ペットフードの原材料リストで頻繁に見かける「チキンミール」や「ミートミール」といった名称は、単なる呼称ではなく、AAFCO(米国飼料検査官協会)が厳密に定義した法的な用語です。各ミールには原料の種類や部位、処理方法まで詳細な基準が定められており、表示名から原料の実態を正しく読み取ることができます。

一方、欧州のFEDIAFでは、同様の統一原材料定義は存在せず、「meat and animal derivatives」などのカテゴリー名で包括的に表記する仕組みが採用されています。本記事では、AAFCOのミール定義の詳細と、FEDIAF/EUの表示基準との相違点を専門的に解説します。

AAFCO:ミールの定義と表示ルール

米国飼料検査官協会(AAFCO)では、ペットフードに使用される原材料名に厳密な定義が設けられており、ラベル表示ではその定義に沿った正しい名称を用いる必要があります。特に「○○ミール(meal)」と名のつく原材料はレンダリング(加熱処理による脂肪・水分の除去)された動物由来タンパク質を指し、その種類に応じて以下のように定義されています。

チキンミール

AAFCOの定義では「家禽(鶏など)の体の一部または全体(骨付きの場合もある)の清浄な筋肉組織および皮膚を由来とする乾燥レンダリング品で、羽、頭、脚、内臓を含まないもの」とされています。簡潔に言えば、チキンミールは、鶏の肉と皮をレンダリングして乾燥粉末化した高タンパク原料です。

骨は含まれていても良いのですが、肉に付随しない不要部分(羽や頭部など)は含まれません。AAFCOのルール上、この名称で販売される原料には定義通りの内容であることが求められます(例えば本来含めてはいけない頭や脚などが混入している場合、チキンミール(Chicken Meal)とは表示できません)。

チキン副産物ミール

いわゆる鶏由来の副産物(Chicken By-Product Meal)をレンダリング・乾燥した原料です。AAFCOの「家禽副産物ミール」の定義によれば「屠殺された家禽の胴体部分(首、足、未発達卵、腸など)を由来とする、羽毛を除いた乾燥レンダリング製品」であり、保証成分として粗タンパク質やカルシウム・リン含有量の表示基準も定められています。

つまりチキン副産物ミールは、鶏の可食部以外の部分(内臓や首・足など)を加熱処理して乾燥させた粉末タンパク質です。非加熱の「チキン副産物 (chicken by-product)」が頭や脚、内臓などの部位そのものを指すのに対し、「チキン副産物ミール」はそれらをレンダリングして水分と脂肪を飛ばした濃縮タンパク原料です。

チキンミールとの違いは、原料に肉以外の部位を含むかどうかにあります。AAFCO基準では副産物部位が含まれる場合は必ず「副産物ミール」と表示し、単に「チキンミール」と表示することは許されません。

ビーフミール

牛由来のミール原料(Beef Meal)で、AAFCOの定義上はミートミール(Meat Meal)に該当します。ミートミールとは「処理中に不可避的に混入しうる微量を除き、血液、毛、蹄、角、皮、糞胃内容物を含まない哺乳動物の組織をレンダリングして得た製品」で、カルシウムとリンの比率など品質基準も定められた高タンパク粉末原料です。

AAFCO規定では、もし特定の動物種だけを原料としている場合、例えば牛のみを使用しているなら「ビーフミール」と種名を表示してもよいとされています(種混合の場合は単に「ミートミール」と表示する)。

したがってビーフミールは、牛の筋肉組織(必要に応じて骨を含む)をレンダリングして乾燥させたものを意味し、こちらも血液や毛などは含まれません。

ラムミール

羊(ラム/マトン)由来のミール原料(Lamb Meal)です。ビーフミール同様にAAFCO定義上はミートミールの一種で、羊の肉(骨付きの場合あり)をレンダリング・乾燥した粉末タンパクを指します。

原料が羊に限定されている場合、製品ラベルには「ラムミール」と表示できます(羊は哺乳類の主要4種<牛・豚・羊・山羊>に含まれるため、AAFCO規定上「ミート(肉)」に該当しますが、ペットフードでは差別化のため種名表示がよく用いられます)。

内容的にはビーフミールと同様に、清浄な筋肉組織由来で毛や角など不適切物質を含まない高タンパク原料です。

フィッシュミール

魚由来のミール原料(Fish Meal)で、魚全体または魚の加工残さをレンダリング(もしくは乾燥)した粉末タンパク質です。AAFCOにおいて魚粉の定義は特定の魚種に限定されず、いかなる種類の魚でも原料にできます。

一般的に「クリーンで未腐敗の全魚または魚の切れ端を乾燥・粉砕したもの(必要に応じて油脂分を抽出)」という内容で、良質なタンパク質・脂肪源となる飼料原料です。

表示ルールとして、単一の魚種のみを原料に使う場合は種名を付加して「○○フィッシュミール」と表記することが推奨され(例:ニシン由来なら「ヘリングミール」等)、複数種の混合や特定できない場合は包括的に「フィッシュミール」と表示できます。

AAFCOの2023年改訂指針でも「フィッシュミール等、魚由来原料の名称には魚種を特定せず「fish」と表記して差し支えない」と明記されています。

以上のように、AAFCOの定義するミール類はいずれも原料や製法が詳細に規定されており、ペットフードの原材料欄ではその定義に合致した正式名称で表示しなければなりません。

例えば、副産物を含むなら「〜副産物ミール」と記載し、そうでなければ単なる「〜ミール」と記載するなど、名称と中身が対応していることが求められます。

レンダリングにより水分・脂肪を飛ばしたミール原料は、生肉に比べてタンパク質が濃縮されているため、AAFCOの栄養基準を満たすうえで有用な安価なタンパク源として市販ペットフードに広く利用されています。

FEDIAF:原材料名の扱いと表示ルール

個別名称による表記カテゴリ名称による表記
乾燥チキン、コーン、乾燥ラム、サーモンオイル、米、ビートパルプ、ミネラル類、ビタミン類肉および動物由来副産物、穀類、植物由来副産物、油脂類、ミネラル類

一方、欧州ペットフード工業会連盟(FEDIAF)の管轄するヨーロッパでは、AAFCOのように業界団体が細かな原材料定義を公開しているわけではありません。

EUのペットフード表示はEU共通の飼料表示規則に従っており、原材料(飼料原料)の表示方法に特徴があります。基本的に原材料は個別名称で列挙する方法と、カテゴリー(区分)名称で包括的に示す方法のどちらも認められています。

FEDIAFのラベリング実務ガイドによれば、例えば原材料欄を「乾燥チキン、コーン、乾燥ラム…」のように具体的な品目名で記載することも、「肉と動物由来副産物(meat and animal derivatives)、穀類、植物由来副産物…」といったカテゴリ名で記載することも可能です。

どちらの場合でも、含有量の多い順に表示するルール(重量順表示)は共通で、全原材料が網羅されます。

肉及び動物性副産物の表示義務

EUのペットフードでよく見られる表示に「Meat and Animal Derivatives(日本語では「肉及び動物由来の副産物」など)」があります。これはカテゴリー表示の一例で、ペットフード中のすべての陸生動物由来原料をまとめて指す法定用語です。

EU指令82/475で定められたこのカテゴリの定義は「温血陸生動物の屠体から得られるすべての肉質部分(新鮮品または適切に保存処理されたもの)、およびそれらの胴体や一部の加工から得られるあらゆる生成物と派生物」とされています。

平たく言えば、「meat and animal derivatives(肉および動物由来成分)」とは、ヒトの食用に供される家畜から得られる肉・臓器・副産物など、食料供給連鎖の中で発生した動物性原料を広く指す表現です。欧州連合では、ペットフードに使用できる動物原料はEU 規則 (EC) No 1069/2009 および (EC) No 142/2011 に定められた Category 3(低リスク)に属する副産物に限定されています。

これらはすべて獣医師の監督下でと畜され、疾病の兆候がなく、食肉検査に合格した動物由来のものであり、人間の食用に適する、または商業的理由などで人用に回されなかった部分を含みます。したがって、meat and animal derivativesと表示されている場合でも、その原料はEU法の厳格な衛生・安全基準を満たした動物由来原料であることが保証されています。

カテゴリ名称を使用する理由

メーカーがカテゴリー名表示を採用するメリットは、複数の動物原料を一括表示できる柔軟性にあります。例えば「肉と動物副産物」とだけ記載しておけば、牛・鶏・豚など使用する肉種や部位の組み合わせを製造ロットごとに変えてもラベルを変更せずに済みます。

これは、人間の食品加工から出る副産物を有効活用し安定供給するための工夫で、原料調達状況に応じて配合を調整しつつペットフードの栄養バランスを維持できる利点があります。決して「中身を隠すため」ではなく、実際にはカテゴリー表示であっても使用される原料は品質・安全性の面で厳しく管理されており、ペットの健康に必要な栄養を満たすよう配合されています。

FEDIAFも「meat and animal derivativesと表記するか、具体的な原材料(例:chicken meal, beef, liver 等)を列挙するかにかかわらず、すべて同じ基準下で安全・高品質な原料が使われており、適切な栄養設計がなされている」と説明しています。

なお、製品パッケージ上で特定の原料(動物種や部位)を強調表示する場合には、カテゴリー表示を採用していても、その内容割合を括弧付きで示す法的義務があります。例えばパッケージに「ビーフ入り」と描かれている場合、組成欄では「肉と動物由来副産物(ビーフ4%)」のように、そのペットフード中に牛由来原料が4%含まれる旨を表示します。

この規則により、消費者はカテゴリー表示であっても主要な特徴原料の最低含有量を把握できるようになっています。

個別名称表示も多用される

カテゴリーではなく個別の原材料名で表示することも欧州では一般的です。高品質を謳う製品や消費者への透明性を重視するブランドでは、「乾燥チキン」「乾燥サーモン」「ディハイドレートラム」「ビートパルプ」等と具体的な名前で全原料を列挙する方法が採られます。

EUの規則上、個別名で表示する際には必ずしもEU飼料原料カタログ掲載の正式名称を使う必要はありませんが、使う場合にはその定義や基準に合致した内容でなければなりません。EU飼料原料カタログ(Regulation (EU) No 68/2013)は膨大な原料の標準名称と簡潔な定義を各国語で提示したもので、メーカーは多言語ラベル作成時の参考にこれを利用できます。

例えばカタログには「加水分解チキンタンパク」「ポテトプロテイン」「ビートパルプ」などの名称と定義が載っており、もし製品にそれらの名称を用いるなら定義通りの原料を使う必要があります。

ただしカタログ収載名の使用は任意であり、メーカーは消費者に分かりやすく誤解を招かない範囲で、自社製品の原料を適切に表現した名前を付けることができます。例えば「乾燥家禽肉」と書かずに消費者向けに「乾燥チキン」と書く、といった柔軟な表記も許容されています(内容が伴っていれば問題ありません)。

表現が比較的自由である

EUにおける表示では、AAFCOでいう「ミール」に相当する原料も明示的に区別できます。FEDIAFのガイドラインでは、原料が乾燥または濃縮形態の場合、その状態で重量順表示すること、および乾燥品であることを示すために「乾燥○○」「〜ミール」などの用語を付加してよいことが記されています。

実際のラベル例として、「肉粉」を意味する「meat meal」と表記するケースもありますし、「脱水チキンプロテイン(dehydrated chicken protein)やチキンミール(chicken meal)と記載するメーカーも存在します。

いずれにせよ、表示上「ミール」と付いていれば水分を飛ばした乾燥粉末原料であることを示すので、消費者にとっても通常の生肉や副産物との違いが分かるようになっています。FEDIAFの解説の中で「ミールとは加熱処理と乾燥によって水分・脂肪を大部分除去した動物副産物であり、濃縮タンパク源となる」と説明しています。

まとめ: AAFCOとFEDIAFの違い

AAFCOの体系では、原材料ごとに統一された名称と厳密な定義が存在し、ペットフードのラベルには各原料が個別名で列挙されます。そのため「チキンミール」「チキン副産物ミール」「ビーフミール」等といった用語は、それぞれ含まれる部位や加工法が明確に規定された専門用語です。

一方、FEDIAF/EUの体系では、メーカーに原材料名の表示方法の選択肢が与えられており、包括的なカテゴリ名表示によって柔軟性を確保しつつ、必要に応じて具体的名称で詳細を示すことも可能になっています。

EUではカテゴリ名「肉と動物由来副産物」の下にAAFCOのチキンミールやビーフミールに相当する様々な素材が含まれうるため、一見すると米国表示より情報が簡略化されています。

しかし、その背景には原料調達の効率化や資源有効活用といった産業上の理由があり、使用される副産物もすべて法的に適正なものである点は強調されています。

また、欧州でも詳細を明示したい場合は「〜ミール」等の用語を用いて個別表示することが許容されており、実務ガイドラインや飼料原料カタログによって表示の統一性と透明性を保つ仕組みが整えられています。

ペットフード業界の担当者にとっては、AAFCOとFEDIAF/EUの基準の違いを正しく理解し、それぞれのルールに沿った原材料表示を行うことが重要です。そのことで消費者に対しても原料の品質や特性を誤解なく伝え、各市場の法規制を順守した製品提供が可能となります。