昨今、南アフリカに豊富に存在するゲームミート(ジビエ肉)が、栄養価が高いだけでなく環境に配慮した新たな動物性タンパク源となり得るかもしれないということで、海外のペットフード業界で注目を集めています。
ペットフードメーカーが持続可能なタンパク代替源を模索する中、南アフリカのジビエ肉は、その豊富な栄養プロファイルと環境に優しい生産慣行によって、ペットの栄養を高めつつ、持続可能な開発目標を支援する有望な選択肢として視線を集めています。
アフリカ大陸で最大のジビエ肉生産国である南アフリカは、タンパク質対脂肪比に優れた大型ジビエ種の豊富さと高い栄養価を背景に、この新たなタンパク源市場に大きく貢献しています。
南アフリカの「ジビエ肉戦略」は、持続可能なジビエ農場経営とエコツーリズムを通じて2030年までに20万人以上の雇用創出を目指しており、他の地域における持続可能なタンパク源開発のモデルケースとなるかもしれません。
一般的に、アフリカのジビエ肉は脂肪分が3%未満で、タンパク質含有量はスプリングボック(和名:跳羚羊)で21.4%、インパラで23.8%と、アメリカで獲れる一般的な鹿肉に近い栄養成分バランスを持っています。さらに、飽和脂肪酸が少なく、ヘム鉄、ビタミン、ミネラルも豊富に含まれており健康面の利点が多くあります。
新奇タンパク源として、アフリカのジビエ肉は低アレルゲン特性を持ち、従来の動物タンパク源に食物アレルギーを持つペットに理想的だと言えます。もちろん、これらの動物は自然の植生を食べながら自由に歩き回っているため、肉は有機的で人工添加物を含みません。
持続可能性と女性の社会進出支援を促進
南アフリカでは、特に私有地における倫理的な野生動物牧場の拡大が、野生動物の個体数回復や生態系の修復、雇用創出、経済成長に大きく貢献しています。
さらに、その倫理的に管理されたジビエ肉のペットフード利用が、国連の持続可能な開発目標SDGsの中でも、SDG15・SDG8・SDG5・SDG12といった複数の目標に沿っています。
SDG15「陸の豊かさを守ろう」
生息地の劣化を抑え、生物多様性の損失を防ぐことを目的としており、ジビエ動物の個体群を持続可能に再野生化する取り組みとも一致しています。
現地のペットフードメーカーはスプリングボックを現地で調達し、カルー地域のスプリングボック個体群の再生に貢献することを目指して活動しています。
SDG8「働きがいも経済成長も」
また、ペットフード業界でのジビエ肉利用の拡大は、南アフリカ政府が掲げる「ジビエ肉戦略」とも連動しており、2030年までに20万人以上の新たな雇用創出が目指されています。
これにより、農村地域の経済活性化や生活水準の向上にも寄与し、地域コミュニティの持続可能な発展に貢献することが期待されています。
SDG5「ジェンダー平等」
最近の研究では、野生動物牧場経営が従来型の農業に比べて女性の雇用機会を広げていることも示されており、ジェンダー平等の推進にもつながっています。特に農村部における女性のエンパワーメントを後押ししています。
SDG12「つくる責任 つかう責任」
さらに、倫理的に調達されたジビエ肉の利用拡大は、南アフリカのジビエ産業全体の生産量を年間66,140トンから110,232トン以上へと引き上げる目標とも一致しており、地域内のバリューチェーン構築や、約247万エーカーのコミュニティ所有地の統合も計画されています。
この戦略の中でも、ジビエ肉がペットフード産業に活用されます。これにより、肉の切れ端や高付加価値品である内臓といった副産物を活用し、新たな収益源を生み出すことができるのです。こうした取り組みは、資源の有効活用や食品ロス削減にもつながります。
南アフリカを超えて広がる可能性
南アフリカのジビエ肉戦略は、他の地域における持続可能なタンパク源開発のモデルケースにもなり得ます。この戦略は特に、精肉のような高価値部位と副産物が同時に生まれる食肉産業など、様々な副産物が発生する分野に応用可能です。
この戦略は政策枠組み、ガバナンス、イノベーション、生物多様性保全、経済発展、持続可能な管理といった多くの要素を網羅しており、同様の課題を抱える他のタンパク源にも柔軟に応用できると考えられています。
このアプローチが示す重要な教訓は、環境面のみならず、地域経済や生態系の支援という面でも、持続可能性が非常に高い価値を持つという点です。
倫理的に調達されたジビエ肉のようなタンパク源を優先することで、南アフリカ企業の取り組みは他のペットフードメーカーや消費者にも、新たな選択肢としての持続可能なタンパク源の可能性を示しています。
こうした新奇タンパク源の拡大は、地域経済を活性化し、特にアフリカにおいて、より持続可能で収益性の高い未来を築く力になると考えられています。
ペットフードにおける新奇タンパク源
従来とは異なるジビエ肉がサステナブルな飼育・生産方法と組み合わさることで、近い将来に向けて大きな可能性を秘めています。さらに、発酵技術による動物性タンパク質や培養肉といった新たな技術革新も進んでいます。
南アフリカでは、ゲームミートを原料とした培養肉の開発も進められていますが、コストや消費者の受け入れといった課題も依然として残っています。
すでにアフリカのジビエ肉は比較的入手が容易であり、野生動物の個体数維持、また回復の取り組みにも貢献していることを考えると、これらの種から培養肉を作る必要性が本当にあるのかという疑問もあります。
一方で、ペットフード業界は代替肉、昆虫タンパク、植物性タンパク、微生物由来タンパクの需要が高まる中、今後このような新奇タンパク質の開発が活発化していくと考えられます。そして、今後アフリカがサステナブルな新奇タンパク源の供給地として、ますます重要な役割を果たす可能性があると言われています。
例えば、これまで十分に活用されてこなかった動物性タンパク源をペットフードに取り入れることで、新たな道を切り開くことが出来ます。これにより、アフリカの農村地域の生活を支援しつつ、生物多様性の保全や自然環境の維持にも貢献します。
さらに、責任ある資源利用を推進することで、業界関係者・ペット・飼い主・そして地球全体に利益をもたらすことができるかもしれません。
また、世界的なタンパク源不足や代替タンパク需要の高まりを背景に、新奇タンパク源の探求はますます重要性を増しています。というのも、ペットオーナーは、ペットの食事の人間化や食物アレルギー対策といった理由から、これまでの牛肉や鶏肉のような一般的なタンパク源ではなく、新奇タンパク源に関心を寄せていることが分かります。
こうした変化は、ペットの栄養ニーズを満たすだけでなく、ペットフード業界の持続可能性向上にもつながっていくことでしょう。