本記事は、ペットフードの製品開発者、研究者、およびマーケティング担当者の皆様を対象に、機能性原料「マンナンオリゴ糖(MOS)」の科学的根拠と製品応用に関する実用的な知見を提供することを目的とします。

近年、ペットフード市場では「腸活」や免疫ケアといった健康志向が主流となり、科学的エビデンスに基づいた付加価値が強く求められています。その中で、MOSはペットの消化器系の健康と免疫機能を包括的にサポートする重要な機能性原料として、改めて注目を集めています。

機能性原料としてのMOSの重要性

MOS(Mannan Oligosaccharides)とは、酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)の細胞壁に由来するプレバイオティクスの一種です。ペットの消化酵素では分解されずに大腸まで到達し、腸内細菌叢に直接作用することで、ペットの健康維持に貢献する機能性成分として知られています。

その歴史は古く、1990年代から家畜飼料やペットフードで利用されてきた実績があります。特に近年、世界的な抗生物質成長促進剤(AGP)の利用規制の流れを受け、その代替として腸の健康を維持し、生産性を向上させる天然由来の素材として、MOSの重要性はますます高まっています。

本記事では、MOSが持つ多面的な機能の科学的メカニズムを解き明かし、実際の製品開発に繋がる具体的な応用方法までを解説します。

MOSの主要な機能性と作用メカニズム

MOSは、単に善玉菌のエサとなる従来のプレバイオティクスとは一線を画し、より多角的なアプローチで腸と免疫の健康に貢献します。その作用は複雑に連携し合っていますが、ここでは主要な3つの機能に分類し、それぞれの科学的メカニズムを詳細に解析します。

病原菌の抑制:付着阻害のメカニズム

MOSの特徴的な機能の1つが、マンノース結合性を持つ病原菌の付着阻害です。多くのプレバイオティクスが腸内細菌叢の改善を介して間接的に病原菌を抑制するのに対し、MOSは疑似受容体(デコイ)として病原菌を捕捉し、腸上皮への定着を妨げる可能性があります。

MOSを構成するマンノース残基は、病原性大腸菌やサルモネラ菌などが有するⅠ型線毛(Type 1 fimbriae)先端のマンノース結合因子(FimHなど)に認識されやすく、病原菌は上皮細胞ではなくMOSに結合し、結果として腸壁への付着・定着が起こりにくくなります。

定着できない病原菌は腸内で増殖しにくく、便とともに排出されやすくなるため、腸内の病原菌負荷低減や腸管感染リスク低減に寄与し得ます。

例として、下痢症状を呈する犬の治療で、MOS添加群の病原性大腸菌の陰転率が85.7%で、非添加群25%だったという報告があります。

善玉菌の増殖と有害菌の抑制

MOSは、腸内に生息する有益な細菌、特に乳酸菌やビフィズス菌のエサとなり、その増殖を促進するプレバイオティクス効果を発揮します。実際に、健康な成猫にMOSを給与した試験では、糞便中の有害菌であるウェルシュ菌や大腸菌が減少し、一方で有益菌であるビフィズス菌と乳酸菌が有意に増加したことが報告されています。

このような善玉菌が優勢な腸内環境は、ペットの健康に以下のような二次的な利点をもたらします。

短鎖脂肪酸(SCFA)の産生

MOSは強い発酵性オリゴ糖ではありませんが、腸内環境が改善されることで善玉菌の定着が促進され、結果として短鎖脂肪酸(酪酸など)産生に好影響を与える可能性があります。

特にFOSやイヌリンなどの発酵性食物繊維と併用することで、消化管内のpHが適正な弱酸性に保たれ、病原菌の増殖を抑制する環境形成に寄与します。

消化吸収効率の向上

腸内フローラが健全に保たれることで、腸管バリア機能や消化管の安定性が維持され、下痢や炎症を伴う状況では栄養素の消化・吸収が改善する可能性があります。

糞便臭の低減

MOSによる腸内細菌叢のバランス改善(例:腐敗菌の抑制や善玉菌優位化)が進むと、タンパク質の腐敗発酵で生じやすいアンモニア、インドール、フェノール等の臭気関連代謝物の産生が低下する可能性があります。特に発酵性食物繊維(FOS、イヌリン等)との併用設計では、その傾向が得られやすいと考えられます。

腸管免疫の強化と全身への影響

腸は「体最大の免疫器官」とも呼ばれ、全身の免疫システムの約70%が集中しています。MOSは、この腸管免疫を直接的にサポートし、ペットの防御力を高める重要な役割を担います。

粘膜免疫の強化

分泌型IgA抗体は、腸管粘膜バリアにおいて病原体の侵入を防ぐ上で重要な役割を担います。MOSは、腸内環境の改善を介して腸管免疫に関与する可能性があり、犬を用いた研究では、MOSをフラクトオリゴ糖(FOS)と併用して給与した条件下で、小腸局所におけるIgA分泌量の有意な増加が報告されています。

免疫細胞の活性化

MOSは、腸内環境の改善を介して免疫細胞機能に影響を与える可能性が報告されています。犬を用いた研究では、MOSを摂取した条件下で末梢血におけるリンパ球比率に変化が認められ、免疫状態への関与が示唆されています。

また、インビトロ試験では、マクロファージの貪食能の変化や、炎症性サイトカイン産生の調節が報告されており、免疫バランスに影響しうる可能性が示唆されています。

犬と猫におけるMOSの有効性

前章で解説したMOSの多面的な機能が、実際に犬や猫でどのような影響として報告されているのか、科学的エビデンスを確認していきます。これらの実証データは、製品開発における検討材料となり、機能性を説明する際の参考情報として活用できます。

犬における有効性の実証データ

犬を対象とした複数の研究により、MOSの有効性が多角的に示されています。

健康な成犬のケース

結果
MOSを給与した健康な成犬において、糞便中の乳酸菌が増加傾向を示したと報告されています。また研究によっては、FOSと併用した条件下で小腸内容物中のIgAが有意に増加した例や、末梢血におけるリンパ球割合に有意な変化が認められた例があり、腸管免疫および全身の免疫状態に関連する指標に影響し得ることが示唆されています。

結論
これらの知見は、MOSが腸内環境の改善(プレバイオティクス的作用)や腸管バリアを介した免疫関連指標に、条件によって好影響を与える可能性を示すデータと位置づけられます。

胃腸炎を発症した幼犬のケース

結果
下痢を伴う胃腸炎の子犬に対し、通常治療に加えてMOSを併用した臨床報告では、病原性大腸菌の陰転化率(検出されなくなる割合)が、MOS非投与群の25%に対し、MOS併用群で85.7%と高い値を示したとされています。

結論
本結果は、通常治療にMOSを併用することで、腸内の病原菌負荷低減に寄与する可能性を示唆するデータです。また、MOSの付着阻害(デコイ)メカニズムと整合的な所見とも解釈できます。

子犬における長期投与試験

結果
150日間の長期試験において、MOS添加は嗜好性や栄養消化率に有意な影響を示さなかったと報告されています。一方で、免疫関連指標としてCD4+/CD8+比などに有意な変化が認められたほか、血清中の総コレステロールおよび悪玉(LDL)コレステロールが有意に低下したとされています。

また、本試験では糞便中のアンモニアや短鎖脂肪酸(SCFA)に有意差が認められなかった点も併せて報告されています。

結論
本研究は、MOSの長期給与が嗜好性や消化率に大きな影響を与えにくい一方で、免疫関連指標に変化をもたらし得る可能性を示唆するデータと位置づけられます。

さらに、糞便中のアンモニアや短鎖脂肪酸に有意差がみられなかった点は、MOSが強い発酵性に依存して作用するタイプのプレバイオティクスとは異なる特性を持つ可能性を示す所見とも解釈できます。

猫における有効性の実証データ

猫における研究例は犬ほど多くはありませんが、有望なデータが着実に蓄積されています。健康な成猫を対象とした6週間の給与試験では、以下の結果が報告されています。

  • 腸内細菌叢の変化
    糞便中のクロストリジウム・パーフリンジェンスおよび大腸菌が有意に減少し、同時にビフィズス菌および乳酸菌(Lactobacillus属)が有意に増加したと報告されています。
     
  • 腸内発酵産物の変化
    酪酸や酢酸などの短鎖脂肪酸が増加し、それに伴って糞便pHが低下したとされています。これらは、腸内での糖質由来発酵が相対的に増加した可能性を示す指標と解釈できます。
     
  • 結論
    これらのデータは、MOS(酵母細胞壁由来成分)が猫においても腸内細菌叢や発酵環境に影響し得ること、ひいては腸内フローラのバランス改善を介して腸内環境の健全化に寄与する可能性を示唆しています。

処方設計と製造上のポイント

科学的知見を実際の製品に落とし込むためには、処方設計や製造工程における実践的なポイントを理解することが不可欠です。ここでは、MOSを効果的かつ効率的に製品へ組み込むための具体的な指針を解説します。

配合形態と推奨配合量

MOSは、主に酵母細胞壁由来原料としてペットフードに配合されます(例:酵母細胞壁、酵母細胞壁抽出物等)。また製品によっては、乾燥酵母などの酵母由来原料として配合され、MOS供給に加えて呈味性や栄養設計に寄与するケースもあります(※原料の画分によりMOS含量は異なります)。

配合量は、研究や実務で概ね0.1〜0.5%程度の範囲で用いられており、目的(健康維持、消化器サポート、免疫関連指標など)と原料規格に応じて最適化されます。実務上は0.1〜0.3%程度から検討されることが多く、デイリーフードでは0.1%前後、より明確な訴求を狙う設計では0.2〜0.3%前後といった使い分けが考えられます。

また、一部の長期給与試験では比較的高めの添加量でも嗜好性や消化率への影響が小さいことが示されており、耐容性は比較的高い可能性があります。ただし最適量はフード設計・原料規格・対象動物の状態に依存するため、目的指標に基づく検証が推奨されます。

他の機能性成分との相乗効果

市販のプレミアムペットフードでは、MOSが単独で使われるよりも、フラクトオリゴ糖(FOS)やイヌリン、ガラクトオリゴ糖(GOS)といった他のプレバイオティクスと組み合わせて配合されるのが一般的です。

これは、作用機序の異なる複数のプレバイオティクスを組み合わせることで、単独使用よりも幅広い、あるいは強力な相乗効果を狙った「シンバイオティクス設計」の一環です。

例えば、ある企業のフードでは、MOSとチコリ由来のイヌリン(FOSの一種)を併用しています。これにより、腸内環境を穏やかに、かつ確実に善玉菌優勢へと導き、消化器が敏感なペットでも消化不良を起こしにくい、より洗練された処方を実現しています。

製造工程における安定性と副次的メリット

MOSは、ペットフード開発者にとって技術的に扱いやすいという大きな利点を持っています。

  • 優れた安定性:
    熱や酸に対しても比較的耐性があり、高温・高圧がかかるドライフードの一般的な製造工程(押出し加工など)を経ても、その有効性を損ないにくい特性があります。
     
  • 嗜好性向上への寄与:
    酵母由来原料としてMOSを配合する場合、副次的なメリットも期待できます。MOSを含有する酵母原料には、旨味成分であるアミノ酸や核酸が豊富に含まれており、ペットフードの嗜好性(パラティビティ)を向上させる効果が報告されています。

他の原料との比較分析

製品の差別化戦略を立案するためには、類似機能を持つ他の原料との違いを正確に理解することが不可欠です。ここでは、代表的なプレバイオティクスであるFOSやイヌリンとMOSを比較分析し、MOS独自のポジショニングを明確にします。

比較項目MOSFOS/イヌリン
主要な作用メカニズム病原菌への直接的な付着阻害と排除善玉菌の増殖促進(間接作用)
発酵性穏やか(ガスや酸の産生が少ない)速やか(ガスや酸の産生が多い)
栄養・物性ほぼノンカロリー
粉末状で扱いやすい
低カロリー(約2 kcal/g)
吸湿性あり

作用メカニズムの違い

最も大きな違いは、そのアプローチにあります。FOS/イヌリンは、主に善玉菌の「エサ」として機能し、善玉菌を増やすことで悪玉菌の活動を間接的に抑制します。

一方、MOSは善玉菌のエサとしての効果も持ちつつ、主たる機能は病原菌に直接結合して腸壁への付着を妨げ、体外へ排除するという直接的なアプローチを取ります。

発酵性の違い

FOS/イヌリンは腸内細菌によって速やかに発酵されるため、短鎖脂肪酸やガスを多く産生し、強い整腸効果が期待できます。しかし、その反面、過剰に摂取すると軟便や腹部膨満を引き起こす可能性があります。

対照的に、MOSの発酵は非常に穏やかです。犬の糞便を用いた培養実験では、FOS添加時のpH低下幅が2.0であったのに対し、MOS添加時は0.4と、有機酸の産生が控えめであることが科学的に示されています。

この特性により、MOSは消化器が敏感なペットにも安心して使用しやすい利点があります。しかしその分、MOS単独投与では相対的にタンパク質由来の発酵(腐敗)が進みやすく、アンモニア産生の増加傾向が報告されている点には留意が必要です。

栄養面・物性の違い

FOS/イヌリンは腸内発酵により一定のエネルギーに寄与し得る一方、MOSは消化吸収されにくく、エネルギー寄与は限定的です。そのため、低カロリー設計や体重管理コンセプトのフードにおいても、機能性原料として組み込みやすい選択肢となります。

また加工面では、MOS(酵母細胞壁由来成分)は粉末として取り扱いやすく、少量添加であれば製品物性や品質への影響が出にくい傾向があります(ただし吸湿性や流動性は原料規格・配合条件に依存します)。

重要なポイント

結論として、MOSとFOS/イヌリンは単に競合する関係ではなく、お互いの長所を活かし短所を補い合う、極めて相性の良い相補的な関係にあります。

FOS/イヌリンの迅速な発酵が短鎖脂肪酸を産生して腸内pHを強力に引き下げる一方で、MOSの穏やかな発酵性と直接的な病原菌吸着機能が、過剰なガス産生のリスクを抑えつつ異なる角度から腸の健康を守る。

このように、両者を組み合わせることで、互いの長所を最大化し、短所(FOSの過剰発酵リスク、MOS単独での腐敗産物増加リスク)を補完し合う、極めて合理的な処方設計が実現できるのです。

MOSによる価値向上と戦略的展望

本記事で詳述してきた通り、マンナンオリゴ糖(MOS)は、ペットの健康に対して3つの重要な利点をもたらす、科学的根拠に裏付けられた機能性原料と言えます。

  1. 病原菌の制御:
    独自の「付着阻害」メカニズムにより、病原菌を直接的に排除し、感染症リスクを低減します。
  2. 腸内環境の改善:
    善玉菌を増やし、有害菌を減らすことで、理想的な腸内フローラを構築します。
  3. 免疫力の強化:
    腸管免疫と全身免疫の両方をサポートし、ペットが本来持つ防御力を高めます。

これらの機能は、現代のペットフード市場における「腸活」や「免疫ケア」といった主要な消費者トレンドに的確に応えるものであり、MOSの導入は製品に明確な戦略的価値をもたらします。

特に、FOSなどの従来のプレバイオティクスと組み合わせることで、善玉菌の育成から病原菌の排除までを網羅する、より包括的で差別化された腸の健康ソリューションを提供することが可能になります。

MOSは、科学的エビデンスに裏付けられた信頼性の高い機能性原料であり、ペットの健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上に大きく貢献します。

ペットの個別化栄養学が進む未来において、MOSのような科学的根拠が明確で多機能な原料は、特定の健康課題に対応するターゲット製品群を開発する上での基盤技術となり得ます。