ペットフードの原料としてよく耳にする「動物副産物」ですが、一部では「病気の動物や糞尿が混ざっているのでは」といった誤解が広がっています。

実際にはEUでは動物副産物(ABP)をリスクに応じてカテゴリ1~3に厳密に分類しており、ペットフードに使用できるのは低リスクにあたるカテゴリ3原料のみです。

カテゴリ3は屠畜検査に合格した健康な動物や魚の副産物で、人の食品にならなかった安全な部分に限られます。本記事では、このABP規則の仕組みと、チキンミールをはじめとする動物性原料が実際にどのように管理されているのかを解説し、懸念されやすい誤解を解きほぐしていきます。

EUにおける動物副産物(ABP)

年間2,000万トン+ ※EUで発生する動物副産物の量

この大量の副産物は👇

  • 高い栄養・エネルギー価値を有する。
  • サステナブルな資源活用が可能。
  • 適切な処理がなければ環境・衛生リスクとなる。

動物副産物(ABP:Animal By-Products)とは、食用家畜や水産物から得られる「人の食品とならない動物由来物質」を指します。

具体的には、屠殺場で食肉になるはずだった動物の皮・骨・血液・脂肪・内臓などの未利用部位、農場で死んだ家畜の死体、糞尿や羽毛、旧食品(生産段階で規格外になった牛乳や卵など)も含まれます 。

EUではこれら副産物を年間2,000万トン以上生産しており、有用な資源である一方で、処理を誤ればBSEなどの伝播リスクがあるため厳しい規制下に置かれています 。

EU法(Regulation (EC) No 1069/2009)ではリスクに応じてABPを3つのカテゴリ(Cat.1~3)に分類し、用途ごとに安全基準を定めています 。Cat.1は最高リスク(指定部位や伝染病が疑われる動物など)、Cat.2は中リスク(感染症死体、糞尿、内臓内容物など)、Cat.3は低リスクに分類されています 。

カテゴリ1・2(高リスク)と制限

最も厳格な処理が必要な高リスク素材

  • TSE(伝達性海綿状脳症)感染が疑われる動物部位(特定危険部位)
  • 実験動物、動物園・サーカスの動物の死体
  • ペットの死体、野生動物(病気の可能性有り)
  • 禁止物質または環境汚染物質を含む素材

中程度のリスクを持つ素材

  • 感染症で死亡した家畜・家禽類の死体
  • 薬剤処置により薬剤残留がある肉・内臓
  • 屠畜場へ死亡・搬入死した家畜
  • 糞便、消化管内容物、胃腸内容物
  • 未受精卵で死んだ家禽類

Cat.1・Cat.2素材はBSEや伝染性疾病のリスクがあるため、原則としてペットフードには使えません。具体的にCat.2には「家畜検査で伝染病陽性と判定された動物の死体」「屠殺場から廃棄された感染症動物」「未孵化の死禽」「病害防疫で殺処分された動物」「農場で自然死した家畜」「糞尿や胃腸内容物」などが含まれます 。

糞尿や消化管内容物はEU規則上Cat.2に分類され、ペットフード原料としての使用は認められていません。これらは、焼却・共同焼却、または規則に適合した高温高圧滅菌や嫌気性消化等の処理(例:バイオガス・堆肥用途に限る)など、用途に応じた厳格な処理と処分の対象です。

なお、Cat.2素材がCat.3素材と混合された場合は、高リスク側(Cat.2)として扱われます。要するに、病気の疑いがある動物や糞尿・消化管内容物はCat.2以上に該当し、ペットフード原料にはならないことがEU法で明確に定められています。

カテゴリ3 ABP(低リスク)の特徴

最もリスクが低く、ペットフード製造に使用可能

  • 健康な動物の屠畜由来素材(ヒト食用に適合&検査合格)
  • 商業的理由で食品として使用しない肉・内臓
  • 加工処理に適さない部分(卵殻、羽毛、皮、毛皮等)
  • 販売時点での不良など、健康リスクがない食品

一方、Cat.3は「低リスク素材」とされ、ペットフードや家畜飼料の原料利用が認められています。Cat.3には、以下のようなものが含まれます 。

Cat.3に含まれる素材

  • 屠殺場で検査に合格し、本来は食用可能であったが商業的事情で食品にならなかった動物体(枝肉・内臓など)
  • 食用向け食品製造過程から発生した副産物(脱脂骨、搾りかす、乳製品生産の残渣など)
  • 食用で使用予定だったが返品・製造不良などで市場に出せなくなった食品(肉・魚加工品、卵製品など)
  • 水産物・無脊椎動物
  • 卵殻や孵化場廃棄物(孵化しなかった卵や死仔)
  • 羽毛・羊毛・毛髪・蹄・角など、疾病の兆候がない動物から得られた製品

特に「羽毛」はCat.3に含まれますが、EU法では「感染症の徴候が全くない健康な動物から採取されたもの」に限ると定めています 。つまり、Cat.3原料は獣医査定で安全と確認された健康動物の部位・副産物に限定されており、病気個体は含まれません 。

また、Cat.3にはPAP(Processed Animal Proteins=加工動物性タンパク質)も含まれ、これがいわゆる「動物副産物ミール」に相当します 。脱脂骨や動物脂肪搾り残渣といった高度栄養価素材もCat.3に含まれ、ペットフードの重要原料になります 。

動物副産物ミールの利用と規制

EU規則1069/2009 第35条は、ペットフードに使える原料を明確に規定しています。具体的には「市販できるペットフードは原則としてCat.3素材から作られること(ただし条項10(n)、(o)、(p)で定義される一部素材を除く)」とされており 、安全な処理・管理を前提にCat.3利用が認められています。

これは、生肉食(Raw Meat-Based Diet:RMBD)に限らず、ドライフードで用いるレンダリングミール全般に当てはまります。EU法上、ペットフードはCat.3由来原料から製造しなければならないため、逆に言えばCat.3以外の高リスク素材はペットフード原料に使用しないという法的裏付けがあるのです 。

さらに、Cat.3動物副産物ミールはEU法に基づく加熱/加圧処理(レンダリング加工)などの厳しい衛生条件下で処理され、病原体は死滅することが規定されています(例:142/2011号令で方法1は133℃・3bar・20分。Cat.3は製品・原料に応じて方法 1〜5または7が適用されます)。

このためCat.3ペットフード原料は「法定の衛生基準に則った安全な副産物」といえます。

ミール原料に含まれる&ない物

以上を踏まえ、ドライフードに使われる「ミール」(レンダリングされた動物性タンパク質・脂肪)には以下の特徴があります。

病気の動物由来

Cat.3は健康な動物由来に限定されるため、疾病個体や疑いのある動物は最初から除かれます。輸出入時の証明書や生体検査で確認され、万一伝染病が疑われれば、Cat.2扱いになる仕組みです。

羽毛・羊毛など

Cat.3に羽毛は含まれますが、健康動物から採取されたものに限ります 。羽毛は高たんぱく・高繊維の原料で、レンダリングにより羽毛ミール(肉ミールとは別物)としてペットフードに使われることがあります。

しかし前述の通り病原性はほぼなく、衛生処理でウイルス・細菌も不活化されます。つまり「大量の羽毛」という心配はありません。むしろ羽毛などの素材も含め、Cat.3原料はもとから厳選された安心なものです。

糞尿や腸内容物

これはCat.2扱いであり、ペットフード原料には使用不可です 。ミールには糞尿成分は含まれませんし、それらを原料にすることは法的に禁じられています。

その他の成分(肉骨粉など)

食肉加工残渣のミール(肉骨粉)もCat.3原料から得られます 。また、牛骨から脂を除いた脱脂骨(骨粉)や圧搾残渣など、高栄養価のCat.3原料も多く使われます。

これらは加工食品の副産物であり、元々人の食品として生産された材料で「公衆衛生上安全」と見なされたものです 。


以上から、ドライペットフードに含まれるミールは、病気動物や糞尿を原料とせず、全て法定基準下で処理されたCat.3由来の安全素材であることがわかります。

加工・衛生管理の要件と法的評価

EU規則はCat.3動物副産物の製造工程にも厳格な衛生管理を課しています。例えば、EFSA(European Food Safety Authority:欧州食品安全機関)も、ペット向け生肉製品(RMBD)について検討し、Cat.3由来原料は規則(1069/2009・142/2011)で定められた厳密な微生物管理基準の対象であると報告しています 。

これには、加熱・加圧処理(レンダリング)によるサルモネラ等の殺菌・不活化や、原料搬送時の汚染防止措置が含まれます。さらに、Cat.3原料には屠畜前の獣医検査を通過した家畜のみが使われ、国際輸送でも検査証明が求められるため、公衆衛生リスクは極めて低いと言えます。

過去のEFSA意見(例:孵化場廃棄物の評価)でも、「適切処理後はペットフード原料として利用可能で、健康リスクは増大しない」と結論付けられています(EFSA, 2011)。

要するに、EU法とEFSAの科学的評価はCat.3動物副産物の使用を事実上「安全」と認めています。BSE(牛)危機後、EU はTSEリスク管理のためPAP規制が強化されましたが、現在は条件付きでCat.3由来動物副産物は法令遵守下でペットフードに幅広く使われています。輸入品も同基準を満たす必要があり、健康証明書付きで安全性が担保されています。

結論:EU産動物副産物は有用な原料

EUの動物副産物規則では、ペットフードに用いる原料は低リスクのCat.3に限定され、かつ各種衛生規制をクリアしなければなりません 。Cat.3動物副産物は健康な家畜由来の副産物で、規定の熱処理により病原体が死滅します。

従って「病気動物・糞尿・不衛生な素材が大量に混入する」という心配は根拠がなく、むしろ不可です。EFSAや欧州委員会も、Cat.3由来原料の利用を前提に科学的安全評価を行っており、Cat.3動物副産物は適切に処理されれば、安全かつ有用なペットフード原料であると示唆されています。

以上の事実から、Cat.3動物副産物の使用に問題はないことが示されています 。