ペットフード開発において「Gut Health(腸の健康)」は、もはや「オリゴ糖や乳酸菌を入れる」だけの単純な話ではありません。

腸は栄養の消化・吸収の場であると同時に、発酵(腸内細菌の代謝)・粘膜バリア・腸管免疫を介して全身の炎症トーンや代謝、行動にまで波及し得る「機能臓器」として捉えられています。

また、犬と猫では消化管の特徴や栄養利用の前提が異なるため、同じ「腸活」でも最適解は変わります。本記事では、ペットフードメーカーの開発責任者の方向けに、以下のポイントを根拠を示しつつ整理したいと思います。

  • 小腸・大腸で何が起きているか(役割分担)
  • 腸の健康“良い状態”にするための設計目標
  • 腸から全身に波及する作用機序
  • 研究で示されている効果(犬・猫)
  • 製品設計に落とす実務ポイント
  • 検証設計(何を測れば“効いた”と言えるか)
  • 欧米市場の需要動向と今後(研究×市場)

犬猫の消化管の基礎:小腸と大腸の役割

小腸:消化・吸収の主戦場

食餌中の主要栄養素の「消化と吸収の大部分」は小腸で起こります。小腸は、膵酵素・胆汁酸・刷子縁の消化酵素などの働きにより栄養素を吸収可能な形に分解し、門脈を経て肝臓へ運ぶ中心ルートです。

  • タンパク質
    胃での初期分解の後、小腸で膵臓由来プロテアーゼ等によりペプチドおよびアミノ酸へと分解されます。最終的な吸収は主に小腸上皮細胞で行われ、門脈から肝臓に運ばれます。
     
  • 脂質
    胆汁酸による乳化の後、リパーゼ等で脂肪酸・モノグリセリドに分解されます。長鎖脂肪酸は吸収後、キロミクロンとして主にリンパ系を経由して血中へ移行します。
     
  • 炭水化物(デンプン等)
    膵液中のアミラーゼによりオリゴ糖まで分解された後、小腸刷子縁酵素によって単糖にまで分解され、吸収されます。一方、一部の未消化分画(レジスタントスターチ等)は消化されずに大腸へ到達します。
     
  • ビタミン・ミネラル
    多くは小腸で吸収されます。小腸粘膜障害や膵外分泌不全などにより消化・吸収機能が低下すると、体重減少や慢性下痢につながることがあります。
ポイント


腸活設計で最初に固めるべきは「小腸で消化・吸収されるべきものをきちんと小腸で処理し切ること」です。ここが崩れると未消化物が大腸へ流れ込み、発酵・腐敗が過剰に起こって便性状が乱れます。

大腸:水分・電解質吸収と発酵

大腸の主要機能は、水分・電解質バランスの維持(再吸収)、糞便の貯留と排泄、そして腸内細菌にとっての「発酵タンク」の提供です。小腸ほど栄養素の吸収は行いませんが、食餌設計上はむしろ重要な役割を持ちます。大腸での発酵代謝は便の性状・臭気・ガス、さらには免疫応答や全身の炎症状態にも影響します。

  • 水分とナトリウム等の再吸収
    大腸は内容物から水分・電解質を再吸収し、糞便を適度な固さに整えます。大腸機能が低下すると水分が吸収されず、「大腸性下痢」として軟便や水様便が生じます(大腸性の下痢はしぶり腹や粘液便が特徴です)。
     
  • 発酵
    食物繊維、難消化性オリゴ糖、レジスタントスターチなどが腸内細菌により発酵分解され、短鎖脂肪酸(SCFA:酢酸・プロピオン酸・酪酸など)が産生されます。これらSCFAは大腸粘膜上皮の主要なエネルギー源となります。例えば、犬の大腸では酢酸・プロピオン酸・酪酸がモル比で約60:20:10の割合で産生され、酪酸(ブチレート)は大腸上皮細胞(結腸細胞)のエネルギー源として特に重要です。
     
  • 腐敗(タンパク質発酵)
    一方、未消化のタンパク質が大腸に多く届くと、腸内細菌によるタンパク質発酵(腐敗)が強まり、アンモニア、フェノール類、インドール類などの「腐敗産物」が増加します。これらは糞便の悪臭の原因となるほか、大腸粘膜への負担や全身への悪影響(炎症惹起など)につながる可能性があります。
ポイント


大腸は「腸活の主戦場」になりやすい反面、過発酵(ガス過多・軟便)や腐敗(臭気増大・炎症惹起)もここで起こります。つまり、大腸は「調律する場」であり、栄養設計によって「良い発酵」と「悪い発酵」のバランスを取ることが極めて重要です。

犬と猫の違いについて

犬と猫はどちらも単胃動物ですが、栄養生理の前提が大きく異なります。

  • 猫 (Felis catus):
    「真の肉食(obligate carnivore)」であり、エネルギー需要の多くをタンパク質と脂質の代謝に依存します。炭水化物利用能は限定的で、高炭水化物食への生理的適応力も低いとされています。
     
  • 犬 (Canis lupus familiaris):
    「雑食寄り」で、炭水化物の消化吸収能力が猫よりも発達しています。実際、犬では膵アミラーゼ活性が猫より高く、でんぷんなどの高糖質食にもある程度適応できることが知られます。

解剖学的にも、犬猫は盲腸が小さく、結腸が非嚢状(ひのうじょう)であり、草食動物に比べて後腸発酵に使える容積が大きくありません。犬と比べて猫の盲腸はさらに短小であるとの報告があります(犬では盲腸が比較的長く螺旋状なのに対し、猫では短くコンマ形状です)。

このため、反芻獣や馬のように「大腸発酵でエネルギーを稼ぐ」設計には向いていません。腸活で狙うべきは、「少量でも質の良い発酵(SCFA産生)」と、便性状・バリア機能・免疫状態の安定化です。
 

ポイント


猫では肉食動物としての代謝特性を踏まえタンパク質の高消化性や過剰発酵を避ける設計が重要であり、犬ではある程度の炭水化物利用も見込みつつ発酵による便・腸内環境改善をバランス良く狙う、といった差別化が必要になります。

未消化のまま大腸へ行くと?!

大腸へ流れ込む基質(未消化物)の性質によって、起こる現象は大きく変わります。

A) 「良い発酵」が起きやすい基質

発酵性の高い食物繊維、難消化性オリゴ糖(FOS等)、レジスタントスターチなどは腸内細菌による代謝でSCFAを産生し、腸内pHを低下させ、粘膜バリアや局所免疫に好影響をもたらすことが期待されます(※ただし、一度に大量に与えると軟便・ガスの原因にもなり得るため注意が必要です)。

例えば、犬では、食餌にフラクトオリゴ糖類を加えると大腸内のpHが低下し、SCFA濃度やビフィズス菌・ラクトバチルス菌が増加するとの研究報告があります。

B) 「腐敗」が強まりやすい基質

未消化タンパク質が多く大腸へ到達すると、アンモニア、フェノール類、インドール類などの腐敗産物が増え、糞便の臭気悪化や腸粘膜への負担増大につながります。近年、高タンパク食が犬の大腸におけるタンパク発酵・腐敗産物を増やすことを示した研究もあります。

例えば、Xuら(2017)の研究では、肥満傾向のない健康な犬において高タンパク質食(HP)を与えた群では低タンパク質食(LP)群に比べ、糞便中のアンモニア・分枝鎖脂肪酸・フェノール・インドール濃度が有意に上昇しました。

一方、酢酸や酪酸など有益なSCFA濃度には有意差が認められなかったことから、高タンパク条件下では「発酵の質」が悪化しやすいことが示唆されています。


さらに、慢性腸症(chronic enteropathy; いわゆるIBDなど)の犬では、糞便中SCFA濃度の低下や腸内細菌叢の多様性低下が報告されており、「発酵の質」が崩れることが病態と結びつく可能性が示唆されています。Isaiahら(2019)の研究では、慢性腸症犬で酢酸・プロピオン酸など主要SCFAが健康犬より有意に低値であり、菌叢多様性の低下・ディスバイオシス(異常菌叢)の存在が確認されました。
 

ポイント


腸活では「良いものを足す」より前に、未消化を減らす(小腸で処理し切る)、そして大腸へ届く基質の「質と量」を整えることが王道です。まず小腸で確実に消化吸収させて未消化物を極力減らすこと、その上で適切な発酵性基質を与えて大腸での発酵バランスを良好に保つことが重要です。

腸の健康状態を知る4つの指標

腸の健康(Gut Health)が良好な状態とは、端的に言えば「腸内環境および腸管機能が、消化・吸収・防御・代謝の各面で安定しており、全身の健康を支える状態」です。開発上は以下の4つを設計指標として考えると整理しやすくなります。

腸内細菌叢(マイクロバイオーム)

腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、単に「菌の種類が多い(多様性が高い)」だけではなく、以下のような性質が重要だと考えられています。

  • 食餌変化やストレスで乱れにくい安定性(レジスタンス)
  • いったん乱れても元に戻ってくる回復力(レジリエンス)
  • 機能冗長性(同じ機能を別の菌が代替できる余裕)

犬猫の腸内細菌叢は食餌組成(タンパク質・繊維・脂質の含量、生食か加熱食か等)の影響を強く受けることが確認されており、日々のフード設計が菌叢の構成・代謝能力を左右します。

また、犬の腸内マイクロバイオームは食餌組成が変わっても比較的安定・回復しやすいとの報告もあり、ある程度のレジリエンスを備えている可能性が指摘されています(オーストラリアの調査では「犬の腸内細菌叢の安定性と回復力が顕著」と述べられています)。
 

ポイント


製品差別化を「◯◯菌を入れた」と菌種の列挙で終わらせず、「どの機能(例:SCFA産生、胆汁酸代謝、腐敗産物の抑制など)を狙うか」を語れると強力です。

腸内細菌叢は「忘れられた臓器」と称されるほど多彩な機能を持つため、「何をもって腸内環境が良いと言えるのか」を機能面から定義して設計に落とし込むことが重要です。

例えば「繊維ブレンドで酪酸産生菌の活性を高める」「高タンパクでも腐敗産物を増やさないよう抑制菌群に着目する」等、機能を起点とした設計指針を持つと差別化につながります。

穏やかな発酵(SCFA)

短鎖脂肪酸(SCFA)は腸内細菌の代謝産物であり、酪酸は特に大腸上皮のエネルギー源として重要視されます。一方で、発酵が急激すぎるとガス産生や浸透圧変化による下痢(軟便)に繋がりかねません。開発では、「SCFAを増やす」よりもむしろ、以下のような「制御」の発想が重要です。

  • 発酵の速度をなだらかに制御する(基質の溶解性・粒度・粘性・配合量の調整によって、腸内細菌への供給ペースをコントロールする)
  • 発酵の偏りを抑える(単一の発酵基質をドカっと入れず、複数の発酵源を組み合わせて段階的に発酵させる)

具体的には、可溶性・発酵性の高い繊維ばかりを大量に入れると小腸で吸収されずに一気に大腸で発酵が進み、ガス過多や軟便を招くことがあります。一方、不溶性で発酵しにくい繊維(セルロース等)を組み合わせると発酵のスピードを緩和しつつ便の形を整える効果も期待できます。

経験則的にも、「発酵の速い基質」を単独で多量に入れるより、速い→中庸→遅い発酵速度の繊維源をバランス良く配合する方が便は安定しやすい傾向があります。

研究例として、犬において高発酵性のフラクトオリゴ糖を適量添加すると糞便中の酪酸などSCFAが増えつつ、乳酸菌やビフィズス菌が増加しpHが低下したとの報告があります。

一方で、過剰な繊維添加は消化率低下や便量増加も招き得るため、「何のために繊維を入れるのか」(便を固めたいのか、発酵を促したいのか、カロリー調整なのか)を明確にして設計する必要があります。

粘膜バリア(粘液層)

粘膜バリアは、粘液層・上皮細胞・タイトジャンクション・免疫細胞が協調して作り出す「防波堤」のような存在です。特に大腸では、粘液(ムチン)による物理的バリアが病原体の侵入を防ぎ、さらに上皮下の免疫細胞が腸内細菌叢の恒常性維持に関与します。腸活設計では、「バリアを強化する」素材を謳うより、バリアを荒らさない条件を作る(過発酵・腐敗・刺激物の抑制)ことが本質的に重要と考えられます。

例えば、酪酸は前述のように結腸上皮のエネルギー源となりタイトジャンクション(上皮細胞間結合)の維持にも寄与します。実際、腸内の有益菌が産生する酢酸や酪酸はタイトジャンクションを強化し上皮バリアを維持することが報告されています。一方、リポ多糖(LPS)など腸内細菌由来の内毒素が過剰に漏出すると全身炎症の原因となるため、バリア機能低下は避けねばなりません。

開発上は、過度な発酵や腐敗で粘膜が刺激され炎症が起きる状況を作らないこと、さらに可溶性繊維や発酵産物(酪酸など)で粘膜上皮を適度に養うことがポイントです。具体的には、粘膜バリアを意識した素材として発酵代謝産物(ポストバイオティクス)やムチン分泌を助ける発酵性繊維などが注目されます(後述)。

腸管免疫

腸にはGALT(腸管関連リンパ組織)が広く分布しており、体内でも最大級の免疫システムを担います。経口抗原に対しては、「攻撃しすぎない(免疫寛容)」ことと「必要な防御を発揮する」ことのバランスが求められます。

腸管免疫の指標としてよく測定されるのがIgAです。IgAは粘膜表面で病原体の結合を阻害する分泌型抗体で、腸管免疫の健全性を示す一つのマーカーと考えられます。

実際、特定のプロバイオティクス投与でIgAなど免疫指標が変化した報告があります。例えば、Enterococcus faecium SF68株の摂取により、子犬で糞便中および血清中のIgAが有意に増加したとの研究があります(Benyacoubら 2003)。

同研究では、ワクチン抗原に対するIgG, IgA価上昇やB細胞比率増加も併せて報告されており、プロバイオティクスによる腸管免疫修飾の一例とされています。
 

ポイント


「免疫を上げる」という表現は慎重を要します。免疫は高ければ良いというものではなく、過剰な炎症反応も有害だからです。開発としては、「炎症トーンの調整」(過剰な炎症を抑えつつ必要な防御力を維持)といったニュアンスで訴求するのが安全で実務的です。

例えば「腸のバリア機能と健やかな免疫バランスの維持をサポート」といった表現が望ましいでしょう。腸活素材としては、酵母由来βグルカンや核酸成分など粘膜免疫を整える素材もありますが、効果は緩やかなため**「荒れにくい環境を整える」**文脈で組み込むのがおすすめです。

なぜ腸を整えると全身に波及するのか?

腸は単独の器官ではなく、全身の様々な臓器・機能と相互作用するハブ(拠点)です。そのため腸内環境を整えることが皮膚や脳、腎臓など全身に波及し得ることが近年明らかになってきました。それぞれ「○○–腸軸」と呼ばれ、研究・市場双方で注目が高まっています。ここでは主要な4つの軸について、その機序とエビデンスを概観します。

腸 – 免疫軸

腸内細菌の代謝産物(SCFA等)や粘膜バリア状態は、局所免疫だけでなく全身の炎症シグナルに影響を及ぼし得ます。

前述のとおり酪酸は大腸上皮の主要エネルギー源であり、上皮細胞を健全に保つことで粘膜局所の適切な免疫応答(過剰炎症抑制)に寄与します。また、酢酸や酪酸は腸内のpH低下を通じて病原菌増殖を抑えるほか、制御性T細胞の誘導や抗炎症サイトカイン産生促進など免疫調節作用を持つことが示唆されています。

さらに、犬猫領域でのプロバイオティクス利用に関する整理も進んでいます。例えば、獣医領域で利用されるプロバイオティクスの用途とエビデンスについて総説があり、下痢の管理やアレルギー疾患補助、ストレス緩和など用途別にエビデンスがまとめられています。

腸–免疫軸の具体例としては、犬でプロバイオティクス投与により血中の炎症マーカー低下やワクチン抗体応答改善が報告されたケースがあり、腸を整えることで「攻撃しすぎず守る」免疫バランスをサポートできる可能性が示されています。

腸 – 皮膚軸

犬のアトピー性皮膚炎(cAD)では、腸内細菌叢との関連が議論されており、プロバイオティクス投与で皮膚症状の臨床スコア改善や細菌叢の変化を示した報告が出ています。

韓国の研究チームによる試験(2025年)では、23頭のアトピー犬に16週間プロバイオティクスを投与し、症状スコア(CADESI-4や痒み指数)の有意な改善と腸内細菌多様性の増加を確認しています。

特に、プロバイオティクス投与後に、腸内多様性が増した犬ほど皮膚症状が改善しており、腸内環境の是正がアトピー症状の緩和に寄与する可能性が示唆されました。

また、古くから犬のアトピーに対する特定菌株プロバイオティクスの検討も行われています。例えばLactobacillus rhamnosus GG株を用いた臨床試験(Marsellaら, 2012)では、症状予防効果を評価しましたが結果は限定的でした。

しかし、その後の多菌株プロバイオティクスやシンバイオティクス(菌と基質の併用)の検討で有望な結果が報告されつつあります。
 

ポイント


皮膚は「目に見える価値」をユーザーに提供できるため、腸の機序→皮膚の結果というストーリーが組めると製品訴求力が高まります。ただし、医薬品ではないフードの立場からは「治る」ではなく「維持をサポート」「すこやかな皮膚を保つ」といった表現に留め、腸内環境との関連を示唆するにとどめるのが安全です。

腸 – 脳軸

犬では、腸内細菌(あるいはプロバイオティクス)が行動指標に影響する可能性が研究されています。例えば、Bifidobacterium longum BL999(※Nestléの特定株)の投与により不安行動が改善したとの報告があり、Nestlé Purina社は同菌を使った「Calming Care」というサプリメント製品を発売しています。

BL999の試験では不安症のラブラドール24頭を対象に、BL999投与群で吠え・飛び付き・ペーストなどの不安行動が減少し、心拍数など生理指標も改善したと報告されています。

腸–脳軸の機序としては、腸内細菌が産生する神経活性物質(例:GABA)や、セロトニンの前駆体となる代謝物(例:トリプトファン関連)、迷走神経刺激、ストレス時のコルチゾール応答の緩衝などが考えられています。腸内環境悪化に伴う炎症性サイトカインや腸管透過性亢進も脳に影響を及ぼし、不安・抑うつ様行動に関与するとの知見がヒトやマウスで示唆されています。

一方、行動・メンタル領域は測定の難しさや個体差の大きさから、製品差別化としては便や皮膚以上に再現性のハードルが高い領域です。製品訴求としては、以下の程度に考えるほうが消費者理解にも沿いやすく、リスクが低いでしょう。

  • 「落ち着き」や「ストレスケア」を前面に出しすぎない。
    (機能性表示の根拠にしにくいため)
  • 「消化の安定→生活の快適さ」という導線で語る。
    (例えば「お腹の調子を整えることで結果的に元気に過ごせる」等)

現状エビデンスとしては「腸を整えるとストレス反応が緩和される可能性」程度ですが、今後犬猫の腸–脳軸研究は増えていくと予想されます。

腸 – 腎/尿路軸

近年、犬猫の慢性腎臓病(CKD)と腸内環境の関係(いわゆるgut-kidney axis)が整理されつつあります。腸内細菌叢・粘膜バリア・微生物代謝物が腎機能や尿毒症物質の産生に関与し得るという観点のレビューが複数発表されています。

Summers & Quimby(2024)のレビューでは、腸内細菌叢の異常(ディスバイオシス)が微生物由来尿毒素の蓄積や全身炎症を通じて腎不全を悪化させること、逆に腸内代謝を標的とした介入がCKD管理に有望であることが示されています。

実際、腸内細菌由来の尿毒素(インドキシル硫酸やパラクレゾール硫酸など)は犬猫CKDでも上昇し、疾患進行との関連が指摘されています。Veterinary Journalに掲載された研究(2018年)では、犬猫の血中インドキシル硫酸濃度がCKDの進行リスクを予測するマーカーとなり得ることが示されました。

また、日本での検討では腎不全初期の猫でも健常猫に比べ血中インドキシル硫酸が有意に高いことが報告され、比較的早期から腸内由来毒素の蓄積が始まる可能性があります。

尿路結石との関連では、犬でOxalobacter formigenes(腸内のシュウ酸分解菌)を保有していることが、カルシウム・シュウ酸結石が形成されていないこと(非存在)と有意に関連するとの報告があります。

O.formigenesは腸内でシュウ酸を餌にする細菌で、その存在が尿中へのシュウ酸排泄を減らし結石リスクを下げる可能性があります。実際、結石が無い健康犬では結石犬よりも腸内O.formigenes遺伝子の検出率が高かったと報告されています。

猫でも、腎・尿路結石の大半がカルシウム・シュウ酸系であることから、腸・尿路マイクロバイオームとの関連が研究されています。

例えば、CKD猫での腸内ディスバイオシスや糞便中分枝鎖脂肪酸増加(タンパク発酵マーカー)、胆汁酸プロファイル異常、必須アミノ酸不足などが確認されており、腸内環境の変調が栄養吸収や毒素産生に影響している可能性が示唆されています。

また、IRISステージ2程度の早期CKD猫でも健康猫より血中尿毒素が高いことから、腸内環境ケアによる腎臓病進行抑制が期待されています。
 

ポイント


腸 – 腎/尿路軸は、まだ可能性がある領域です。商品訴求に用いるなら、尿路・腎ケアの基本はあくまで既存の栄養設計(ミネラルバランス、尿pH調整、水分量確保など)であり、腸は補助線として扱うのが現実的です。

「腸内環境を整えて尿毒素産生を抑える」「善玉菌によるシュウ酸代謝をサポートする」といった表現で、あくまで全身の健康維持の一環として腎・尿路への良い影響を示唆するに留めるのが良いでしょう。

腸の健康による可能性のある効果

腸は様々な疾患・症状に関与し得ますが、疾患の原因は多因子であり腸だけ整えれば万能という訳ではありません。本章では、「研究で示唆される方向性」と「開発で狙える結果」を分けて捉え、どこまでがエビデンスに基づく期待効果で、どこからが表現上の工夫なのかを整理します。

全身健康:免疫・炎症・アレルギー

前述の通り、特定のプロバイオティクス摂取でIgAなど免疫指標が変化した報告があります。代表例としてE.faecium SF68の長期給与により糞便中IgAやワクチン抗体価が上昇した試験、あるいはシニア犬に乳酸菌発酵物を与えて炎症マーカー低下を示唆した報告などがあります(後者は社内報告レベルのものも含む)。

犬より研究数は少ないものの、環境ストレス下での菌叢安定性など免疫・腸内環境の接点が議論されています。例えば、Torres-Hendersonら(2017)の研究では抗生物質投与というストレス下でも、プロバイオティクスSF68を与えた猫は糞便中の多様性低下が抑えられたことが報告されました。

同試験では、SF68投与群の猫で慢性の猫ヘルペスウイルス症状(くしゃみ・鼻水など)が経時的に少なかったことも示され、腸内菌による免疫調節を示唆しています。


開発で狙いやすい安全な表現は、「免疫を上げる」ではなく「腸のバリア機能と健やかな免疫バランスの維持をサポート」等です。例えば「●●成分がお腹の中の善玉菌を助け、腸管バリアと適切な免疫機能を維持します」といった表現なら、上記エビデンスとも整合しやすくリスクも低いでしょう。

消化器症状:下痢・便秘・鼓腸・便性状

下痢の管理

腸活の最も直接的かつ消費者に実感されやすいのは「便」です。実際、市販の消化器サポート製品でも「便の質を改善」「軟便・下痢の軽減」は主要な訴求点です。

エビデンスとして、猫の慢性下痢に対し多菌種シンバイオティクス(Proviable-DCなど)を21日投与したオープン試験では、72%の飼い主が下痢が改善したと認識したとの報告があります。実際に平均糞便スコアが**6.0から4.4に有意改善(数値が小さいほど固い便)しており、慢性下痢の管理にシンバイオティクスが有用となり得るエビデンスです。

また、抗菌薬関連の下痢について、前述のTorres-Hendersonらの研究では実験的に猫に抗生剤を投与して腸内細菌叢を乱した際、プロバイオティクスSF68が下痢の頻度・重症度を軽減しました。SF68投与群では水様便(スコア7)の発生がプラセボ群より少なく、総下痢スコアも有意に低かったと報告されています。

このように、急性の下痢(抗生剤起因に限らず)に対しても、適切なプロバイオティクスは整腸効果を発揮し得ることが分かっています。

便秘・鼓腸

便秘に関する研究は犬猫では多くありませんが、高食物繊維食やプロバイオティクスで腸管通過が改善したとのケース報告が散見されます。鼓腸(ガス過多)は繊維の種類・量と大きく関わるため、徐放性の発酵繊維(ビートパルプ等)に置き換えるなどの戦略で改善を図ることが多いです。

大腸機能の破綻(大腸性下痢)

前述しましたが、大腸は水分・電解質吸収と菌叢環境維持に関与し、ここが乱れると「大腸性下痢」として粘液便・小出しの下痢・頻回便などが見られます。

犬の慢性大腸炎(例えば、IBDの一種)では、糞便中のカルプロテクチン(炎症マーカー)が上昇することがあり、糞便カルプロテクチンはヒトIBD診断で使われるのと同様に犬猫の腸炎評価にも有用とされています。腸活によりカルプロテクチン低下など炎症緩和が示されれば、大腸性の症状改善を客観的に裏付ける指標となるでしょう。


開発で最も強い訴求点は「便」であることを再度強調します。というのも、便の状態は飼い主が最も日々体感する部分であり、獣医師もフードの効果を評価しやすい項目です。

糞便の評価指標としてはPurinaの7段階スコアなどが広く用いられ、スコア2〜3が正常域とされます。例えば「本製品を食べて2週間で愛犬のウンチが理想的な硬さ(スコア2〜3)になりました」というのは非常に訴求力があり、科学的にも評価しやすいポイントです。

行動・精神:ストレス、不安、睡眠

前述の「腸–脳軸」の文脈で、犬の不安行動と腸内環境の関係は注目領域です。BL999の事例の他にも、近年のレビューで「腸–脳軸が犬の不安障害に与える影響」がまとめられています。しかし、行動はプラセボ影響・環境要因の影響が大きいため、試験管内での指標測定と異なり結果の再現性に課題があります。

製品差別化としては、便や皮膚以上に効果実証が難しい分野であることを念頭に置くべきです。従って、仮に腸活素材でメンタルケアを狙う場合でも、以下のような配慮が必要です。

  • 主訴としては消化ケアや皮膚ケアの延長線上に位置づけ、「お腹の調子が良いと気持ちも落ち着くよね」程度のソフトな伝え方にする。
  • 具体的な効果としては「リラックス」を匂わせる程度(例:「穏やかな毎日をサポート」など)に留め、断定しない。

皮膚・被毛:アトピー、毛艶、皮膚バリア

犬のアトピー性皮膚炎(cAD)に対するプロバイオティクス介入は先に述べた通りいくつか成果が出ています。Songら(2025)の研究では、16週間の投与で臨床指標(痒み・皮膚病変)が改善し、腸内細菌多様性が有意に向上しました。

他にも、L. sakeiという菌株を用いた試験で皮膚症状が改善した報告(Kang et al., 2017)や、皮膚科領域でのプロバイオティクス活用可能性を示す総説(Puyauth et al., 2022)など、徐々にエビデンスが蓄積されています。

一方で猫の皮膚領域は犬ほど研究が厚くありません。猫のアレルギー性皮膚炎に対するプロバイオティクス報告はほとんどなく、まずは「便・毛玉・消化の快適さ」から入るのが現実的です。ただ、間接的に皮毛の質(艶やフケ)に腸活が寄与する可能性はあります。

腸内環境改善で栄養吸収効率が上がれば皮毛の艶につながりますし、炎症トーンが下がれば皮膚バリア維持にプラスです。したがって、腸活フードを与えたオーナーから「最近毛並みが良い」と言われるケースは実際多く報告されます。このあたりは定性的エビデンスですが、総合栄養食で腸と皮膚の両面をケアするコンセプトにはマーケット需要があります。

腎臓病・尿路:期待できそうな点

犬猫CKDと腸の関係(gut–kidney axis)については既に述べましたが、エビデンスとしては腸内環境ケアにより尿毒症マーカーが改善した例も報告され始めています。

たとえば、腎不全犬にプレバイオティクスを与えて糞便中アンモニア産生菌を減らし、血中インドキシル硫酸を減少させたケースや、腎不全猫に食物繊維強化食を与えてBUNを低下させた試験などがあります(いずれもサンプルサイズ小)。また尿路結石に関しては、犬のOxalobacter菌の話に加え、プロバイオティクス投与で尿中シュウ酸排泄が減った例(Whittamore et al., 2016)などが議論されています。

とはいえ、腸設計だけで腎/尿路疾患を語るのは時期尚早です。上述のように市場でも「腸内環境ケアで腎臓を守る」的なコンセプトは現状補助的な位置付けに留まっています。

よって、尿路・腎ケア製品ではまずミネラルバランス調整(マグネシウムやリン制限)や尿酸性化/アルカリ化、水分量といった既知の方策を前提とし、その上で「腸内由来の有害物質を抑えることで腎・尿路に配慮」といった位置付けで腸活要素を組み込むのが適切です。

例えば「可溶性繊維が腸内の老廃物産生を抑え、腎臓への負担軽減に配慮します」程度の表現でしょう。

開発者向け:製品設計に落とす

以上を踏まえ、腸活コンセプトを製品に落とし込む際のポイントを解説します。単に「●●菌を添加」「●●オリゴ糖を配合」ではなく、総合栄養食として整合性のある設計にすることが重要です。

消化率の設計

腸活の失敗パターンとして多いのが、「腸に良い素材(繊維や菌)を足したのに軟便になった」ケースです。原因の多くは、小腸で処理し切れない未消化物が大腸へ流れ、前述のように発酵/腐敗が暴走するためです。

実務でまずやるべき順番

  1. 原料の消化性向上
    タンパク質源は高品質なものを選び、灰分や結合組織の多いミールばかりに偏らないようにします。肉副産物でも加水分解や酵素処理で消化率を上げる試みもあります。特に猫では高タンパクが必要ですが、それゆえタンパク源の消化性が便品質を左右します。
  2. 加工条件の最適化
    押出成形の温度・せん断・水分を調整し、でんぷんの充分な糊化とタンパクの適度な変性を図ります。高温高圧で一気に処理すれば良い訳ではなく、過度なタンパク変性は消化酵素による分解を阻害することもあります。乾燥工程も過剰な焦げ付きがないよう管理します。また、製造後の脂肪コーティングで嗜好性とエネルギー密度を補強しつつも、多すぎて脂肪下痢にならないようバランスを取ります。
  3. でんぷんの糊化度と粒度
    でんぷんは生では消化されにくく、大腸で発酵(レジスタントスターチ化)します。適切な糊化(90%以上が理想)を行いつつ、粉砕度合も調節して、小腸での酵素消化がスムーズに進む粒度にします。ただし微粉化しすぎると急激に吸収され高血糖を招くため、血糖応答も考慮します(特に糖尿病リスクある場合)。
  4. 猫特有の配慮
    猫は後腸発酵能力が限られるため、極力小腸で全て処理する前提で設計します。犬のように繊維を多用しすぎると軟便になりがちです。猫では高タンパク消化性+適度な繊維(整腸目的)で、あくまで主役はタンパク質である点を忘れないことです。

これらにより、まず「小腸で消化・吸収されるべきものを小腸で完結させる」ことが腸活フードの土台となります。その上で、大腸に届く一部の未消化分(繊維やオリゴ糖等)を狙った形で届けるという発想です。

食物繊維の設計

繊維は「入れる/入れない」ではなく、設計する対象です。繊維には大きく不溶性(水に溶けない)と可溶性(水に溶けゲル状になる)がありますが、それぞれ機能が異なります。また発酵されやすさ(速発酵か徐発酵か)も重要な特性です。

不溶性寄りの繊維

便の嵩増しや成形(形づくり)に寄与します。水分保持力が低いため下痢を引き締める効果が期待できます。ただしほとんど発酵されないため、過剰に入れると便量ばかり増えてしまいます。

例:セルロース、ピーナッツ殻、難消化性デキストリン等

可溶性・発酵性寄りの繊維

腸内細菌に速やかに発酵され、SCFA産生に寄与します。酪酸産生を促したり、便臭軽減(アンモニア捕捉やpH低下による)に効果的です。ただし発酵が速すぎるとガスや軟便の原因になるため適量を守ります。

例:イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ビートパルプ中のペクチン等

ブレンドの考え方

繊維は単一種ではなく、複数組み合わせて「発酵のグラデーション」を作るのがおすすめです。例えば、ビートパルプは不溶性と可溶性を適度に含み、発酵速度も中庸であるため、セルロース+FOSの間を埋める存在になります。犬では、繊維やバイオジェニクス(発酵代謝産物)により糞便中の代謝物や菌叢構成がシフトすることが報告されています。

実務上も、速い(例:FOS)+中間(例:ビートパルプ)+遅い(例:セルロース)の組み合わせは便性状の安定に寄与する傾向があります。

繊維設計では目的を明確にします。便を締めたい(下痢傾向を改善)なら不溶性多め、発酵を促したい(便臭や腸内環境)なら可溶性も含める、体重管理なら低エネルギー化のため繊維全体量を増やす、などです。その上で、トレードオフ(消化率低下、嗜好性低下など)も考慮し、全体設計を調整します。

バイオティクスの使い分け

プレバイオティクス(腸内細菌のエサ)

オリゴ糖や食物繊維など菌叢の基質となるものです。耐熱性・保存安定性が高く、ドライフードでも扱いやすいのが利点です。高配合でコストが膨らむ場合もありますが、低用量から効果が期待できるFOSやガラクトオリゴ糖(GOS)もあります。

プロバイオティクス(有用菌そのもの)

乳酸菌・酵母など生きた微生物を添加するものです。効果は株特異的で強力な場合もありますが、押出などの熱工程で死滅しやすく、また製品保存中の安定性も課題です。したがって乾燥後のコーティングなど特殊技術が必要です。芽胞形成菌(Bacillus属など)は熱に強いためドライフードでも使われますが、乳酸菌に比べエビデンスが少ない面もあります。

シンバイオティクス(基質の組合せ)

プロバイオティクス+プレバイオティクスを組み合わせ、互いの効果を高めるコンセプトです。前述の猫の慢性下痢試験で使われたProviable-DCもシンバイオティクス製剤で、実際効果を示しました。プロバイオティクス単独より製品設計の自由度が高く、臨床導線も作りやすい(お腹の調子を崩した時に○○菌+食物繊維を一緒に、等)利点があります。

ポストバイオティクス(死菌体など)

微生物が産生した有用成分や殺菌処理した菌体そのものを指します。工程安定性・保管安定性の観点で注目されており、熱に強くドライフードにも混ぜやすいのが大きな利点です。近年、ペットフード領域でもポストバイオティクスを整理した論文や特許分析が発表されています。

例えば、酵母発酵産物や菌体成分が免疫・バリアに有用との知見が出始めています。市場側でも、プロバイオティクスは製造・安定性のハードルがあるため、商品ローンチではポストバイオティクスが存在感を増しているとの指摘があります。


以上を踏まえ、製品設計では何を使うかよりも、どう使うかが大切です。例えば、ドライフードでどうしても生菌を入れたいならコーティング技術や耐熱性株を検討しますし、生菌が難しければ死菌や代謝産物で代替して「同等のメリット」を狙う手もあります。

最近の研究では、殺菌処理した乳酸菌とプレバイオティクスを混合したものを与えることで猫の腸内環境が改善したとの報告もあります。このように、ペットフードという剤形に適した形で「腸活要素」を組み込む柔軟性が求められます。

バリア・免疫サポート素材の整理

免疫・バリア系の素材は、効果を強く言い過ぎると薬機法等のリスクが上がる領域です。

  • 粘膜バリアを荒らさない設計(前述の通り、過発酵・腐敗を抑え、小腸から未消化を出さない)を徹底する。
  • その上で、IgAなど粘膜免疫の維持を狙う素材を加える(あくまで補強線とする)。

具体的な素材としては、酵母由来のβグルカンやヌクレオチド、乳酸菌発酵エキス、機能性ペプチドなどが挙げられます。例えば、パン酵母由来β-1,3/1,6グルカンは、犬での試験でT細胞マーカーの増加やワクチン反応性の改善が見られた例があります(Kemp et al., 2010)。

ただし別の研究では、唾液中IgA低下などの一過性変動も報告されており、作用機序は単純ではありません。従って、「免疫力アップ素材!」のような大々的な扱いよりも、消化ケアの一環として「腸管免疫維持をサポート」と控えめに位置づけるのが無難です。

やりすぎ(全部盛り)の回避

腸活の配合では、常にトレードオフ管理を念頭に置きます。以下は主な例です。

  • 発酵性基質↑ → SCFA↑の可能性向上 同時にガス・軟便リスク↑(急速発酵による)。
  • 繊維全体量↑ → 便の形は作りやすい(満腹感で体重管理も可) 同時に嗜好性↓・エネルギー密度↓(繊維は低エネルギーで風味も薄い)。
  • 高タンパク↑ → 猫の栄養要求に合致(筋肉維持に有利) 同時に未消化増で腐敗産物↑の可能性(消化率が追いつかないと前述の通りリスク)。

これらは二律背反になりがちで、全てを最大化することはできません。そこで重要なのが、開発者として自社製品の狙いを明確にし、トレードオフをどう解決したか語れることです。

参考例)

  • 「当社はガス発生リスクを抑えるため、適度な発酵性繊維と不溶性繊維を組み合わせています。」(過発酵回避)
  • 「高タンパクでも便が臭くなりにくいよう、消化性の極めて高い原料を厳選し、さらにユッカ抽出物で臭気対策しています。」(腐敗産物対策)
  • 「嗜好性に配慮し、コーティングオイルに腸活成分を組み合わせて風味を損なわず機能性付与しています。」(嗜好性と機能性の両立)

といった具合です。これらを技術的エビデンスとともに説明できることが、開発責任者としての付加価値になります。

腸活効果の検証方法

製品開発後には、実際に腸活効果を検証することが求められます。何をKPIとし、どう測定するかを決めておくと、発売後の評価や宣伝に説得力が出ます。

便スコア、排便回数、ガス、臭気

腸活製品の最優先KPIは「便」です。幸い、便は日常的に観察可能で、定量化もしやすい指標です。

具体的な実装

  • 便スコア
    Purina方式の7段階スコアなどを用い、理想的には2〜3であることを目指します。試験では毎日の便を飼育者が記録し、平均スコアや頻度を算出します。
  • 排便回数
    1日あたりの排便回数を記録します。増えすぎれば消化不良や繊維過多を疑い、減りすぎれば便秘傾向を疑います。一般に健康な犬なら1〜3回/日程度です。
  • ガス(鼓腸)
    主観になりますが、「非常に多い」「普通」「ほぼ無し」など定性評価を予め定義し、飼育者または獣医師にチェックしてもらいます。
  • 臭気
    官能評価となりますが、同じ条件下で臭気を比較します。飼育者アンケートで「臭いが減った」と感じた割合を取る方法もあります。

これら最低限の評価方法で、臨床試験または社内モニター試験を行います。特に便スコアの改善は誰にでも分かりやすい結果であり、例えば「試験で軟便傾向の犬の85%が正常範囲の便になりました」などと示せれば効果的な訴求になります。

SCFA、pH、腐敗代謝物の考え方

消化管内容や糞便中の化学指標も、腸活効果の裏付けに役立ちます。主に以下を組み合わせます。

  • 短鎖脂肪酸(SCFA:酢酸・プロピオン酸・酪酸など)
    糞便中や盲腸内容中の濃度をGC-MS分析などで測定します。増えれば良いとも言い切れませんが、酢酸:プロピオン:酪酸のバランスや全体量は参考になります。一般的に健康犬では糞便中SCFAが一定量産生されていますが、慢性腸炎では総SCFA低下が見られたため、改善すれば上昇が一つの指標です。
     
  • 分枝鎖脂肪酸(BCFA:イソ酪酸・イソ吉草酸など)
    これらはタンパク質発酵の指標になりやすいです。増えていれば未消化タンパクが大腸に届きすぎている可能性があります。高タンパク食ではBCFA増加が確認されています。
     
  • pH
    糞便または大腸内容pHを測定します。発酵が盛んなほど酸性(低pH)になりますが、極端に低い(5以下)と下痢リスク、一方高すぎる(8以上)と腐敗菌優勢の疑いがあります。例えば、FOS添加で糞便pHが低下した例があります。
     
  • アンモニア、インドール/フェノール類
    前述の腐敗産物です。糞便中や血中のアンモニア濃度、糞便中インドール・パラクレゾール量などを測ります。Xuら(2017)の研究では高タンパク群でフェノール・インドール上昇が確認されました。腸活でこれらが減れば悪玉菌抑制を示唆できます。
ポイント


これらの指標は単体で善し悪しを判断するのではなく、組み合わせて「発酵の質が整ったか」を見ます。例えばSCFAが適度に増え、pHが6台で安定し、腐敗産物が減ったなら理想的な改善と言えます。

一方でSCFAが増えてもアンモニアも増えていたら、それは「過剰発酵で腐敗も進んだ」可能性があります。このように、「良い発酵 vs 悪い発酵」のバランスを見ることが大切です。

バリア・免疫(IgA等)・炎症

バリア・免疫領域の指標は、より研究寄りですが測定できれば説得力があります。

  • IgA(免疫グロブリンA)
    血清または糞便中のIgA量をELISA等で測定します。例えば、前述のSF68試験では糞便中IgA上昇を効果指標に用いました。IgAは粘膜免疫の充実度を示すため、腸活で上がれば粘膜防御強化と解釈できます。但し上がりすぎも炎症を伴うので注意。
     
  • 炎症マーカー
    糞便中カルプロテクチンや血中CRP、サイトカイン(IL-6, TNF-α等)を測ります。例えば、糞便カルプロテクチンは犬猫のIBD診断補助として期待され、腸活でこれが下がれば抗炎症効果が示唆されます。また特定の繊維添加でCRP低下が見られた例もあります。
     
  • 腸管透過性
    尿中に投与したマーカー(例えば、ラクツロース/マンニトール比)を測定し、腸のバリア機能のゆるみ具合を推定する方法があります。これは高度な試験ですが、ポストバイオティクスの投与により腸管透過性が改善したという報告が、犬猫以外の動物種であります。こうした知見を踏まえ、犬猫でも同様のアプローチが検討されています。

これらは実験設備が必要ですが、学術論文化を目指す場合には検討されます。社内評価では、例えば、高ストレス環境下でIgA維持ができるか試験したり、ワクチン抗体価の上昇度を見るなどの応用もあります。いずれにせよ、「何を測れば効いたと言えるか」をチームで合意しておくことが重要です。

マイクロバイオームの解析

近年は16S rRNA遺伝子解析やメタゲノム解析により、糞便中の細菌叢構成を詳細に分析できます。ただし落とし穴もあります。

  • 解析手法による差
    16S解析は菌の存在割合は分かりますが機能までは直接分からないため、結局「どの菌が増えた減った」といった間接的指標になります。一方メタゲノムは菌の遺伝子機能まで解析可能ですがコストと解析負荷が高いです。何を知りたいかで使い分けます。
     
  • 糞便は腸全体の結果ではない
    糞便中に出てくるのは主に腸管内腔の菌で、粘膜に密着している菌(上皮付着菌)はほとんど捕まりません。しかし腸粘膜の免疫には付着菌叢も大きく関与するため、糞便解析だけで全貌を判断しないよう注意します。
     
  • 「菌の増減」より「代謝物」
    マイクロバイオーム研究は次第に「菌の名前より何をしているか」にシフトしています。つまり、例えば乳酸菌属が増えたといっても、それが実際に何を産生し何を抑制したかが重要です。ですので、解析結果の解釈は慎重に行います。「○○菌が増えたから健康」という短絡は避け、SCFAデータ等と付き合わせて総合判断します。

以上を踏まえ、マイクロバイオーム解析は「結果の理由付け」に使うのがおすすめです。例えば、「糞便でビフィズス菌が増えていた。これは繊維配合により腸内発酵が促進されたためで、実際SCFAも増えていました」というように、他の指標と合わせてストーリーを補強します。単に「善玉菌が増えました!」だけだと最近の消費者や専門家には響きにくいため、機能的意義を示すことが大切です。

欧米市場の需要動向と今後(研究×市場)

需要が伸びている理由

欧米では、ペットの健康志向・プレミアムフード志向の流れの中で、「消化」「腸」「マイクロバイオーム」は分かりやすい価値として定着しています。

特に米国では、ペットにサプリメントや機能性フードを与える飼い主が年々増えており、プロバイオティクスを与えている飼い主は2021年の32%から2024年には53%に達した(犬の場合)との調査があります。これは人間のサプリブームと歩調を合わせたもので、「自分に良いから愛犬愛猫にも良いものを」という意識が背景にあります

また、予防医学的な発想も浸透しつつあります。昔は下痢になってから整腸剤を…という流れでしたが、今は日頃のフードでお腹の調子を保つことに価値が見出されています。

APPA(米国ペット製品協会)の調査では機能性フードの購入理由トップは「全般的な健康維持」で、消化ケアはその中でも上位の関心事です。言い換えれば、腸活はペットのウェルネス(健康で幸せな生活)トレンドの一部となっています。

よく売れている表現・カテゴリ

市場では、「腸」単体よりも、他のニーズと結びつけた訴求の方が受け入れられやすいです。

  • 消化の快適さ(便通・ガス軽減)
    もっとも直接的で、消化器サポートフードという定番カテゴリになっています。新製品でも「Digestive Health」「便の質を改善」といった表現は多く、2023年には全新製品の約25%が消化ケアを謳ったとのデータがあります。
     
  • 皮膚・被毛
    これは「実際にみてわかる」ため人気です。「皮膚・お腹のWケア」のように、敏感肌ケアフードが繊維ブレンドで腸も整える、といった複合商品が出ています。腸–皮膚軸のエビデンス(プロバイオティクスで皮膚炎改善等)が出てきたことで、裏付けもしやすくなっています。
     
  • メンタルケア
    近年、落ち着きサポートやストレス対策を謳う製品も増えました。例えば、PurinaのCalming CareやHillsのb/d(認知症サポート)など、直接「腸」と言わずとも腸–脳軸を意識した処方になっています。消費者から見ても「お腹の調子が良いとストレスに強くなる」といった話は理解されやすいようです。
     
  • シニア(高齢犬猫)
    高齢化に伴い腎臓ケアや免疫サポート需要が高いですが、そこに「腸」を絡める動きがあります。例えば、シニアフードで必須アミノ酸強化+プロバイオティクス配合とし、「加齢で弱る筋肉と腸をダブルで支える」といった切り口です。シニアは複合ケアが求められるため、腸もその一部として組み込みやすいカテゴリです。

要するに、機能性フード市場では単一訴求より包括的な訴求が伸びています。飼い主の認識としても「腸は全身と繋がっている」という理解が広まりつつあり、「お腹の健康=全身の健康」というメッセージが響きやすくなっています。

今後の研究トレンド

  • 腸—脳軸(行動・ストレス
    これはほぼ確実に増えます。分離不安や認知症と腸内細菌の関連など、既にいくつか始まっています。脳波測定や行動解析とマイクロバイオームを組み合わせた研究が今後出てくるでしょう。
     
  • 腸—腎軸(尿毒素・炎症・代謝物
    ヒト医療では腸内細菌によるキドミック(腎機能への微生物影響)がホットトピックで、ペットでも流れが来ています。例えば、腸内で尿毒素の前駆体を食べる菌の投与や、便秘解消による腎負担軽減など、新たな介入策の研究が進むでしょう。
     
  • 「菌の名前」より「代謝物と機能」へ
    マイクロバイオーム研究が成熟するにつれ、「〇〇菌を増やす」ではなく「酪酸産生を増やす」とか、「胆汁酸代謝を調整する」といった機能ドリブンな議論に移っています。

    ペットでも、例えば、胆汁酸下痢症の犬に菌を与えて症状改善とか、尿毒素産生菌を抑えるペットフードとか、そういう視点が出てくるかもしれません。
     
  • 次世代プロバイオティクス
    既存の乳酸菌やビフィズス菌以外に、酪酸産生菌(例:Faecalibacterium prausnitzii)やフィーカリ菌などをペット用に応用する試みも考えられます。ただし安全性や培養の問題があるため、まずはポストバイオティクスの形で入れてみるなどになるでしょう。

今後の市場トレンド

  • パーソナライズ(個別化)
    飼い主が自分で腸内検査キットを使ってペットの菌叢を調べ、それに基づいたカスタムフードを提案するサービスが出てきています。米国の例ではNomNomNow社が腸内検査と連動したサブスクフードを提供しています。これが当たれば検査×サブスクモデルが広がる可能性があります。
     
  • クリーンラベル志向
    添加物や難しい成分名を嫌う傾向が強まっており、「乳酸菌」や「繊維ブレンド」と書くと敬遠される恐れも。一方で「カボチャ」や「サツマイモ」など馴染みの食材名で腸活を訴求する手もあります。実際、自然派フードで「パンプキン配合(お腹に優しい)」とうたう製品が増えています。
     
  • プロバイオティクス表示減少?
    一部では、新商品であえてプロバイオティクスを前面に出さない例も出てきました。理由は、死菌でも効果は出るのに消費者は「生きた菌」と誤解しやすいため、敢えて「ポストバイオティクスブレンド」などと表現を変える動きです。また、コスト増や規制(各国での菌の扱い)も絡み、別アプローチが模索されています。今後は「発酵スーパーフード配合」のような言い換えも増えるかもしれません。
     
  • サステナビリティとの両立
    腸活素材(例えばプレバイオティクス)はしばしば植物由来で、環境負荷が低いものが多いです。昨今のサステナビリティ潮流に乗せて、「環境にやさしい繊維素材で、便の調子を整える」など打ち出せれば一石二鳥です。

以上、包括的に述べましたが、腸活は単なる流行でなく長期トレンドとなりつつあります。科学的な裏付けが徐々に蓄積し、消費者理解も深化している分野です。開発責任者としては、常に最新知見をウォッチしつつ、自社製品にどう活かすかを戦略的に考える必要があります。本記事がその一助となれば幸いです。

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