本記事では、日本市場向けの犬猫用総合栄養食(ドライフード、ウェットフード、フリーズドライ、エアドライ)の給与量設定とラベル表示について、AAFCO(米国飼料検査官協会)の基準に基づき実務的に解説します。対象読者はペットフード開発の責任者であり、製品設計やラベル作成において役立つ専門的知識を提供します。
日本ペットフード公正取引協議会も採用するAAFCOが定めるライフステージ(成長期、成犬・成猫(維持期)、高齢期、妊娠・授乳期など)や健康状態(肥満傾向等)に応じたエネルギー必要量と給与量の算出方法、フードタイプによるエネルギー密度の違い、修正アトウォーター係数を用いたカロリー計算、さらに日本のラベル表示要件と具体例について詳述します。
エネルギー必要量の考え方
ペットフードの給与量を決めるには、まずエネルギー必要量(必要カロリー)を算出します。安静時に必要なエネルギー量をRER(安静時エネルギー必要量)といい、ライフステージや活動量に応じて補正したものをMER(Maintenance Energy Requirement:維持エネルギー必要量)、またはDER(Daily Energy Requirement:1日あたりエネルギー必要量)と呼びます。
日本市場ではAAFCO基準を前提にしており、ラベル上で「MER」「DER」という用語を直接書く必要はありません。RERを基礎にして、係数を掛けた結果を「給与量(g/日)」として表にするのが実務的対応です。したがって、文章中でMERとDERを同義として扱っても問題はなく、注釈で「MER(DERとも呼ばれる)」と明記しておけば混乱は避けられます。
MER(Maintenance Energy Requirement)とDER(Daily Energy Requirement)は、ほぼ同義語として扱われており、AAFCOや獣医栄養学の文脈でも混在して使われることが多いです。
以下にRERの計算式とライフステージ別の係数(MER係数)の目安を示します。
RER(安静時エネルギー必要量)
動物が生命維持に必要な最低限のエネルギー量のことを指します。体温維持、呼吸、心拍など基本的な生理機能を維持するために必要なエネルギーです。
計算式
RER = 70 × 体重(kg)^0.75
※簡易式として「RER = 30 × 体重(kg) + 70」も使用されますが、2kg未満や45kg超では誤差が大きいため、べき乗式の使用が推奨されます。
MER(維持エネルギー必要量)
実際の生活に必要なエネルギー量のことを指します。RERにライフステージや状態に応じた係数(MER係数)を掛けて算出します。
計算式
MER = RER × ライフステージ係数
MER係数の概要
主なMER係数一覧|犬
ライフステージ・状態 | MER係数(RER倍率) |
---|---|
成犬(去勢・避妊済み) | 1.6 |
成犬(未去勢・未避妊) | 1.8 |
肥満傾向・室内飼育など活動量少なめ | 1.2~1.4 |
活発犬・作業犬 | 2.0~5.0 以上 |
子犬(生後~4ヶ月齢) | 3.0 前後 |
子犬(生後4~9ヶ月齢) | 2.0~2.5 |
子犬(生後9~12ヶ月齢) | 1.8~2.0 |
(大型犬:成長期18~24ヶ月まで維持) | ~2.0 程度 |
母犬(妊娠後期) | 約3.0 |
母犬(授乳期・仔数により変動) | 3.0~6.0 以上 |
減量中の肥満犬 | 0.8~1.0 |
高齢前期(シニア犬) | 1.1~1.4 |
主なMER係数一覧|猫
ライフステージ・状態 | MER係数(RER倍率) |
---|---|
成猫(去勢・避妊済み) | 1.2~1.4 |
成猫(未去勢・未避妊) | 1.4~1.6 |
肥満傾向・非活発(体重管理) | 0.8~1.0 |
子猫(生後~4ヶ月齢) | 3.0 |
子猫(生後4ヶ月~約1歳) | 2.5 |
母猫(妊娠後期) | 1.6~2.0 |
母猫(授乳期・仔数により変動) | 2.0~6.0 |
高齢前期(7~11歳) | 1.1~1.4 |
超高齢期(12歳~) | 1.1~1.6 |
RERは基礎代謝(最低限必要なエネルギー)を表し、MERは実生活での必要エネルギーを表します。活動量、成長、妊娠・授乳、疾病など様々な要因がMERに影響します。個体によって±50%程度の差が生じることがあるため、給与量は継続的に調整する必要があります。
ライフステージ別・体重別の給与量モデル
上述のエネルギー必要量(MERまたはDER)が算出できれば、次にそれを満たすフードの重量(グラム数)を計算します。給与量(g/日)の算出式はシンプルで、「1日に必要なカロリー量 ÷ フードのエネルギー密度」です。
多くのペットフードは代謝エネルギー(ME)として「○kcal/100g」あるいは「○kcal/kg」の形でカロリー表示がなされています。例えばあるフードのエネルギー密度が350kcal/100gで、計算したMERが700kcalであれば、給与量 = 700 ÷ 350 × 100 = 200g/日となります。
給与量(g/日)の算出式
給与量 (g/日) = (ペットのMER (kcal/日)) ÷ (フードのME (kcal/100g)) × 100
実際にはMERの算出には前述の通り個体差補正が必要であり、上式で得られた値も目安の一つと考えます。ペットフードのパッケージには通常、体重別・ライフステージ別の推奨給与量表が記載されています。
開発担当者は、自社製品の代謝エネルギー値(ME)を把握した上で、想定する平均的なペットのエネルギー必要量に基づき給与量表を設計します。以下にモデルケースとして、ドライフードを用いた犬と猫の給与量の考え方を示します(数値は概算例)。
成犬用フード|ME=約350kcal/100g
5kgの成犬(去勢・避妊済み)
10kgの成犬(去勢・避妊済み)
実際のフードではキリの良い数値に丸め、例えば「5kg:110g、10kg:180g」などと表に記載します(あくまでモデル値)。活動量が非常に低い犬ではこれより1-2割少なく、高い犬では多めに必要になる旨、フードの注記で補足します。
子犬用フード|ME=約400kcal/100g
2.5kgの子犬(生後~4ヶ月齢)
5kgの子犬(生後6ヶ月)
子犬用フードのラベルには、月齢別・予想成犬体重別のマトリクス表で給与量が示されることが一般的です(例:縦軸に現在の月齢、横軸に成犬時予想体重)。この表を読み取ることで飼い主は子犬の成長に応じた給与量を段階的に調整できるようになります。
成猫用フード|ME=約350kcal/100g
4kgの成猫(去勢・避妊済み)
4kgの成猫(肥満傾向・非活発)
体重4kgの成猫(去勢・避妊済み)のMERはRER×1.2~1.4≒約238-278kcalです。したがって一日の給与量は68~80g程度と計算されます。多くの市販キャットフードでは「成猫体重4kg:75g/日」などと表示されています。
肥満傾向であれば、10~20%減量し60g程度から開始し、逆に活動的な若猫であれば85g程度与えるなど調整が必要です。ラベルの注意書きにも「個体差や活動量に応じて調整してください」と明記します。
子猫用フード|ME=約400kcal/100g
2.0kgの子猫(生後4ヶ月~約1歳)
体重2kg・生後4ヶ月~約1歳の子猫では、MER≒RER×2.5=約295kcalとなり、一日74gを与える計算です。これは成猫4kgの場合とほぼ同量ですが、体重あたりでは子猫の方が倍近い摂取量である点に注目してください。子猫は急速に成長し体重も増えていくため、1~2ヶ月後には必要量が大きく変化します。
フードの給与量表には月齢別に量を示し、「生後4ヶ月齢までの子猫は成猫の約3倍、~1歳までは約2.5倍のエネルギーが必要」といった解説も添えると親切です。また子猫には1日3~4回の小分け給与が推奨されるため、給与回数の目安も合わせて記載します。
以上のように、給与量モデルはライフステージ(成長度合い)と体重を軸に策定します。ペットフード開発者は、自社フードのエネルギー含有量とターゲットとするペットの平均的な必要カロリーを踏まえ、適切なグラム数を算出します。
その際、安全側に配慮しつつ栄養過多・過少とならない範囲で調整することが重要です。また実際のラベルでは、「上記量はあくまで目安です。年齢、運動量、個体差に応じて調整してください」といった注意書きや但し書きを必ず添えます。
給与量表は飼い主へのガイドラインですが、最終的には各ペットの体格や健康状態を観察しながら量を加減するよう促すことが望ましいでしょう。
フード毎のエネルギー密度と給与量の違い
ペットフードの種類(形態)によって、水分含有量や栄養濃度が異なるため、同じカロリーを摂取するのに必要な分量(重量や容積)が大きく変わります。
開発責任者は各製品のエネルギー密度を把握し、それに見合った給与量を設定する必要があります。ここではドライフード、ウェットフード、フリーズドライ、エアドライの各タイプについて一般的なエネルギー密度の目安と給与量上の特徴を説明します。
ドライフード(キブル)
通常10%前後の低水分で栄養素が濃縮されており、エネルギー密度はおおむね3.5-4.5 kcal/g(3,500-4,500kcal/kg)です。高脂肪な製品では、5kcal/g近くに達する場合もあります。例えば高たんぱく質のプレミアムキャットフードでは、ME=約4,160kcal/kg(=4.16kcal/g)という実例があります。
ドライフードは重量あたりのカロリーが最も高いため、必要量(g)が少なくて済むのが特徴です。一方、咀嚼による歯石予防効果や保存性に優れる反面、水分摂取が不足しがちになる点に注意が必要です。給与量表ではしばしば「必ず新鮮な水を一緒に与えてください」と明記します。
ドライフードは1カ月以上日持ちするため計量管理しやすく、飼い主にとっても扱いやすい主流製品ですが、栄養が凝縮されている分「少量で高カロリー」を提供できることを踏まえ、過剰給与にならないよう配慮した設計が求められます。
ウェットフード(缶詰・パウチ)
水分含有量が75-80%程度と高く、エネルギー密度は0.8-1.2kcal/g(800-1,200kcal/kg)程度が一般的です。ドライフードに比べ同じ重さあたりのカロリーは約1/3~1/4しかありません。
したがってウェットフードでは多めのグラム数を与える必要があり、給与量表でも「○缶/日」「○パウチ/日」といった単位で記載され、ドライに比べ数値が大きく見える傾向があります。例えば、体重5kgの成猫にドライフードなら80g/日で済むところ、ウェットフードでは400g/日前後を必要とする場合があります。
もっとも水分を多く含む分、一度に摂れる量が増えるため満腹感を得やすい利点もあります。肥満傾向のペットにはウェットを併用して嵩増しするといった工夫も考えられます。またウェットフードは嗜好性が高く高齢ペットや食欲不振時に有用ですが、開封後は冷蔵保存と早期使用が必要、歯に残りやすい等の注意点があります。
給与量の設計上は、水分を含むことで1食分のボリュームが大きくなる点を考慮し、「1日2~3回に分けて与える」「食べ残したら下げる」等のアドバイスもラベルに記載すると良いでしょう。
フリーズドライフード
生肉などの素材を急速冷凍し真空乾燥させたもので、水分はごく僅か(5%以下)しか残っていません。そのため栄養密度は非常に高く、エネルギー密度は4.0-5.0kcal/g(4,000-5,000kcal/kg)に達する製品も多いです。
例えばあるフリーズドライ生食は、ME=4,630kcal/kgに及びます。フリーズドライは基本的に給与量はドライフードと同等かそれ以上に少量で済むため、ラベル上のグラム数は小さな値になります。初めて使う飼い主は「量が少なくて心配」と感じることもあるため、「本製品は高栄養価のため少量で十分です」といった説明や、必要に応じた水戻しの指示を明示します。
実際、フリーズドライ製品のFAQでは「非常に栄養濃度が高いため必要量が小さく見えますが、愛犬愛猫の必要なカロリー・栄養素は満たされています」と説明されることがあります。
なおフリーズドライフードは与える前にぬるま湯等で再水化して与える方法も推奨されています。水で戻すと重量が増え食べやすくなりますが、エネルギー量自体は変わらないため、戻す場合も乾燥状態での適正重量を計量してから加水する必要があります。
エアドライフード
低温の送風等でゆっくり脱水したフードで、水分は10%前後と低く、エネルギー密度は4.5-5.5kcal/g(4,500-5,500kcal/kg)と極めて高い傾向にあります。例えばニュージーランド産のあるエアドライフードではME≈4,900kcal/kg(犬用ビーフレシピ)との表示があります。
エアドライもフリーズドライ同様に少量で高エネルギーを供給できるため、1日の給与量(グラム)はかなり小さい数字になります。製品によっては付属スプーン○杯などで指示するケースもあります。エアドライ製法では生肉由来の高タンパク・高脂肪なレシピが多く嗜好性が高いです。
そのため給与しすぎに注意が必要で、ラベルでも「本製品は栄養密度が高いため記載の給与量を超えて与えないでください」と注意書きを入れると良いでしょう。
エアドライは「生食に代わる便利な代替」として位置付けられ、少量でも必要栄養素を満たす濃縮食です。総合栄養食として設計する場合、ビタミンミネラル類の過不足にも留意し、AAFCOの基準量を満たしつつ過剰になりすぎないバランスにレシピ設計する必要があります。
エネルギー密度に即した給与量設定
以上のように、フードタイプごとに1日あたりの給与量(g)は大きく異なるため、製品のエネルギー密度に即した給与量設定が不可欠です。特に自社で複数フォーマット(例:同一レシピのドライとウェット)を展開する場合、ユーザーが混乱しないようラベル上で丁寧に案内します。
例えば「本製品(ウェット)は水分が多いため、同シリーズのドライ製品に比べ1日に与える量が多くなります」「フリーズドライ製品は極めて栄養価が高いので指示量を守ってください」等の注意喚起を入れることが望まれます。
また併用給餌の場合の調整例も示すと親切です。例えば「ドライフードとウェットフードを併用する場合は、それぞれのカロリーに応じて割合を調整してください。(目安:ドライ半量+ウェット半量の場合、ドライ〇gとウェット△g)」のようなガイダンスです。大切なのは、飼い主が適切に給与量を管理できるよう、平易で誤解のない表示を心掛けましょう。
代謝エネルギー(ME)の算出方法
ペットフードの代謝エネルギー(ME: Metabolizable Energy)を推定する方法として、AAFCOでは修正アトウォーター係数(Modified Atwater Factors)を用いた計算式をモデル規則で示しています。
これはペットフードの実測データを基に1980年代に提唱された計算法で、タンパク質と炭水化物を3.5kcal/g、脂肪を8.5kcal/gとし、組成分析値に乗じてエネルギーを算出します。
計算式の例を示すと、ME(kcal/kg)は以下のようになります。(%はフード中の重量百分率、NFEは炭水化物を示し、水分・灰分・粗繊維を除いた差し引きで算出。)
[3.5 × (%粗タンパク質) + 8.5 × (%粗脂肪) + 3.5 × (%炭水化物 [NFE])] × 10
上式に当てはめれば、たとえば粗タンパク24%、粗脂肪15%、炭水化物(NFE)45%のフードではME約3,690kcal/kgとなります。Modified Atwater式はAAFCOでも公式に採用されており、ラベル表示用のエネルギー値は実測試験が無い場合、この計算で求めることが認められています。
平均的な市販ペットフードの消化率を踏まえた経験則的手法であり、非常にシンプルかつ便利ですが、後述するように消化性の高低によっては過小・過大推定の偏りが生じる点に注意が必要です。
成長/高齢期における給与量ラベル表示例
ライフステージごとの代表例として、成長期(子犬・子猫)と高齢期(シニア犬・シニア猫)の給与量に関するラベル表示モデルを紹介します。これらのステージでは成犬・成猫(維持期)と比べて栄養要求が大きく異なるため、ラベル上でも特別な配慮や説明が求められます。
子犬/猫用フードのラベル表示
子犬用給与量表示例
月齢/予想成犬体重 | 5kg | 10kg | 20kg | 30kg以上 |
---|---|---|---|---|
2-3ヶ月 | 100g/日 | 160g/日 | 250g/日 | 350g/日 |
4-6ヶ月 | 90g/日 | 150g/日 | 240g/日 | 330g/日 |
7-12ヶ月 | 80g/日 | 130g/日 | 220g/日 | 310g/日 |
給与量表
子犬用フードでは、月齢と現在体重、あるいは成犬時予想体重に応じた給与量の目安を表形式で示します。例えば「現在の月齢○ヶ月」の列と「成犬時体重○kg」の行の交差で1日量を示すマトリクス表です。
生後2-3ヶ月齢の欄では体重当たり成犬の約2倍量が与えられること、成長に連れてその比率が減少することを数値で示します。「○ヶ月齢未満の仔犬には給与量表の上限値を与えてください」といった注記も有用です。
給与回数と給与方法
子犬は一度に消化できる量が限られるため、「1日の給与量を3-4回に分けて与えてください」「歯が生え揃う生後6週頃から固形フードに慣らしてください」など具体的に指示します。子猫の場合も「生後~4ヶ月は1日4回、~1歳までは3回程度に分けて与えることを推奨」などと記載します。
成長期ならではの注意書き
「子犬・子猫は成長が早いため、定期的に体重を計測し給与量を見直してください」「過剰に与えると肥満の原因になります。適正体重を維持できるよう調整しましょう」「子犬用フードは高栄養設計のため、成犬用を与えると必要量を満たせません。必ず子犬用を与えてください」等、成長期特有のアドバイスを盛り込みます。
特に大型犬種の子犬では過剰栄養による骨格障害のリスクもあるため、「大型犬の子犬には給与量を守り、おやつを控えめに」といった注意も考慮します。AAFCO基準でも大型犬子犬のカルシウム上限などが定められているため、その点に触れて「大型犬パピーの適切な成長管理」を喚起しても良いでしょう。
例文モデル
【給与量の目安】
(1日あたり)
生後3ヶ月: 体重2kg->120g、4kg->200g、6kg->270g
生後6ヶ月: 体重4kg->150g、8kg->240g、12kg->300g
生後9ヶ月: 体重6kg->140g、12kg->230g、18kg->290g
※上記は成犬時体重約24kgを想定した場合の目安です。
大型犬では成長期間が長いため、12ヶ月以降も子犬用を与えてください。
【与え方】
1日の量を3~4回に分けて与えてください。
生後3ヶ月齢までは消化器が未発達なため少量頻回が理想です。
ふやかしたフードから徐々に固い粒に慣らしましょう。
【ご注意】
子犬の個体差により必要量は異なります。上記はあくまで目安です。毎週体重を測り、ボディコンディションを確認しながら調整してください。過剰に与えると将来の肥満リスクが高まります。常に新鮮な水を飲めるようにしてください。
上記のように記載すれば、初めて子犬を飼う方にも具体的なイメージが伝わるでしょう。実際のパッケージスペースに応じて簡略化する場合も、「子犬は成長につれて適正量が変化します。詳細は当社HP参照」のように誘導する手もあります。
シニア犬/猫用フードのラベル表示
シニア犬用給与量表示例
体重/体型 | 標準 | 肥満傾向 | 痩せ気味 |
---|---|---|---|
5kg | 90g/日 | 75g/日 | 100g/日 |
10kg | 150g/日 | 125g/日 | 170g/日 |
20kg | 240g/日 | 200g/日 | 270g/日 |
給与量表
高齢期専用フードの場合、基礎代謝低下を考慮してエネルギー密度をやや低く設計することが多いです。そのため成犬用に比べ推奨給与量はやや多めに表示される傾向があります(同じ体重ならカロリーが低い分、必要グラム数は増えるため)。
例えば成犬用で体重10kgあたり160gだったものが、高齢犬用では180gになる、といった具合です。ただしシニア期は活動量の差が大きいので、給与量表にも幅を持たせます。
例:「体重10kg:1日150~180g(運動量に応じ調整)」のようにレンジで示すか、もしくは「非肥満犬/肥満傾向犬」の2列に分けて表示します。また小型犬と大型犬でシニア突入年齢が異なるため、「○歳以上(小型犬)、○歳以上(大型犬)は本表を参考に」といった注記も考慮します。
給与回数と配慮
シニア犬猫では一度に大量に食べられないケースもあるため、「シニア期は消化吸収効率が低下する場合があります。1日2-3回に分けて与えると負担が少なくなります」と記載するのも良いでしょう。
また歯や顎が弱くなっている個体も多いため、「必要に応じてぬるま湯でふやかす」「ウェットタイプと組み合わせる」などの工夫を提案することもあります。猫では特に腎臓病予防のため水分摂取が重要なので、「スープ状のウェットフードを併用して水分補給量を増やすのも効果的です」などアドバイスできます。
高齢期の注意書き
「高齢期には基礎代謝が落ちるため、若い頃より15-20%ほど必要量が減ることがあります。太りすぎに注意しましょう」「一方で筋肉量が落ちすぎないよう良質なたんぱく質をしっかり摂らせてください」「シニア用フードは咀嚼しやすい粒設計ですが、食べづらそうな場合はお湯で柔らかくして与えてください」など、シニア特有のケアポイントを盛り込みます。
また「食欲低下や体重減少が続く場合、他の病気の可能性もありますので獣医師に相談してください」といった注意も記載すると親切です。
例文モデル
【給与量の目安(高齢犬)】
(1日あたり)
体重5kg: 100~115g、10kg: 150~180g、20kg: 240~280g
※室内で暮らす比較的おとなしい高齢犬を想定しています。
※活発な場合はやや多めに、肥満傾向の場合は少なめに与えてください。
【与え方】
1日2回以上に分けて与えてください。
消化能力が低下している場合は、小分けにしてゆっくり食べさせる方が体への負担が少なくなります。
【ご注意】
高齢期は若齢時より必要エネルギーが下がります。愛犬の体型を見ながら適宜量を調整してください。太りすぎは関節疾患や糖尿病のリスクを高めますので注意しましょう。一方、極端な食欲不振や体重減少が見られる場合は獣医師に相談してください。常に新鮮な水を充分に取れるよう配慮しましょう。
シニア向けの表示では、与えすぎによる肥満予防に重点を置きつつ、栄養不足や疾患の兆候にも目を配るよう促すバランスが重要です。飼い主にとってはシニア期の食事管理は難しいテーマですので、ラベルでできるだけ具体的な指針を示し、不安があれば専門家に相談するよう勧めることが望ましいでしょう。
以上、成長期と高齢期のモデル表示例を示しました。ライフステージ別に押さえるべきポイントは異なりますが、共通して言えるのは「そのステージ特有のニーズに寄り添った情報提供」を行うことです。適切な給与量と注意点をラベル上で案内することで、飼い主がペットの健康管理をしやすくなり、結果として製品への信頼性向上にも繋がります。
日本市場におけるAAFCO準拠の法的位置づけ
最後に、日本におけるAAFCO基準準拠のペットフードの位置づけと、欧州のFEDIAF基準との違いについて触れておきます。
日本の法規制とAAFCO基準の採用
日本ではペットフード安全法(2009年施行)により、ペットフードの表示や成分規格に関する最低限の基準が定められています。しかし栄養基準の詳細については法律で独自規定を設けておらず、業界自主規制に委ねられています。
具体的には、先述のペットフード公正取引協議会が定める公正競争規約においてAAFCOの栄養基準および給餌試験プロトコルの採用が謳われており、日本で「総合栄養食」と表示するにはAAFCO基準を満たす必要があります。
実質的にAAFCOのライフステージ別栄養最低基準(成長期用・維持期用)が日本でも事実上の標準になっており、多くの国内メーカー・輸入品がこれに準拠して製品設計・表示を行っています。「総合栄養食」と表示されたフードには、「本商品はAAFCOの栄養基準を満たしています」あるいは公正取引協議会の試験結果による証明文言を表示することが求められます。
例えば分析試験により基準適合を証明した場合「この商品は、ペットフード公正取引協議会の定める分析試験の結果、総合栄養食の基準を満たすことが証明されています」といった文がパッケージに記載されます。
つまり、日本国内で総合栄養食を標榜するには実質AAFCO基準クリアが必須であり、AAFCO準拠であることが品質保証の一つと見なされています。
FEDIAF基準との違い(補足)
FEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)は欧州における業界団体で、AAFCOと同様にペットフードの栄養ガイドラインを提示しています。2008年に栄養ガイドラインが策定されて以来、欧州ではFEDIAF基準が広く採用されています。
AAFCOとFEDIAFはいずれも最新の研究に基づき定期的に基準を見直しており、栄養必要量の数値は概ね近似しますが細部でいくつか相違点もあります。例えばラベル表示のルールでは、AAFCOは原材料名の細かい規定(「チキン」や「チキンミール」の表示法など)がありますが、FEDIAFでは若干の自由度が認められるといった違いがあります。
また栄養素項目でも、欧州のガイドラインには食物繊維の目安値が明記されている、一部ビタミンやミネラルの推奨量がAAFCOと微妙に異なる、といった点が指摘できます。ただし両者の目的は共通しており、「そのフードと水だけで必要栄養素を満たす完全食の基準」を示すものです。
日本では前述の通りAAFCO基準が採用されていますが、FEDIAFも世界的に参照される標準であり、欧州向け輸出を視野に入れる場合などにはFEDIAFガイドラインも考慮すると良いでしょう。なおFEDIAFはHACCPの導入認証など品質管理面での提言も行っており、AAFCOが直接関与しない領域での活動も見られます。
まとめ:AAFCO=国内標準
日本市場ではペットフード公正取引協議会の取り決めによりAAFCO栄養基準への適合が総合栄養食の条件となっています。これは法的にAAFCOを引用しているわけではないものの、業界標準として強く機能しており、実質「AAFCO=国内標準」です。
従って国内向け製品開発ではAAFCO栄養基準値を満たすことが必須です。FEDIAF基準との差異は細部に留まり、本質的にはペットの必要栄養を満たす完全食規定という目的は同じです。両者の最新動向をウォッチしつつ、自社製品のレシピやラベル表示に反映させていくことが、ペットフード開発責任者には求められるでしょう。