立させることが求められます。

本記事では、高齢(シニア)犬向けドッグフード開発のポイントを解説します。愛犬家のニーズを満たす高品質なドッグフード製品を作るためのヒントとしてぜひ参考にしてみてください。

高齢(シニア)犬とは何歳から?

実は、「シニア犬」とみなされる年齢について医学的に定義されているわけではありません。犬の年齢は、主にサイズと体重でそれぞれ異なってきます。

例えば、グレートデーンのような超大型犬は寿命が短く、5-6歳頃からシニアと見なされます。一方、ビーグルのような小型犬は寿命が長く、8-9歳頃にシニア期を迎えることが多いです。

ただし、これらの年齢に達しても非常に健康な犬達も多くいます。将来的には、遺伝子検査によって高齢期がいつどのように始まるかについて、さらに詳しく分かるかもしれません。

シニア犬の老化の兆候

・視力の問題
・しこりや皮膚の異常
・体重の増減
・口臭、過剰なよだれ
・歯の問題

多くのシニア犬の場合、上記のような老化の兆候が表れ始めますが、さらに以下のようなより深刻な症状が見られることもあります。

・記憶喪失
・行動の変化(混乱、怒りっぽさ、性格の変化など)
・通常の睡眠パターンが崩れる
・筋肉量の減少
・尿の回数が増える(腎疾患の可能性)または尿失禁
・骨関節炎
・移動回数・距離の低下

シニア犬用フードと通常のフードの違い

シニア犬用フード、成犬用フード、「全年齢対応」とラベル表示されたフードの間に違いはあるのでしょうか?実はそんなに大きな差はありません。

実際のところ、一部の製品は中身がまったく同じで、マーケティングの観点から異なるパッケージが使用されているだけの場合もあります。現在、シニア犬向けと謳われたドッグフードに関する規制は存在しないため、この点について多くの混乱が生じているのが事実です。

シニア犬用フードに大切な要素

ただし、犬が年齢を重ねるにつれて発現する身体能力の衰えを和らげるドッグフードの要素がいくつかあるのは確かです。シニア犬の食事が成犬用の食事と異なる点の一例を以下に挙げます。

  1. 栄養素の調整
  2. 消化しやすさの向上
  3. 歯科疾患に対処するためのフード
  4. 関節サプリメントの追加
  5. MCT、DHA、抗酸化物質の追加

1. 栄養素の調整

犬によっては、加齢してもドッグフードの栄養構成を調整する必要がない場合もありますが、活動レベルの低下や基礎疾患などの要因によって、シニア犬に適した栄養素の調整が必要になることがあります。

より多くのタンパク質が必要

シニア犬のタンパク質貯蔵は若い犬に比べて速く消耗され、人間と同様に加齢に伴って筋肉量が減少し始めることがあります。より多くのタンパク質によって十分なアミノ酸を供給し、高齢犬の筋力と可動性を維持します。

そのため、シニア犬用の食事には理想的には1,000キロカロリーあたり75グラム以上のタンパク質が含まれると良いでしょう。ただし、これには注意点があります。タンパク質量が増えるとリンの含有量も増加する傾向があり、腎臓病を持つシニア犬ではリンの摂取量を減らすことが推奨されます。

腎臓病が一定の段階に達すると、リンの制限が病気の進行を防ぐために重要となります。ただし、タンパク質を制限する必要があるかどうかについては意見が分かれています。明らかなのは、高タンパク質の食事が犬の腎臓病の発症リスクを高めると関連付けられた報告は一度もないという点です。

より多い、又は少ない脂肪が必要

一部のシニア犬は体重を維持するのに苦労します。もし愛犬が体重を落とし始めたら、食欲、カロリーの必要量、消化に影響を与える可能性のある基礎疾患があることを理解しておかなければなりません。

その上で筋肉量の減少が問題であれば、高タンパク質の食事が重要です。それ以外の理由で体重が減っている場合、脂肪分の多い食事が良いかもしれません。

一方、肥満に悩むシニア犬には脂肪分を抑えた食事が適している場合があります。

より多い、又は少ない食物繊維が必要

食物繊維には、水溶性と不溶性の2種類が存在します。

  1. 水溶性食物繊維:
    水溶性食物繊維は水に溶けるため、犬の結腸に到達すると、善玉菌のエサとして働き、消化を助けます。そのため、水溶性食物繊維は「プレバイオティクス」と呼ばれ、これらの善玉菌の成長を促進します。
     
  2. 不溶性食物繊維:
    不溶性食物繊維は溶けず、腸を通過する際に便をかさ増しすることで排便を促します。また、満腹感を与えるため、適切な体重を維持する事にも繋がります。

サイリウムハスクなどの食物繊維は、水溶性と不溶性食物繊維の両方を含み、シニア犬用ドッグフード向けに消化器全般のサポートを改善するために使用されることが多くあります。便秘に苦しむシニア犬には、食物繊維が多いフードによって規則的な排便に役立つ場合があります。

一方で、通常より食物繊維が少ないシニア犬向けドッグフードも存在します。これは、食物繊維が必須栄養素の吸収を減らす可能性があるためです。シニア犬にとってどのような食物繊維の調整(増加または減少)が最適かは、まだ明確にはわかっていません。

適切なカロリー(高い又は低い)

シニア向けに調整されたドッグフードの中には、カロリーが高いものと低いものがあります。適切なカロリー(1カップ当たり)は、愛犬が体重を増やす必要があるか、減らす必要があるかによって異なります。

  1. 体重増加の場合:
    例)1カップあたり450カロリー以上のドライフード、または1,000キロカロリーあたり50グラム以上の高脂肪食。
     
  2. 体重減少の場合:
    例)1カップあたり350カロリー未満のドライフード、または適正体重にあわせた分量の食事。

一般的には、シニア犬は若い犬ほど活発ではないため、低カロリー食品が好まれます。実際、犬の活動レベルは加齢に伴い3分の1から半分ほど減少すると言われており、それに伴い摂取カロリーも減らす必要があります。ただし、筋肉量が減少しているシニア犬には、獣医師によっては高タンパク質・高カロリーの食事を推奨する場合があります。

2. 消化しやすさの向上

犬の消化器官は加齢と共に変化しますが、それが栄養素の消化にどのように影響を与えるかについては、依然として研究が進められています。

2005年のある研究によると、加齢に伴い腸、結腸、細菌叢の変化が見られる一方で、加齢そのものが犬の消化能力を低下させているわけではないと報告されています。

それよりも、シニア犬は消化関連の疾患(例:食物アレルギー、炎症性腸疾患、大腸炎、膵炎)にかかりやすくなる可能性が高いと考えられています。

それでも、健康状態の有無にかかわらず、高齢の犬に最適な食事はその犬に合わせたものであることが一般的です。シニア犬用フードには、消化関連の変化に対応するための調整が行われていることが多く、例えば以下のような調整がされています。

  1. 水溶性食物繊維(プレバイオティクス)の追加
  2. 消化をサポートするための食材の追加

ただし、これらの調整がすべての犬に適している、あるいは必要であるとは限りません。結論として、犬は年齢に関係なく、それぞれ異なるレベルで食物を消化します。ドライフードや調理されていない食事よりも体が栄養を吸収しやすいフレッシュフードなどを検討してみてください。

3. 歯科疾患に対処するためのフード

歯科疾患のために歯を失った犬には、食事の際に大切なポイントがあります。それは、柔らかいフード(缶詰、ローフードなど)への切り替えです。ドライドッグフードを噛み砕くのは、弱った歯を持つシニア犬にとって難しい場合があります。

実際、市販されている多くの「歯科疾患の犬専用」と記載されたドッグフードは、単に通常のフードに水分を多く含ませたものにすぎません。ただし、一部には以下のような口腔の問題に対処する成分が含まれています。

  1. ヘキサメタリン酸ナトリウムやクエン酸などの添加物:
    歯石(歯に付着する硬く岩のような物質)を形成するミネラルが付着するのを防ぎます。
     
  2. プロバイオティクス:
    口腔の健康に役割を果たす可能性があります。

4. 関節サプリメントの追加

犬は加齢とともに関節炎を発症する可能性が高くなり、特に体重過多や肥満の犬ではそのリスクがさらに増加します。グルコサミンやコンドロイチンを補うことで、関節炎の症状を軽減する可能性があることが一部の研究で示されています。

これらの成分は、数か月後に効果が現れるのが一般的です。また、研究により、オメガ3脂肪酸のEPAおよびDHAが関節の炎症や関節炎の症状(立ち上がるのが難しい、痛み、跛行など)を軽減することが証明されています。

残念ながら、多くのシニア犬向けフードには、グルコサミン、コンドロイチン、EPA、DHAが十分に含まれていない場合があります。効果を得るためには、関節問題に特化したドッグフードでない限り、これらを食事に追加する必要があるかもしれません。

5. MCT、DHA、抗酸化物質の追加

人間と同様に、犬も加齢に伴い記憶や学習能力に変化が見られることがあります。いくつかの研究によると、以下の成分や栄養素がこれらの変化の影響を軽減するのに役立つ可能性があり、一部のシニア犬用フードに追加されています。

中鎖脂肪酸(MCT)

中鎖脂肪酸には、体重減少の促進、エネルギー質の向上、さらには発作や認知機能低下の抑制をもたらすとされています。

抗酸化物質

抗酸化物質は特定の栄養素を指すものとよく誤解されますが、実際は酸化を抑制する成分全般を指します。ケルプ、ベリー類、ホウレンソウなど一部の野菜に含まれるビタミンやミネラルがそれにあたります。

DHA(ドコサヘキサエン酸)

魚や藻類オイルに高濃度で含まれるオメガ3脂肪酸。オメガ3脂肪酸を摂取することで、皮膚や関節の健康をサポートする効果があります。これにより、皮膚炎や関節炎の症状の緩和が期待できます。

犬は、皮膚炎や関節炎にかかりやすい生き物であることはよく知られています。特に、犬が年を取るにつれて、こうした疾患のリスクは高くなります。

問題となる可能性のある食材

シニア犬に最適なフードを選ぶ際には、犬にとって有益となる成分を探すだけでなく、問題を引き起こす可能性のある成分を避けることも重要です。特に以下の2点に注意してみてください。

特定の穀物

穀物がシニア犬に有害であるという証拠はありませんが、一部の穀物は、他の植物由来のタンパク質や炭水化物に比べて消化が悪い可能性があります。

また、穀物が多く含まれ動物性タンパク質が少ないドッグフードは、犬が好んで食べない場合があります。

穀物不使用のタンパク質

一方で、穀物不使用(グレインフリー)のドッグフードに含まれる特定のタンパク質源にも注意が必要です。新しい研究によると、心臓機能に重要な栄養素であるタウリンの血中濃度の低下と、豆類(例:エンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆)を多く含む穀物不使用(グレインフリー)のドッグフードとの間に関連性が見られることが分かっています。

この関連性は、これらの穀物不使用のタンパク質源が消化されにくいためである可能性があります。

シニア犬に最適なドッグフード

結論から言えば、すべてのシニア犬に共通する「最高のドッグフード」というものは存在しません。それぞれの犬の状態をよく評価し、それに基づいてレシピを調整することが重要です。

特にシニア犬の場合、特定の栄養戦略が必要です。年齢を重ねたからといって、必ずしも「シニア用フード」が必要になるわけではありません。

多くの「成犬用」または「全ライフステージ用」のドッグフードは、シニア用として販売されている食事よりも効果的である場合があります。

シニア犬用フード開発の重要なポイント

以下の点を参考にしてみて下さい。これらは、どのような栄養調整がシニア犬向けドッグフードの開発に役立つかを判断する手助けになります。

Q
筋肉の減少を抑えたい場合
A

タンパク質が多いレシピが良いかもしれません。シニア犬には、1,000キロカロリーあたり75グラム以上のタンパク質を含む食事が推奨されます。

Q
食欲を増やしたい場合
A

基礎疾患がないシニア犬の場合、タンパク質や脂肪が多い食事、または水分量が多い食事が好まれるかもしれません。

Q
食べる量を増やしたい場合
A

シニア犬は、若い頃ほど食べないことがあります。その場合、量を増やすのではなくビタミンやミネラルが豊富なレシピにすると良いでしょう。

Q
変形性関節症がある場合
A

オメガ3脂肪酸(EPAおよびDHA)が1,000キロカロリーあたり1グラム以上含むレシピにしましょう。また、グルコサミンやコンドロイチン(軟骨の成分)を補うことも有益です。

Q
行動変化や記憶力低下を抑制したい場合
A

中鎖脂肪酸(MCT)、魚油、抗酸化物質を多く含む食事が役立つ場合があります。特にDHAを追加することが効果的かもしれません。

Q
腎疾患や他の慢性疾患を患う犬の場合
A

リンを減らした特別な腎臓向けのレシピが必要になる場合があります。

Q
便秘の症状を改善したい場合
A

サイリウムやブロッコリー、インゲンなどの食物繊維野菜を含むレシピ設計にしましょう。

Q
下痢などの消化器を良くしたい場合
A

チコリ根由来のFOSなどのプレバイオティクス繊維を含む食事が、腸内細菌の正常化に役立つかもしれません。水溶性食物繊維(プレバイオティクス)とされるフルクトオリゴ糖、チコリ根、イヌリン、ペクチンなどが推奨されています。

Q
慢性膵炎を改善したい場合
A

低脂肪の食事が役立つ場合があります。それ以外の健康なシニア犬は、適切な量を与える限り、高脂肪の食事でも問題なく摂取できます。

Q
水を飲む量を増やしたい場合
A

腎疾患や行動変化により、水を十分に飲まないシニア犬もいます。このような場合、ウェットフードやフレッシュフードのように水分量が多いフード開発は良いかもしれません。

小型犬に適したシニアドッグフード

ペットショップで「小型犬用」と記載されたドッグフードを目にすることがよくありますが、これは主にマーケティング戦略の一環です。小型犬のシニアフードを選ぶことが必須というわけではありません。

実は小型犬と大型犬が必要とする栄養素に大きな違いはありません。ただし、ドライフードを与えている場合は、犬にとって適切なサイズと形状の粒を選ぶのが良いでしょう。以下は、小型犬に適したシニアドッグフードを開発する際のアドバイスです。

抗酸化物質が豊富な食事

小型犬は大型犬よりも長生きする傾向があるため、獣医師の中には、抗酸化物質が豊富な食事を推奨する人もいます。抗酸化物質は、時間とともに発生するフリーラジカルによるダメージを防ぐ助けとなります。

適切な分量の管理

シニア小型犬は、成犬時の時と同じ量を与えられる場合、加齢とともに太りやすい傾向があります。そのため、ドッグフードの摂取量を慎重に管理することが重要です。あらかじめ分量が決められたフードや、カロリーが低いドッグフードが適しています。

大型犬に適したシニアドッグフード

大型犬の成犬やシニア犬は、小型犬と比べて特別な食事の配慮が必ずしも必要というわけではありません(成長期に骨が形成される際にカルシウムレベルを注意深く管理する必要がある大型犬の子犬を除きます)。

カルシウム過剰は骨の成長期のみの懸念事項です。そのため、大型犬はその必要性に合った成犬用や全ライフステージ対応のフードをそのまま食べ続けることができます。以下は、大型犬に適したシニアドッグフードを開発する際のアドバイスです。

消化の質を向上させる

大型犬は、小型犬に比べて便の状態が悪い傾向にあります。そのため、可溶性食物繊維が多すぎるとその影響を悪化させることがあります。

一方で、インゲン豆やブロッコリーのような野菜に含まれる不溶性食物繊維は有益であることがあります。シニアの大型犬が消化の問題を抱えている場合、不溶性食物繊維を追加したレシピ設計を検討するのも良いでしょう。

関節炎の影響を軽減する

関節炎の悪影響は大型犬で特に顕著になることがあります。EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれるドッグフードは、症状を軽減するのに役立ちます。1,000キロカロリー当り1g以上のEPAとDHAを含むフード設計が効果的です。