欧州のペットフード市場は、世界でも有数の規模と成長率を誇ります。2023年時点で欧州のペットフード市場規模は約293億ユーロに達し、前年比9%成長しました。年間生産量は約910万トンにおよび、アルバニアから英国まで欧州全域で400社以上のメーカーが500拠点以上の工場でペットフードを製造しています。
ペットの飼育も広く普及しており、全欧州で約1億3900万世帯(全世帯の49%)がペットを飼っており、その総数は約2億9900万頭に上ります。中でも猫は約26%の世帯で、犬は25%の世帯で飼育されており、猫の方がやや多く飼われています。
こうした大市場を支える要因として、欧州連合(EU)の厳格な安全規制と業界基準があります。EUではペットフードの安全管理や表示に関する厳格な統一規則が設けられ、各国メーカーはいずれも高い衛生基準を遵守しています。
またFEDIAF(欧州ペットフード工業会)のガイドラインが業界標準として品質と栄養バランスを保証し、欧州製品の信頼性を支えています。欧州各国のペットフード製品は安定した安全性と信頼性を確保しています。
本記事では、日本のペットフードブランド企業が欧州でOEM製造を検討する際に参考となるよう、国別の特徴(産業基盤や原材料供給力、製造強み)、物流インフラ・地理条件、ペット飼育状況、製造拠点の分布、食文化とペットに対する価値観などの観点から、主要国(ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、フランス、イギリス等)の傾向と評価ポイントを解説します。
主要国別の特徴と強み
ドイツ
ドイツは欧州最大のペットフード市場規模を持ち、ペットの数が多く高品質・特定の目的や価値に対応した製品への需要も高いことが特徴です。
ペットフード製造企業は畜産や飼料産業が盛んな北西部(ノルトライン・ヴェストファーレン州、ニーダーザクセン州、ブレーメン州など)に集中しており、同地域の豊かな農業資源と食品加工の伝統を背景に発展してきました。
ドイツならではの高度なエンジニアリング技術と厳格な規制遵守の姿勢は、製品の配合管理や生産効率、品質管理に反映されており、信頼性の高いペットフード製造拠点として評価されています。
イタリア
イタリアは欧州南部の製造拠点として重要な地位を占め、北部から中部(ピエモンテ州、エミリア・ロマーニャ州、ヴェネト州、リグーリア州など)にかけて多数のペットフード企業が立地しています。これらの地域は人間向け食品産業の集積地でもあり、ペットフードもその延長線上で発達しました。
イタリアのメーカーは世界的に有名な食文化をペットフードにも活かし、地元で調達できる新鮮な原材料や味・香り・食感にまで配慮された高度なレシピ設計を用いることで、ペットフードに美食の国ならではの付加価値を与えています。
このため「メイド・イン・イタリア」のペットフードは風味や素材の質で高い評価を受けており、日本企業にとってもプレミアム志向のOEM先候補と言えます。
ポーランド
ポーランドは近年欧州有数のペットフード生産拠点へと成長しており、コスト競争力と生産能力の高さから注目されています。西欧諸国に比べ労働コストが低く、近年の産業基盤整備に伴って海外企業の工場進出が相次いでいます。
また国内市場も犬の飼育率が欧州最高(22.9%)と活発で、2022年のペットフード輸出額は約16億ユーロ(世界第5位)に達しました。欧州向けOEM製造拠点として有力な候補国です。
スペイン
スペインは南欧有数の市場で、犬の飼育率19.7%と欧州トップクラスのペット愛好国です。工場は農業・畜産が盛んな内陸部や東部に多く立地し、地元産の穀物や畜産副産物を活かした生産が行われています。
国内で調達しやすい穀物や畜産副産物を活かした製品開発が可能であり、近年はプレミアム製品への関心も高まっていますが、ドイツや英国ほどではなく全体として手頃な価格帯の需要が中心です。
フランス
フランスは欧州の中でも厳しい食品規制と高品質志向で知られる国で、その傾向はペットフードにも反映されています。ペットフード製造拠点は世界的な食料生産地帯の近郊に位置し、伝統的な食品産業のノウハウをペットフード作りにも活かしています。
フランス国内のペット飼育では猫が約1490万頭と特に多く、一世帯あたりの猫飼育率21.8%は欧州最高水準です。このため猫向けフード市場が大きく、嗜好性や安全性への要求も一段と高くなっています。
イギリス
イギリスはEU離脱後も欧州有数のペットフード市場規模と伝統的な製造基盤を維持しています。イングランド各地にペットフード工場が点在し、長年培われた国内産業基盤と小売向けプライベートブランド製造の盛況を反映しています。
また英国ではペットを家族とみなす意識が強く、ナチュラル志向やプレミアム製品、鮮度の高いフードへの支持も厚い特徴があります。
物流インフラと地理的条件の考慮
欧州でOEM先を検討する際には、各国の物流インフラや地理条件の整備状況に加えて、日本からの輸送距離や地政学的リスクにも留意が必要です。
EU域内では関税や検疫手続きが統一されており、加盟国内での製品移動は通関不要で円滑に行われます。欧州全体としてはロッテルダム港(オランダ)やハンブルク港(ドイツ)などを中心に海上輸送ネットワークが非常に発達しており、内陸部の工場からも鉄道やトラックで短時間に港湾まで搬出可能な体制が整っています。
ただし、日本企業にとって欧州は物理的に遠く、コンテナ輸送はスエズ運河経由で約60〜70日かかることが一般的です。このルートは中東情勢や海賊リスク、運河封鎖といった外部要因の影響を受けやすく、近年も複数の航路遅延・物流混乱が発生しています。
とくにOEMによる安定供給を重視する場合、納期リードタイムの確保やリスク分散(在庫の持ち方や船便代替手段の検討など)が必要です。
また、英国はEUを離脱しているため、EU域内との輸送には税関手続きが発生します。これにより、イギリス発着のOEM供給は輸送面での実務的配慮がより求められます。
総じて、欧州各国のインフラ自体は高度に整備されていますが、日本からの距離と輸送ルートの安定性を踏まえた慎重な検討がOEM先選定には不可欠です。
欧州の製造拠点分布と特性
欧州のペットフード製造拠点は特定の地域に集中する傾向があります。全体として西欧・中央欧州(イギリス、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、ベルギー等)にペットフード企業が集中しています。
これらの国々は農業生産基盤が強く食品加工業が成熟しており、さらにペットを家族として愛しむ文化が根付いていることから、多様なペットフード産業が発展しています。
一方、中東欧ではポーランドを筆頭にハンガリー、チェコなどで近代的な工場誘致が進み、コスト競争力を武器に輸出型の生産拠点が増加しています。これらの地域では労働力コストの低さと需要拡大を背景に、ペットフード産業の新たなクラスターが形成されつつあります。
このように欧州全体を見ると、原材料の入手容易な農業地域や、消費地に近い物流拠点周辺に信頼性の高い製造拠点が分布していることがわかります。
食文化とペットに対する価値観の違い
欧州各国の食文化やペットへの価値観の違いは、ペットフード製品の志向性にも影響を与えています。総じて近年はペットを「家族の一員」とみなす意識が欧州全域で高まっており、その傾向が高品質志向や多様なレシピ開発を後押ししています。
例えば、英国ではペットの家族化が顕著で、ナチュラル原料や機能性重視のプレミアムフードへの需要が急伸しています。ドイツやフランスなど食品の安全・品質意識が高い国では、人間用食品と同等の厳格な品質管理や栄養バランスへのこだわりがペットフードにも求められます。
東欧においてもペットへの関心が高まり、ポーランドではプレミアム製品が市場の2割を占めるまでになっています。このような文化的背景の違いを理解することは、各国の消費者ニーズに合った製品をOEM供給する上で不可欠です。
品質に妥協しない国民性の市場向けには安全性・栄養面での裏付けを重視し、嗜好や伝統を重んじる市場向けには風味や原料選定に工夫をするなど、柔軟な対応が求められます。
おわりに:日本企業様への示唆
欧州のペットフード市場は高品質志向と多様な文化が融合した成熟市場です。日本企業は自社の戦略や製品コンセプトに合った国を選定することが重要です。
例えば、最高品質を求めるならドイツ・フランス・イタリア、コスト重視ならポーランドなど東欧諸国、といった選択肢が考えられます。
なお欧州は統一規制の下で品質が保証されており、どの国でも信頼できるOEMパートナーを見つけられるでしょう。ぜひ各国の産業動向や文化を踏まえ、最適な協力先を見極めてください。