近年、ペットフード市場ではグレインフリーや低アレルゲンといったニーズが高まり、原材料の見直しが進んでいます。その中で注目を集めているのが「ソルガム」です。
持続可能な農作物としての環境適応力に加え、栄養価や消化性、さらには嗜好性においても他の穀物に引けを取らない実力を持っています。
本記事では、ソルガムをペットフードに採用する意義や科学的データに基づいたその有用性について、最新の研究結果をもとに詳しく解説します。
ソルガムとは?
ソルガム(Sorghum)は、イネ科に属する穀物で、トウモロコシや米と並ぶ世界の五大穀物のひとつです。乾燥に強く、持続可能な農業に適した作物として知られ、グルテンフリーであることから人間の健康食品としても注目を集めています。
近年、ペットフード業界でもソルガムは新たな炭水化物源として関心を集めています。従来の米やトウモロコシといった炭水化物に劣らず栄養価が高く、低アレルゲン性であることや、機能性成分を含む点で製品差別化のカギとなる可能性を秘めています。
ソルガムの栄養的特長
米国農務省(USDA)の食品データベースによると、ソルガムは10.6%のタンパク質を含み、トウモロコシよりもやや高い数値です。また脂質は3.46%とトウモロコシよりやや少なく、代謝エネルギーが抑えられるという利点があります。
脂質の構成では、リノール酸(オメガ6脂肪酸)が50%以上を占め、オレイン酸(オメガ9)も約1/3で、オメガ3であるリノレン酸は全体の3%未満ですが、ペットの必須脂肪酸補給源として十分な機能を果たします。
さらに、ソルガムはカリウム・リン・鉄分が豊富で、ナトリウム含有量が少ないというミネラル特性も魅力の一つです。ビタミン構成は他の穀物と類似しています。
ソルガムの消化性と機能性
ペットフードの設計において「消化性」は非常に重要な要素です。ソルガムは加熱加工によって消化性が大きく向上する穀物として知られており、特に押出成形(エクストルーダー製造)を行うことで、デンプンの消化率が最大0.95(95%)まで高められることが示されています。
研究によると、ソルガムのデンプンは米やトウモロコシと同等の速やかな消化特性を持ち、適切な加工を施せば高い栄養利用効率を実現可能です。さらに、押出加工はデンプンのゼラチン化やタンパク質の変性を促進するため、ソルガムの潜在的な消化阻害因子も軽減されます。
また、ソルガムの特長のひとつが低グリセミック応答(血糖値の急上昇を抑える)です。これは、糖尿病リスクのある犬や体重管理が必要な犬にとってメリットとなる可能性があります。いくつかの研究では、食後の血糖・インスリン値の上昇が緩やかで持続的であることが確認されています。
嗜好性とペットの受容性
ソルガムを使用したドッグフードに対するペットの嗜好性(パラタビリティ)についても、多くの研究が行われています。
アメリカ・カンザス州立大学による調査(Aldrich & Koppel, 2015)では、全粒ソルガム、ソルガム粉、ミルフィード(ソルガムのふすまや胚芽をベースに、機能性や栄養性を高めた素材を加えた飼料)をそれぞれ60%以上配合したドライフードと、米・小麦・トウモロコシを使った対照食を比較しました。いずれの食事においても、犬の摂取量に有意差は見られず、すべてが同等に受け入れられたことが報告されています。
さらに、飼い主を対象にした官能評価においても、見た目や香りに若干の差はあるものの、全体的な評価は対照食と同等でした。とくに全粒ソルガム食は見た目も好印象で、最も高い支持を得たという結果が出ています。
このことから、ソルガムは嗜好性の面でも他の穀物に引けを取らず、安心して使用できる炭水化物原料であると言えます。
ソルガム使用による糞便の質
ペットオーナーがドッグフードを選ぶ際に重視する項目のひとつが「糞便の質」です。見た目・におい・処理のしやすさに加えて、健康状態の指標としても重要視されます。
複数の研究により、ソルガムを主原料とするドッグフードは糞便のスコアにおいて理想的な範囲(ウォルサム糞便スコア基準)を維持していることが確認されています。
たとえばTwomeyら(2002, 2003)の研究では、米・トウモロコシ・ソルガムを含む食事を比較した実験がなされました。ソルガムは他の穀物よりもやや硬めの糞便を形成する傾向がありましたが、すべて「理想的な硬さ」の範囲内でした。また、ソルガムに酵素を添加することで糞便の質がさらに改善され、米ベースの食事と同等レベルに到達しています。
さらに、カンザス州立大学の2016年の研究でも、ソルガム・米・トウモロコシの食事間で糞便のpH、水分量、排便回数に統計的な差はなく、いずれも良好な結果を示しました。
このように、ソルガムは消化器系に過度な負担をかけず、安定した排便状態をサポートする原料であると考えられます。
加工方法と品質保持
ソルガムの栄養価や機能性を最大限に引き出すためには、適切な加工技術の選定が不可欠です。ペットフード製造においては、主に押出成形(エクストルーダー製法)、ベイクド、ペレット化の3つの方法がありますが、その中でもエクストルーダー製法は約80%以上のドライフード製造に採用されている主流の方法です。
押出成形とソルガムの相性
押出成形では、高温・高圧をかけて原料を加熱・混練・成形するため、デンプンのゼラチン化(糊化)が進み、消化性が大きく向上します。たとえば、ソルガムにおける急速消化性デンプンの割合は、36.8%から90.3%まで上昇し、耐性デンプンは45.6%から2.7%にまで低下することが報告されています。
また、アミロースと脂質が複合体を形成することで、酸化しやすい遊離脂肪酸が減少し、製品の保存性(賞味期限)も向上します。これは、酸化によるフードの劣化を防ぎたいナチュラル志向の製品開発にとって非常に有効です。
粒度と加熱条件の影響
Putarovら(2014)の研究では、ソルガムの粒度(0.5mm、0.8mm、1.0mm)がゼラチン化率に影響を与えることが示されました。粒が細かいほど(0.5mm)、ゼラチン化率は高く(93%)、消化性にも優れます。また、白ソルガムは赤ソルガムや米に比べてゼラチン化率が高く、加工にも適していることが示されています。
このように、ソルガムは加工技術と組み合わせることで、栄養価・消化性・保存性といった製品機能を大きく引き上げることが可能な素材であると言えるでしょう。
今後の展望と品種改良の進化
ソルガムはすでに優れた栄養価・機能性を有する原料ですが、近年の育種技術の進展により、さらに高機能な品種の開発が進んでいます。
米国農務省(USDA)の農業研究局(ARS)は、タンパク質含量とその消化性を大幅に高めた新しいゲノム系統のソルガム品種を開発しました。これにより、従来ソルガムが弱点とされてきた「タンパク質消化率の低さ」が克服されつつあります。
また、栽培環境の改善や品種選抜によって、苦味や渋みの原因となるタンニンの含有量が低く、嗜好性に優れたソルガム品種も増加しています。これにより、ソルガムの「苦くて食べづらい」といった過去のイメージは払拭されつつあり、ペットフードへの応用がさらに広がることが期待されています。
さらに、ソルガムは乾燥や高温といった厳しい環境にも強く、他の穀物と比較して少ない水資源で栽培が可能なため、サステナブルな原料としての価値も高いです。これは、カーボンフットプリントを意識する企業にとっても大きな魅力となります。
ペットフード原料としてのソルガム
ここまで見てきた通り、ソルガムは栄養価・消化性・嗜好性・加工適性・糞便の質・サステナビリティの面で非常にバランスのとれた穀物原料であることが多くの研究で裏付けられています。
- 押出加工によりデンプン消化性は最大0.95まで向上。
- 低GI効果や整った排便状態をサポート。
- 嗜好性・見た目・香りにおいても他穀物と同等の受容性。
- 新品種開発によりタンパク質消化性も改善傾向。
- 環境負荷の低い持続可能な原料。
これらの点から、ソルガムは単なる「代替穀物」ではなく、次世代の主要穀物原料のひとつとして、ドッグフードにおける用途拡大が期待される素材と言えるでしょう。