近年、ペットフード製造においてプラズマ(血漿)の活用が注目を集めています。プラズマとは動物の血液から赤血球や白血球、血小板といった細胞成分を除いた部分であり、食肉加工の副産物として得られる高タンパク質原料です。スプレードライ加工された血漿粉末は栄養価・機能性が高く、多様なペットフード形態で有用性を発揮します。
本記事では、ペットフード製造業者向けにプラズマの活用メリットと実務上のポイントを解説します。プラズマと血粉の違いから、栄養的価値、消化吸収や腸内環境への効果、嗜好性、製造上の利点、酸化安定性、サステナビリティ、さらに導入時の留意事項まで最新の知見を交えて整理します。
プラズマと血粉の違い
まずプラズマと血粉(血粉末、血ミール)の違いを理解しましょう。プラズマは前述の通り血液から遠心分離機によって得られる液体成分であり、抗凝固剤を加えた健康な豚や牛の血液を分画し、血球を除いた部分を乾燥させたものです。
一方、血粉は分離操作を行わず全血をそのまま乾燥して作られた粉末で、しばしばレンダリング副産物として利用されます。プラズマ粉末は全血中の生物学的に機能性タンパク質を豊富に含むのに対し、血粉は主にヘモグロビン由来のタンパク質を多く含みます。
栄養価の比較
プラズマ粉末の粗タンパク質含有量はおよそ71-78%に達し、高品質な動物性タンパク源として知られています。免疫グロブリンIgGやアルブミン、フィブリノゲンなど血液中の機能性タンパク質を保持している点が特徴です。また灰分(ミネラル)含有量は低めで、低灰分・高タンパクの原料として評価されています。
一方、血粉も総タンパク質含有量自体は高く(製造条件によっては80-90%に及ぶ場合もあります)、鉄分を多く含む点など栄養的特徴はありますが、アミノ酸バランスに偏りがあり高含量の配合には適しません。
特に血粉はリジンなど一部アミノ酸の損失や消化率低下が起こりやすく、過度の加熱処理によって消化性が低下し風味も劣ることが報告されています。また血粉はヘモグロビン由来の鉄分(ヘム鉄)を多量に含むため、脂質の酸化や呈味への影響も懸念されます(後述)。
物性の違い
プラズマ粉末は淡黄色~クリーム色で、水に易溶であるのに対し、血粉は赤褐色でやや溶解性に劣ります。血粉中の赤血球成分はペットフードにおいて天然の着色料として利用される場合があります。
例えば赤血球由来粉末はキブルやウェットフードを濃い色調にする目的で添加されるケースがあります。しかしながら、血粉自体の嗜好性(食いつき)はあまり高くなく、ペットにとって嗜好性の点ではプラズマ粉末が勝ると言えるでしょう。
蛋白源としての機能性と栄養的価値
優れたアミノ酸組成
プラズマ粉末は単なる高タンパク原料に留まらず、機能性成分を兼ね備えた素材です。その栄養的価値は、消化率やアミノ酸組成の点で非常に優れており、しばしば鶏卵粉末(全卵粉や卵白粉)に匹敵する品質と評されます。
実際、スプレードライ血漿(SDAP: Spray-Dried Animal Plasma)のアミノ酸プロファイルは卵粉と同等で、メチオニン含量がやや低い程度であると報告されています。高品質タンパク質としての生物価(Biological Value)が高く、生体での利用効率に優れるため、配合量を控えめにしても必要なアミノ酸を供給できる点は製造コストの観点からも利点です。
免疫機能をサポート
加えて、プラズマには免疫機能をサポートする生理活性物質が含まれています。代表的なものは免疫グロブリン(特にIgG)で、病原体に結合して無毒化する働きを持つ抗体タンパク質です。その他にもサイトカイン、ペプチドなど、多種多様な生理活性物質を含み、動物の健康に寄与します。
こうしたバイオアクティブ成分により、プラズマは単なる栄養源以上の機能性を発揮します。例えば、抗菌作用や免疫調節作用を持つ成分群が含まれており、動物の成長促進や免疫機能の維持に資することが示唆されています。実際、「プラズマは多様な抗菌・免疫効果を持つ生体活性成分の混合物を含み、動物の成長を改善し免疫機能をサポートし得る」とする報告もあります。
テクスチャの改良素材
さらにプラズマ中のアルブミンやグロブリンは熱変性によるゲル化を起こし、このことがペットフード加工時にテクスチャ形成剤として機能する土台になっています。この点は次節以降で詳述しますが、栄養面のみならず物性改良素材としてもプラズマはユニークな価値を持つと言えるでしょう。
プラズマの消化性・腸内環境への影響
消化性の向上
プラズマ粉末は非常に消化しやすいタンパク源です。イヌを対象とした複数の試験では、ドライフードに最大3%までプラズマを配合しても糞便の状態に悪影響を及ぼすことなく、粗タンパク質の消化率が有意に向上したと報告されています。
ネコにおいても、小麦グルテンを結着剤として用いたフードとプラズマ3%配合のフードを比較した研究で、プラズマ使用時の方が消化率が高く糞便排出量が減少したことが確認されています。
プラズマは卵粉や濃縮乳清タンパク物、酵母エキスなどと同等の高い消化率を示し、ペットにとって利用しやすいタンパク源です。また低分子ペプチドも含むため、高齢や消化能力の低下した個体でも負担が少ないと考えられます。
腸内環境と免疫力向上
プラズマの特筆すべき効果の一つに、腸管の健康維持があります。直接的なペットでの研究は限られるものの、マウスやブタを用いた実験からはプラズマ給与による腸内細菌叢の有益な変化が報告されています。
例えば、マウスに8%プラズマを含む餌を与えた試験では、短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌(バシラス門、特にラクトバシラス属やブラウティア属)が有意に増加し、病原菌の抑制や腸管免疫の改善に繋がったとされています。
さらに、そのマウスでは腸粘膜における抗炎症性サイトカイン(IL-10やTGF-β)の発現増加や炎症誘発性サイトカインの低下が見られ、腸のバリア機能が強化されていました。プラズマ中のIgGが腸管内で病原体に結合し、粘膜障害を防ぐ免疫介在効果も示唆されています。
このように、プラズマはプレバイオティクス的作用や免疫調節作用を通じて腸内環境を整え、腸管の炎症リスクを低減する可能性が高いと言えます。
ライフステージ別の効果
プラズマの恩恵は特定のライフステージに限らず、全ての成長段階のペットに有用であると考えられています。とはいえ、年齢に応じて重視される効果が多少異なります。以下にライフステージ別のポイントを紹介します。
幼犬・子猫期
消化器系が未発達な離乳期~成長初期において、プラズマは腸の発達と免疫力強化に寄与すると期待されます。乳離れ直後の子犬・子猫は消化器の安定性が低く下痢を起こしやすいですが、プラズマ由来の免疫因子が腸粘膜を保護し、健全な腸内フローラの確立を助けることで、成長期の消化器トラブル軽減に繋がる可能性があります。
実際、他種動物での研究ながら、プラズマ摂取により病原菌感染に対する抵抗力を高め、抗生物質代替として幼若動物の下痢予防に効果を示しています。これは将来的に離乳期用フードやプロバイオティクス的サプリメントとしての活用に道を開くでしょう。
成犬・成猫期
活動期のペットでは、プラズマは高消化性のタンパク源として筋肉の維持や皮膚・被毛の健康を支えるとともに、高い嗜好性によって食欲増進にも貢献します。また免疫力を平常に保つことで日々の健康維持をサポートします。
特に食事にこだわりが強い偏食傾向のペットや、病中病後で食欲の落ちたペットにおいて、プラズマ配合フードが摂食量を改善したとの報告があります。全ライフステージでメリットがありますが、成長期や老齢期ほどその価値が顕著になる傾向があります。
高齢犬・高齢猫期
老齢期のペットでは慢性炎症の進行が問題となります。加齢に伴い全身で軽度慢性的な免疫刺激状態が続くことで、各組織に酸化的・炎症的なダメージが蓄積し、認知機能や運動機能の低下を招くとされています。
プラズマにはこの慢性炎症を和らげる潜在力があると示唆されています。マウスの早老モデルを用いた研究では、飼料中に8%のプラズマを含めることで、加齢に伴う認知機能低下が有意に抑制され、記憶試験の成績が改善しました。
この効果は、脳内の炎症性サイトカインや酸化ストレスのマーカーが減少し、血液脳関門の接着分子が増加して神経組織への有害物質流入が抑えられたことに起因すると考察されています。さらに、老齢マウスで増加する腸内の有害菌群がプラズマ投与によって減少し、有益菌(乳酸菌やBlautia属)が増加することも報告されています。
こうした知見から、プラズマは高齢ペットの認知症や運動機能低下を緩和し、Quality of Lifeの向上に役立つ可能性があります。実際、プラズマ製造企業APC社もシニア犬の関節可動性や認知機能をサポートするフードへの応用研究に着手しており、今後の高齢ペット向け製品開発における鍵となるかもしれません。
以上のように、プラズマは若齢から老齢まで幅広い段階で有益な作用をもたらすと考えられます。とりわけ幼年期の腸内環境向上や老年期の抗炎症・認知機能サポートといった観点で、差別化された機能性フード素材として期待が高まっています。
プラズマの嗜好性とパラタントとの違い
ペットフード開発で重要なポイントの一つが嗜好性です。プラズマはこの嗜好性の面でも非常に優秀な原料です。犬猫ともにプラズマ配合フードを好む傾向が示されており、特に猫においてはプラズマを含む食事をより好むことが観察されています。
ある猫の試験では、ウェットフードにプラズマを加えた場合に比較食よりも明確に選好性が高まったと報告されました。犬に関しても、APC社のRoger Gerlach氏は「プラズマは犬にとっても極めて嗜好性が高く、とりわけ猫には抜群で、袋を破いてでも食べたがるほどだ」と述べています。
しかし興味深いのは、プラズマはパラタントとは見なされない点です。パラタントとは通常、加水分解レバーやチキンダイジェスト等に代表されるフレーバーコーティング剤であり、製品の表面に噴霧塗布して風味付けする添加物のことを指します。
これに対しプラズマはあくまで高い嗜好性を持つタンパク質素材であり、フード全体に混合して使用されます。Gerlach氏も「プラズマは非常に嗜好性の高い原料だが、我々はこれを従来のパラタントとは考えていない」と述べています。つまり、プラズマは製品の栄養基盤・物性に寄与しつつ嗜好性も高める一石二鳥の素材であり、香味料のように後から風味だけを付与するものではありません。
もっとも、プラズマの使用によって既存のパラタントを全て不要にできるかと言えば、それは製品や状況によります。プラズマは基本風味が良好なため、パラタント添加量を減らせる可能性はありますが、完全に無しにするには慎重な検討が必要です。
特にドライフードの場合、プラズマをキブル内部に配合する方法と、パウダー状のプラズマや加水溶解したプラズマを表面コーティングする方法があります。
ある研究では、ドライキブルをプラズマでコーティングした場合、初回選好性が中立~やや低下するという結果も報告されており、犬ではコーティング単独よりも内包させた方が良い、あるいは他のオイルコーティングと組み合わせて効果を高めるなど工夫が必要かもしれません。
いずれにせよ、プラズマは嗜好性を向上させつつ栄養価も付与できる素材であり、「食いつきを良くするだけ」のパラタントとは一線を画しています。
製品タイプ毎の製造上の利点
プラズマ粉末の持つ機能性は、ペットフードの様々な形態(ウェットフード、ドライフード、フレッシュ/冷蔵タイプ等)において製造上のメリットを発揮します。以下に、形態別の利点を整理します。
ウェットフード(缶詰・パウチ等)
プラズマはウェット製品で結着剤・増粘安定剤として優秀です。アルブミンやグロブリンが加熱により凝固し、ゲルを形成するため、パテやチャンク(角切り肉様製品)の形状を安定して保ちます。実際、プラズマはウェットフード用途で「結着・乳化・保水能力におけるゴールドスタンダード(最高水準)」と称され、古くから多用されてきました。
プラズマを用いることで、製品の水分と脂肪を安定的に抱き込み離水・離脂を防止できるため、パウチを開封した際にも固形とグレービーを適度に分離しながらも、それぞれが崩れず形状を保つ理想的な状態を実現できます。
さらにプラズマは増粘安定剤として用いられるハイドロコロイド(増粘多糖類)を部分的または完全に代替できる可能性も示されています。一般的にグアーガムやカラギーナン等の増粘剤は消化性や糞便性状にネガティブな影響を与えたり腸の炎症を助長する懸念がありますが、プラズマに置き換えることでそうした懸念を減らしつつ同等以上の安定性を確保できます。
実際APC社は、自社のプラズマ製品が卵白や全卵粉末、カラギーナン、グアーガム、小麦グルテンなどの代替となりうることを示しています。プラズマ使用時は製品ムラが減り均質で歩留まりの良い製品となること、食感も向上しジューシーさを両立できることが報告されています。
またプラズマは栄養価を付与する結着剤でもあるため、単にテクスチャを出すためだけの卵や増粘多糖よりも「栄養的付加価値が高い結着素材」と言えます。
ドライフード(キブル)
ドライペットフードでもプラズマは有用です。近年トレンドの高肉含有ドライフードでは、原料肉由来の高水分が押出成形(エクストルーダー)の安定性を損なう一因となります。プラズマはその優れた保水力により、余分な水分を抱え込んで生地を安定化させ、押出工程をスムーズにする効果があります。
Wenger社のラボで行われた実験では、レシピにプラズマを添加することで処方中の生肉量をさらに増やしても押出成形が可能になったと報告されています。これはプラズマがエクストルーダー内での水分調整役を果たし、適切な粘度を保つことでスクリューの負荷を抑えるためと考えられます。
また出来上がったキブルの物理的耐久性向上も確認されています。プラズマ配合によりキブルの崩壊が減少し、流通時や輸送中の粉化が減るため、メーカーにとって経済的メリットがあります。実際、パレット積みや輸送後に袋の底に溜まる細粒(フードの割れかす)が明らかに減り、消費者が袋を開封した時にも砕けの少ない状態が維持できるとのことです。
さらにプラズマは小麦グルテンの代替としても有用で、1の量のプラズマで4の量のグルテンを置き換えられる(=4倍の結着力がある)との試算もあります。小麦グルテンは安価な結着タンパクですが、生物価の低さやアレルギー源となりうる点で課題がありました。
プラズマへの置換はそれら課題を解決しつつ、高い結着効果を発揮するため、グレインフリーやアレルゲン対策の観点でも有効です。またドライフードへの適用に関しては、プラズマを製造前にミキサーで混合してから押出する「内包添加」と、押出後のキブルにコーティングする「外付け添加」の2手法があります。
現在のところどちらが最適かは研究途上ですが、内包の場合は高温高圧で一部機能性が損なわれる恐れがあり、外付けの場合は付着限界量があるなど一長一短です。将来的な研究で、目的に応じた最適添加法が明らかになるでしょう。
フレッシュ/生食フード
加熱殺菌済みのチルドペットフードや、ボイル調理する手作りフレッシュ系食品でもプラズマは活躍します。これらの製品では、開封時に余分な遊離水分が出ないことや、ほぐし易く食べやすい崩れが求められます。プラズマは高い水分保持力によって製品中の水分を適度に抱え込み、離水を防止します。
例えば、冷蔵タイプの総合栄養食でプラズマを使用したケースでは、開封して皿に出した際に余計な水分が漏れず、しっとりほぐれる挽肉状のテクスチャが得られるといいます。
消費者は生肉感やジューシーさを求めつつも、水っぽく汁だらけの製品を嫌うため、プラズマの保水効果はフレッシュ製品の品質向上に寄与します。またプラズマ自体がナチュラルな肉由来成分であるため、クリーンラベルのフレッシュフードにも適合しやすい利点があります。
プラズマの酸化安定性と品質管理
高タンパク質原料を扱う際に無視できないのが酸化安定性の問題です。原料や製品中で脂質やタンパク質が酸化すると、風味劣化や栄養価低下を招くだけでなく、ペットの健康にも影響しかねません。プラズマはこの点でいくつかの利点と留意点があります。
まず、プラズマ粉末自体は脂質含有量が低いため、酸化による脂肪の劣化リスクは小さいといえます。また血液由来原料で問題となりがちなヘム鉄による酸化作用が少ない点もメリットです。
一方、血液中のヘモグロビン(ヘム鉄)は強力な酸化促進因子であり、脂質の過酸化を誘発し易いことが知られています。血粉ではヘム鉄が多量に含まれるため、保存中に酸化が進みやすく、製品の風味を損なったり嗜好性低下の原因となる場合があります。
しかしプラズマは赤血球成分を含まないためヘム鉄量が大幅に低減されており、脂質酸化に対して比較的安定しています(血粉が暗褐色化しやすいのはヘモグロビンの酸化変性によるもので、同時に風味も低下します)。
さらにプラズマ中の一部タンパク質(例えばアルブミン)は金属イオンをキレートする作用があり、微量金属による酸化も抑制する可能性があります。実際、ビーフパティ製品に血漿タンパクを添加すると酸化防止効果が得られたとの報告もあり、これはプラズマ内成分の抗酸化作用と考えられています。
一方でタンパク質酸化については留意が必要です。プラズマ粉末は約70%以上がタンパク質であり、水分を含むと微生物増殖だけでなくタンパク質の酸化・変性が進む可能性があります。特に高温多湿環境での保存は、メイラード反応やタンパク質の酸化反応を促進し、消化率や機能性の低下を招きえます。
例えば、魚粉やチキン血粉を45℃高温下で保存した試験では、タンパク質酸化マーカーの上昇とアミノ酸劣化が認められています。プラズマ粉末も同様に、適切な保存管理が品質維持の鍵となります。具体的な対策としては、水分を10%以下に乾燥させた状態で密封し、冷暗所に保管することが基本です。
加えて、プラズマ中の免疫グロブリンなど熱にデリケートな機能タンパク質の活性を保つには、過度な加熱を避ける必要があります。ペットフード製造では押出工程やレトルト滅菌など高温プロセスがありますが、前述のようにプラズマを後添加(コーティング)する方法も検討するなど、目的に応じて活性維持と殺菌安全性のバランスを取ることが重要です。
サステナビリティとクリーンラベル
サステナビリティ
プラズマ活用のもう一つの利点は、環境持続性(サステナビリティ)やクリーンラベル志向への適合性です。プラズマは食肉産業の副産物である血液から作られるため、本来廃棄される可能性のあった資源を有効活用する取り組みと言えます。
実際、世界最大手のプラズマメーカーであるAPC社は「かつて廃棄物だったものを機能的で価値ある製品に変えるビジネスモデル」であると強調しています。血液は従来、処理が難しく埋立て処分なども行われていた厄介な廃棄物でしたが、プラズマ粉末として再生することで廃棄量を削減し、他の動物の成長に役立てることができます。
このようにプラズマ利用はフードロス削減と資源循環に貢献し、環境負荷の低減につながります。ある論文では、植物由来原料と比較してもプラズマの環境インパクトは小さいとされており、原料調達から製造までのライフサイクルで見ても優れた持続可能性を示すと言われています。
クリーンラベル
またクリーンラベルの観点でもプラズマは有用です。クリーンラベルとは添加物や人工的な原料を極力排し、消費者にとって理解しやすいシンプルな原材料で構成するというコンセプトです。プラズマは天然由来の単一原料であり、AAFCO(米国飼料検査官協会)の定義する「ナチュラル」基準も満たしています。
実際、欧米のペットフードでは原材料欄に「Pork plasma(豚血漿)」等とシンプルに記載されており、これは肉副産物の一種として認識されています。消費者の中には「血液」のイメージから敬遠する声もありますが、一方で人間の医療や食品にも血漿が利用されている事実が信頼感に繋がるケースもあります。
例えば、APC社は医療用血漿製剤の姉妹企業を持ち、人用にも活用される安全な素材である点をアピールしています。プラズマを使うことで、合成着色料を使わずに自然な色合いを出したり、化学的な増粘剤を使わずにテクスチャを改良したりと、添加物削減にも寄与します。
結果として、ラベル表示がシンプルになり、プレミアム志向の消費者にも受け入れられやすい製品設計が可能になります。
このようにプラズマの活用は「環境に優しく、かつラベルに優しい」取り組みとして評価できます。副産物利用によるサステナブルな生産と、天然素材による付加価値向上という二面性を持ち、現代のペットフードが直面する課題(持続可能な調達と消費者志向の高まり)に応えるソリューションと言えるでしょう。
プラズマ活用時の検討事項
最後に、実際にペットフード製造にプラズマ粉末を導入する際に検討すべき実務的ポイントをまとめます。高機能原料ゆえにいくつか押さえておきたい事項があります。
配合量の目安
プラズマの適切な配合率は製品の目的によります。一般的なウェットフードの結着用途では固形分に対し1-3%程度の配合で十分な効果を発揮します。ドライフードでも2-4%程度を内包または表面コーティングするケースが多いようです。
機能性(免疫やプレバイオティクス効果)を狙う場合、研究用途では5-8%といった高い添加率で顕著な効果が報告されていますが、コストや製品設計上そこまで高配合にする例は稀です。商業製品では1-2%前後を配合しつつ、他のタンパク源とのバランスを取るのが一般的です。
コスト要因として、プラズマは原料血液の収集・分画・乾燥という工程を経るため、同重量あたりの価格は通常の肉粉や植物タンパクより高めです。したがって、コストと効果のバランスを見極め、必要最低限の量で最大の効果を発揮できる配合割合を決定することが肝要です。
なお、高配合時には全体のアミノ酸・ミネラルバランスが処方基準を逸脱しないかの注意も必要です。
製造工程上の注意
プラズマは水に易溶で取り扱いやすい粉末ですが、吸湿時にダマになりやすいため仕込み時の投入順序や撹拌に注意します。プレミキサーで他の粉体と予めブレンドしておくか、液体原料中に溶解してスラリーとして添加する方法も有効です。
押出成形を行う場合、高温高圧での滞留時間が長いと免疫グロブリンなどの活性が損なわれる可能性があります。必要に応じて、ドライフードでは押出後の真空コーターでプラズマ粉末溶液を噴霧塗布するなど、工程の後段で添加する方法も検討してください。
レトルト殺菌が必要なウェットフードでは、プラズマは加熱凝固して結着効果を発揮しますが、pHが極端に低い条件(酸性)では凝固しにくくなるため、処方のpHレンジにも留意します。極端な高温乾燥はタンパク質変性を招くため、二次乾燥や焼き工程がある場合は温度設定を確認しましょう。
なお、プラズマ自体は加工特性が良く他の原料との相性も概ね良好ですが、酵素製剤(デンプン分解酵素など)を併用する場合は、プラズマ中のタンパク質が酵素作用で予期せぬ影響を受けないか試作検証すると安心です。
原料スペックと品質
信頼できるサプライヤーから調達し、原料仕様書を確認することは基本です。プラズマ粉末の主な規格項目は粗タンパク含量(通常70-80%)、水分(10%以下)、灰分、pHなどです。免疫グロブリン含量を保証する製品もあります。
動物種(豚由来、牛由来、鶏由来)による差異は大きくありませんが、稀に嗜好性やアレルギーの観点で使い分けることもあります。例えば、豚血漿は一般的でコストパフォーマンスも良好、牛血漿はゲル強度が高いがBSE非汚染国由来であることの確認が重要、鶏血漿はやや特殊で供給量が限られるが低頻度抗原のイメージがあります。
それぞれの特性と調達性を考慮して選定します。また法規制にも注意します。日本国内では血液由来原料のペットフード利用に明確な禁止はありませんが、地域によってはレンダリング副産物の制限があったり、輸出入時に清浄性証明が必要な場合があります。
米国FDAは健康な家畜由来であればペットフードに血液製品を使用することを認めていますが、BSEリスク管理の一環で反すう動物由来の血漿を反すう動物向けの飼料に使用することが禁止されている等のルールもあります。ペットフード(犬猫)は反すう類ではないため大きな制約はありませんが、由来原料のトレーサビリティ確保や適切な殺菌処理が行われていることを確認しましょう。
表示・マーケティング
最後に、プラズマを配合した製品のマーケティングに関しても触れておきます。ペットフード表示上は「〇〇血漿」あるいは単に「血漿タンパク」などと記載することになります。消費者への説明では、「〇〇由来の血漿(プラズマ)を配合しています。血漿は高品質なタンパク源で、免疫を支える成分を含み、嗜好性や消化性にも優れています」といった前向きな情報提供をすると良いでしょう。
近年はペットフードにエビデンスを求める飼い主も増えているため、可能であればプラズマの効果に関する研究データ(消化吸収改善や嗜好性テスト結果など)を紹介できると信頼性が高まります。