「犬にとって炭水化物は本当に不要なのか?」という疑問は、ペットの健康に気を使う人にとって重要なテーマです。特に、高タンパク・低炭水化物の食事が注目される中、犬に炭水化物を与えることが適切かどうか迷う方も多いでしょう。
実際、犬は炭水化物を消化しエネルギー源として活用することができますが、必須の栄養素という訳ではありません。しかし、適切な炭水化物の摂取は、消化器の健康を支えるだけでなく、体全体のバランスを保つ重要な栄養素です。本記事では、犬と炭水化物の関係について詳しく解説します。
炭水化物とは
炭水化物は、タンパク質や脂肪と同様にカロリーという形でエネルギーを供給する三大栄養素の一つです。そして、炭水化物は「単純炭水化物」と「複合炭水化物」の2つのグループに分けられます。
単純炭水化物
単純炭水化物とは、体内で分解される必要がなく、すぐにエネルギー源として吸収される炭水化物のことです。これらは糖類(糖分)であり、速効性のあるエネルギーを提供します。
主に小腸で速やかに吸収され、すぐにエネルギーとして利用されるのが特徴です。単純炭水化物には以下のようなものがあります。
- グルコース:
ブドウ糖とも呼ばれ、体内で最も直接的に使われるエネルギー源です。
- ショ糖:
一般的な砂糖で、グルコースとフルクトースから構成されています。
- フルクトース:
果物に含まれる糖分で、甘味が強いのが特徴です。
これらは次のような食品に含まれています。
砂糖、蜂蜜、果物、白米、精製小麦粉など
単純炭水化物は速効性のあるエネルギー生成に優れており、体ですぐに利用できるため、運動後や素早くエネルギーを補給したいときに役立つことがありますが、持続的なエネルギー生成には向いていません。
複合炭水化物
複合炭水化物とは、体内でゆっくり消化され、持続的なエネルギーを提供する炭水化物です。これらはデンプンや食物繊維で構成され、消化酵素によって分解された後に体内で吸収されるため、エネルギーが持続的に供給されます。複合炭水化物には以下のようなものがあります。
- デンプン:
膵臓の消化酵素アミラーゼで分解され、体内で吸収されるエネルギー源。
主に穀物や野菜に含まれています。
- 食物繊維:
消化酵素アミラーゼでは分解されず、腸内を通過することで腸内環境を改善し、便の質を向上させます。
これらは次のような食品に含まれています。
- 全粒穀物(全粒小麦、オーツ麦、玄米など)
- 野菜(ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシなど)
- 豆類(レンズ豆、インゲン豆、エンドウ豆など)
- 果物
複合炭水化物は消化が遅くエネルギーを長期的に供給することができる為、血糖値の安定化や消化器の健康維持に役立ちます。
犬は炭水化物を必要するの?
米国飼料検査官協会(AAFCO)は、ペットフードメーカーに炭水化物の含有量を表示することを要求しておらず、犬用フードに炭水化物の要件は設けられていません。これは非常に混乱を招きやすいですが、実際には炭水化物はすべての哺乳類に必要な栄養素です。
哺乳類の消化過程において、単純炭水化物はグルコース(ブドウ糖)に分解されます。グルコースは体の細胞にエネルギーを供給し、彼らの活動を支えます。つまり、犬の食事にも炭水化物は必要なのです。
一方、炭水化物(および脂肪)が不足すると、犬の体はエネルギー源としてタンパク質に頼り始めます。タンパク質は炭水化物よりもエネルギーへの変換効率が悪く肝臓に負担がかかります。本来タンパク質は、成長や組織修復、免疫など、体内の他の重要な機能に使われるべき栄養素なのです。
また、ペットフードの炭水化物源として使用される原材料(穀物、野菜、果物)には、必須脂肪酸や抗酸化物質、ビタミン、ミネラルなどの他の重要な栄養素が含まれていることも忘れてはなりません。
妊娠中や授乳中にも重要
妊娠中や授乳中は炭水化物を含む食事が、子犬の死亡率を低下させ、母犬の低血糖症を予防することがあるという研究結果が出ています。
炭水化物が犬に与えるメリット
炭水化物は犬にいくつかの健康上のメリットをもたらします。
エネルギーと栄養の提供
消化しやすい単純炭水化物は、1グラムあたりタンパク質と同じく約3.5〜4カロリーのエネルギーを供給します。また、穀物、豆類、根菜類といった複合炭水化物はエネルギーだけでなく、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維、必須脂肪酸などの栄養素ももたらしてくれます。
体重管理をサポート
炭水化物は脂肪よりもカロリーが少なく、そして複合炭水化物には食物繊維が含まれている為、少ないカロリーで犬に満腹感をもたらします。そのため、犬の減量や体重管理に効果的です。また、食物繊維は体重管理だけでなく、血糖値やコレステロールの管理にも役立ちます。
消化器の健康を促進
複合炭水化物に含まれる食物繊維には、水溶性と不溶性の2種類があります。水溶性食物繊維は水に溶けるため、犬の結腸に到達すると、善玉菌のエサとして働き、消化を助けます。そのため、水溶性食物繊維は「プレバイオティクス」と呼ばれ、これらの善玉菌の成長を促進します。
一方で、不溶性食物繊維は溶けず、腸を通過する際に便をかさ増しすることで排便を促します。
フードの食感UP
複合炭水化物に含まれるデンプンは、キブルやウェットフードにおいて「嗜好性」という点でも重宝されています。というのも、嗜好性に関係してくるキブルの形状、食感、密度はフードの炭水化物(デンプン)含有量に依存するためです。
どのように炭水化物を消化するの?
数十年にわたる研究によれば、犬は炭水化物を消化できることが示されています。
犬が複合炭水化物であるデンプンを消化するのは、人間と同様に食べ物を噛む段階から始まりますが、犬の唾液には炭水化物を消化する酵素アミラーゼが少量しか含まれておらず、実際ほとんど消化されません。
本格的にデンプンが消化されるのは、膵臓から分泌される消化酵素アミラーゼによって小腸で行われます。この膵臓から分泌されるアミラーゼの量は、炭水化物の摂取量が増えるとともに増加します。
アミラーゼはデンプンを小さな糖分子グルコースに分解する働きがあります。犬の体内で吸収されたグルコースは、門脈という血管を通って全身に運ばれます。血液中にあるグルコースは「血糖」と呼ばれ、体の細胞に取り込まれてエネルギーとして使われます。
また、余分なグルコースは肝臓や筋肉に貯蔵され、後に使用されるためにグリコーゲンとして貯蔵されます。貯蔵されたグリコーゲンを分解しグルコースを生成することで、食物が摂取されないときでも血糖値が安定して維持されます。
炭水化物が犬にもたらすリスク
炭水化物が犬にとって有害だという研究結果はありません。また、炭水化物と犬の健康問題(糖尿病や肥満など)の関連性を示す証拠もありません。体重の増加は、タンパク質、脂肪、炭水化物のいずれから摂取したとしても、過剰なカロリー摂取が原因です。
犬が摂取できる炭水化物量
一般的に35-40%のデンプンを含むドライドッグフード(食事中の水分を除去した状態)であれば、犬は99%以上消化できることが確認されています。
ある専門家によれば、犬は一般的に炭水化物に対する高い耐性を持っており、特にタンパク質や脂肪の摂取量に制限がある犬の場合、1日に摂取するカロリーの最大75%を炭水化物から得ても構わないと言われています。
ただし、糖尿病の犬は単純炭水化物をあまり摂取しない方が良く、多くのエネルギーを必要とする犬は炭水化物を多めに与えるとメリットがあるかもしれません。犬の理想的な炭水化物の摂取量は、犬によって異なるため、疑問がある場合は獣医師に相談することが重要です。
炭水化物の計算方法(%):100%-タンパク質-脂質-灰分-水分
AAFCO基準の場合
AAFCO(米国飼料検査官協会)は、犬の食事における炭水化物の必須摂取量を定めておらず、一般的なドッグフードの保証分析値にも炭水化物の値は通常記載されていません。しかし、市販のドライドッグフードには、通常30〜60%の炭水化物が含まれています。