私たちが食事を選ぶとき、栄養バランスやカロリーだけでなく、血糖値への影響にも注意を払うようになってきました。これは犬や猫といったペットにとっても同様です。
近年、ペットフード業界では「グリセミック・インデックス(GI)」という指標が注目を集めています。GIとは、炭水化物を含む食品がどれくらい速く、どの程度血糖値を上昇させるかを示す数値です。
高GI食品は急激な血糖値の変動を引き起こしやすく、肥満や糖尿病などの健康リスクと関係しています。一方、低GI食品は血糖値の上昇が緩やかで、満腹感の持続や体重管理、疾患予防に役立つとされています。
本記事では、GIの基本的な考え方から、ペットフードにおける具体的な活用方法までを詳しく解説します。
GI / グリセミック・インデックスとは?
グリセミック・インデックス(GI)とは、炭水化物を含む食品を摂取した時に、血糖値が「どの程度」「どれくらいの速さ」で上昇するかを数値にしたものです。より正確に言えば、GIは、特定の炭水化物が犬や猫の血糖値をどれだけ速く、どれだけ上昇させるかという相対的な速度と程度の両方を測る指標です。
GI食品の種類
基本的にGI食品は「低GI食品」と「高GI食品」の2種類に分けられます。低GI食品は、炭水化物がゆっくりと消化される食品であり、ペットが長時間にわたってエネルギーを持続することができます。
一方、高GI食品は、炭水化物が急速に消化され、即時的なエネルギーの急上昇を引き起こしますが、通常その後に急激なエネルギーの低下が起きます。
GIの指標では、食品が1から100の値で評価されます。低GI食品は55以下、中GI食品は56~69、高GI食品は70以上のスコアとなります。したがって、GI値が高いほど、犬や猫の血糖値が不健康なレベルまで急上昇するリスクが高まります。
低GI | 中GI | 高GI |
---|---|---|
55以下 | 56-69 | 70以上 |
グルコース(ブドウ糖)そのもののGIは100であるということを覚えておくと、GI指標を理解するのに役立つでしょう。この指標は、犬や猫にとってより健康的な選択をするための貴重なツールとなり、個々のニーズに合った「適切な」フード開発に役立ちます。
低GIペットフードが重要な理由
犬や猫の健康を考えるうえで、低GIの食品を選ぶことはとても重要です。なぜなら、GI値が高い食品を日常的に摂取すると、血糖値の乱高下を招き、様々な健康リスクが生じる可能性があるからです。
膵臓への過負荷
高いGI値を持つ炭水化物は、体内で「急速」に吸収されてグルコース(ブドウ糖)に変換され、すぐに使えるエネルギー源となりますが、同時に「急激」な血糖値の上昇をもたらし、膵臓(すいぞう)におけるインスリンの過剰な分泌反応を引き起こします。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)を下げる役割を持っています。高GI食品により、膵臓が十分なインスリンを作り出すために過剰に働かざるを得なくなり、負担がかかることになります。
空腹感による過食
また、犬や猫においても、血糖値が過剰に上昇すると肥満の原因になることが少なくありません。これは、血糖値が急激に上がると、それに対応するために膵臓からインスリンが大量に分泌されるためです。
インスリンの作用によって血糖値は急速に下がりますが、この急降下が脳に「エネルギーが不足している」と錯覚させ、「空腹感」というサインを引き起こします。
つまり、まだ体にエネルギーが十分あるにもかかわらず、犬や猫が食後間もなく再び空腹を訴えるのは、こうした血糖の乱高下が原因であることがあります。
さらに、インスリンの働きによって余剰のブドウ糖は脂肪として体内に蓄積されやすくなるため、長期的には肥満につながりやすくなります。
高GI食品による疾患リスク
これらの結果、以下のような疾患や健康リスクが発生する可能性があります。
2型糖尿病(主に猫)、1型糖尿病(主に犬)、変形性関節症、高血圧、高血糖、心臓病、がんなど
低GIペットフードがもたらすメリット
低GI食品を中心とした食事はペットにも良いとされています。なぜなら、低GIペットフードが犬や猫の体により多くの利益をもたらすことが、研究によって示されているからです。
長く満腹感を維持できる
低GI食品は、消化や吸収に時間がかかるという特徴があります。これにより、食後の血糖値の上昇がゆるやかになり、それに伴って分泌されるインスリンも急激に増減することがなくなります。
この「血糖値とインスリンの安定」は、満腹感の持続に大きく関わっています。高GI食品を摂取すると、血糖値が急上昇した後にインスリンが過剰に分泌され、その結果として血糖値が急激に下がります。この急降下は「お腹が空いた」と脳が感じるサインになりやすく、食後間もないのに空腹を訴える原因となります。
一方、低GI食品を与えた場合、血糖値の上昇が緩やかで安定しており、インスリンの分泌も穏やかです。その結果、空腹感が出にくく、猫や犬が長時間にわたって満腹感を維持しやすくなります。
糖尿病の症状を抑制できる
低GI炭水化物は、消化・吸収が緩やかで、血糖値を急激に上げることがありません。これにより、膵臓がインスリンを過剰に分泌する必要がなくなり、血糖コントロールが安定します。
特に猫はインスリンを適切に利用できないインスリン抵抗性を起こしやすく、人間の2型糖尿病と類似したメカニズムが働きます。低GI食に切り替えることで血糖の急上昇を防ぎ、インスリン抵抗性の改善につながります。
心疾患のリスクを減らす
高GIの食事は慢性的な高血糖とそれに伴うインスリンの過剰分泌を引き起こしやすく、結果として炎症や血管のダメージを促進します。これが長期的に心臓に負担をかける原因になります。
低GI食は血糖値の安定とともに動脈硬化の進行を抑制し、心臓への負担を軽減するため、心疾患(心筋症、心不全など)の予防や改善につながると考えられています。
血中コレステロール値を下げる
高GI食品は脂質代謝に悪影響を与えることがあり、悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪の増加を招くことがあります。
低GI炭水化物、特に食物繊維を多く含む食材(例:大麦、レンズ豆など)には、コレステロールを吸着して排出する作用があるため、血中脂質バランスを改善する効果が期待できます。
身体的持久力の維持に役立つ
高GI食品は即効性のあるエネルギー源になりますが、その後急激なエネルギー切れ(クラッシュ)を引き起こすことがあります。
一方、低GI食品はゆっくりとエネルギーを放出するため、安定したスタミナの維持につながります。特にアクティブな犬や老齢のペット、持久力が必要な作業犬(警察犬、盲導犬など)にとっては、安定したエネルギー供給が健康維持に不可欠です。
一般的なペットフードの原材料とGI値
低GI食品
原材料 | GI値 |
---|---|
大麦 | 25 |
レンズ豆 | 29 |
りんご | 38 |
にんじん | 47 |
ヤムイモ | 37 |
玄米 | 55 |
オーツ麦 | 55 |
スプラウト(芽野菜) | 25 |
インゲン | 15 |
サツマイモ | 50 |
ブルーベリー | 44 |
エンドウ豆 | 48 |
高GI食品
原材料 | GI値 |
---|---|
じゃがいも | 76 |
白米 | 72 |
タピオカ | 56 |
全粒小麦粉 | 60-70 |
高・低GIなのかを見分ける方法
自分自身でグリセミック負荷(Glycemic Load)を正確に判断することはできませんが、GIの数値とその仕組み、そしてどのようなペットフードを選ぶべきかを教えてくれるオンラインの情報源はたくさんありますが、シドニー大学のグリセミック・インデックス検索画面(英語)が便利です。
グリセミック・インデックス(GI)は、食品が低GIか高GIかを判断するための基本的なツールですが、「グリセミック負荷(GL)」という用語も覚えておくと良いでしょう。
グリセミック負荷(GL)とは、食品に含まれる炭水化物の「質」と「量」の両方を測定する指標です。これは、ある食品の1回分に含まれる炭水化物の量と、それがどれだけ速く血糖値を上げるか(質)を示しています。
特定の食品のグリセミック負荷を計算するには、インデックス(GI)と、その食品に含まれる炭水化物量をもとに、次の式を使って計算します。
GL = GI × 炭水化物のグラム数 ÷ 100
ここで、白米のグリセミック負荷を求める簡単な例をご紹介します。白米2/3カップほどの分量には、約36グラムの利用可能な炭水化物が含まれ、GIは72です。したがって、計算式は以下のようになります。
72 × 36 = 2,592 ÷ 100 = 25.92(グリセミック負荷)
グリセミック・インデックスは、ペットにとって適切な食品を選ぶために役立つ一方で、グリセミック負荷は、さまざまな食品の摂取量が血糖値に与える影響を比較するのに役立ちます。
もうひとつの有益なヒントとしては、低GIのウェットフードやドライフードには、グレインフリー(穀物不使用)のものが多い傾向があります。
ペットフード業界におけるGI
FDA(アメリカ食品医薬品局)はグリセミックに関して見解を述べておらず、ペットフードにおけるGI(グリセミック・インデックス)を調査するための公式プロトコルも存在していません。これは主に、市場に出回っている多くのペットフードに対して実際のGI値を特定するのが複雑であるためです。
犬や猫用フードの真のGI値を特定する際の課題は、そのフード自体および調理方法にあります。ほとんどのペットフードは、化学的および物理的構造が多様な複数の原材料を組み合わせて作られており、また、精製度や加工度など異なる調理法で調製されるため、GI値を正確に評価することが困難な場合があります。
GI値はフードの内容や調理法に左右されるだけでなく、すべてのペットが同じフードに対して同じような血糖反応を示すわけではないという点にも注意が必要です。
したがって、ペットフードに適用されるGI値はあくまで一般的なガイドラインであり、特定のニーズに合っていない場合もあれば、すべての犬や猫に対して一貫性があるわけでもありません。
それでもなお、低GIペットフードによる健康効果を裏付ける科学的証拠がある中で、グリセミック・インデックスは、特に体重管理や体重に関連する疾患の観点から、犬や猫のためにより健康的で栄養価の高い食品を探しているペットオーナーにとって最良の指針のひとつといえます。