プレミアムペットフードの企画や開発をしていると、「コールドプレス」という製法に行き当たります。海外のプレミアムブランドが採用し、原料の質感や香りを活かす製法として語られることが多いものの、日本語で「その仕組みは何か」「他の製法と何が違うのか」「どんな製品に向くのか」をきちんと説明した情報はほとんどありません。
本記事は、ペットフードの製法に詳しくないマーケ・企画担当の方でも理解できるよう、コールドプレス製法の仕組みを公開された製造工学の知見にもとづいて整理し、エクストルード(押出)やオーブンベイク、エアドライとの違い、そして製品コンセプト別の選び方までを一気通貫で解説します。
この記事で分かること
- コールドプレス製法とは何か(定義と要約)
- 仕組み(圧力・摩擦・無発泡)とエクストルードとの違い
- オーブンベイク・エアドライとの比較
- 製品コンセプト別の製法の選び方
コールドプレスとは
コールドプレスとは、原料を「高い外部加熱をかけずに、圧力で押し固めて成形する」ペットフードの製法です。一般的なドライフード(エクストルード/押出)が高温・高圧で生地を膨らませるのに対し、コールドプレスは膨らませず、低温で押し固めてから低温で乾燥させます。結果として、ふくらんで軽い粒ではなく、ぎゅっと詰まった密度の高い粒になります。
英国のペットフード業界団体 UK Pet Food は、コールドプレスを「原料を混合し、最小限の加熱にとどめ、低温で圧縮して固形のペレットや形状に成形する」製法と説明しています。ここで重要なのは「最小限の加熱」と「圧縮」という2点です。この2つが、コールドプレスを他の製法と分ける本質になります。
なぜ「コールド」と呼ばれるのか
「コールド」と呼ばれる理由は、製造の主工程で高い外部加熱を行わないからです。エクストルードでは、外部熱や高せん断(強い練り込み)によって生地を90℃以上に加熱します。一方コールドプレスは、圧縮成形そのものでは外部から大きな熱を加えません。ただし「コールド=完全な無加熱(生)」という意味ではない点に注意が必要です。後述するように、圧縮時の摩擦で多少の熱は発生し、また成形後には低温の乾燥工程が入ります。
コールドプレスは低温の製法ですが、生食(ローフード)と同義ではありません。とくに動物由来原料(ABP:Animal By-products)を使う場合、UK Pet Food は「ペレット化の工程に組み込む前に、これらの原料はあらかじめ加熱処理される」と明記しています。つまり「原料段階で加熱済みのものを、低温で押し固める」という構成になり得ます。生由来の安全性リスクの扱いは、生食とは別に考える必要があります。
コールドプレスの製造工程
コールドプレスは、一般的に「計量→粉砕→混合→圧縮成形→低温乾燥→冷却→包装」という流れで作られます。ポイントは、油脂を含む原料をあらかじめ粉体としてブレンドしてから押し固めること、そして圧縮成形のあとに「低温で水分を下げる乾燥工程」が入ることです。
一般的なコールドプレスの工程は、おおむね次のように整理できます。なお設備や配合によって細部は異なるため、ここでは代表的な流れを示します。
- 計量(配合):原料を配合比に従って計量します。
- 粉砕(ミリング):原料を一定の粒度に粉砕します。粒度をそろえることで、押し固めたときに各粒の組成が均一になりやすくなります。
- 混合(ドライブレンド):粉砕した原料を均一に混ぜ合わせます。コールドプレスでは、油脂分もこのドライブレンドの段階で原料内に取り込む(内包する)構成が一般的です。エクストルードのように、成形後の表面に脂をスプレーコーティングする工程に依存しない設計が取りやすいのが特徴です。
- 圧縮成形(プレス):混合物を厚いダイ(型)の穴に押し込み、棒状に押し出してカットします。ここが「コールド(低温)プレス(圧縮)」の中核です。
- 低温乾燥(エアドライ):圧縮成形した粒を、低温で乾燥させて水分を下げます。この乾燥工程があることがコールドプレスの重要な特徴で、「低温で圧縮成形し、低温で乾燥する」という二段構えになっています。成形後の乾燥条件は設備・製品設計によって異なりますが、多くの場合、コールドプレス製品では高温膨化ではなく、比較的穏やかな乾燥で水分を下げる設計が取られます。
- 冷却:乾燥後の粒を冷却します。
- 包装:製品として包装します。
なぜ「油脂を内包する」ことが効くのか
エクストルードの膨化した粒は内部に空隙が多く(多孔質)、その表面・空隙に脂や嗜好性増進剤(パラタント)を後からコーティングしやすい構造です。逆にコールドプレスは無発泡で空隙が少ないため、後コーティングに頼りにくい面があります。
そのため、油脂を最初からドライブレンドに内包しておく設計が取られやすく、結果として「原料本来の油脂・香りを生地全体に行き渡らせやすい」という設計上の利点につながると考えられています。
コールドプレスの仕組み
コールドプレスの仕組みは、家畜飼料などで使われる「ペレットミル(造粒機)」に近い圧縮成形です。厚いダイ穴の抵抗で内部の圧力が上がり、粒子どうしが密着して固まります。摩擦で多少の熱は出ますが、エクストルードのような高い外部加熱はしません。そして決定的なのは「膨らまない(無発泡)」という点です。ここが他の乾燥製法と最も違う、コールドプレスの核心です。
この節では、日本語の解説でほとんど触れられてこなかった「なぜ低温なのに固まるのか」「なぜ膨らまないのか」という機構を製造工学の知見にもとづいて掘り下げます。
圧力はどこから生まれるのか
コールドプレスの圧縮成形は、ダイ方式の細部(リングダイ/フラットダイなど)には踏み込まず、「ペレットミルに近い圧縮成形方式」と理解するのが正確です。ペレットミルの工学では、成形時に大きく分けて3つの圧力が働くとされています。
- ロール(ローラー)が原料をダイの穴に押し込む圧力
- ダイそのものが持つ抵抗(穴の中を材料が通り抜けにくい抵抗)
- ロールの圧力と、配合自体が持つ摩擦圧力が合わさったもの
つまり、外から熱を加えて生地を柔らかくするのではなく、「厚い穴に無理やり押し込む抵抗」によって内部の圧力を高め、粒子どうしを物理的に密着させて固めるのがコールドプレス(圧縮成形)の基本原理です。
摩擦熱はどの程度出るのか
押し込みの抵抗がある以上、ダイの面と材料、粒子どうしの間には摩擦が生じ、ある程度の摩擦熱が発生します。ただしこれはエクストルードのような「外部からの積極的な加熱」とは性質が異なります。重要なのは、摩擦熱による温度上昇は「材料を事前にどれだけ温めて・湿らせて・どの圧縮比で入れるか」に強く依存し、外部加熱を抑える限り穏やかな範囲にとどまる傾向があるということです。コールドプレスは外部加熱を抑える製法ですから、摩擦由来の温度上昇はあり得るものの、エクストルードの加熱域(後述)とは異なる、より穏やかな領域で運用される、と理解できます。
この依存関係は、家畜飼料のペレット成形で測定された実測値からも裏づけられます。ただし以下は家畜飼料(フィード)のペレットミルで測定された数値であり、ペットフードのコールドプレスの到達温度そのものではない点に注意してください。あくまで「事前条件で摩擦熱の出方が変わる」という機構を示す参考例です。ペレットミルの工学資料によると、材料が比較的低い温度(約120℉=約49℃)でダイに入る場合、ダイから出てくるペレットは約160℉(約71℃)になり、摩擦によって約40℉(約22℃)の温度上昇、すなわち約33%の熱が摩擦で生じる、とされています。
一方、あらかじめ材料を高温(約175℉=約79℃)に調整して入れた場合、出てくるペレットは約180℉(約82℃)で、上昇はわずか約5℉(約3℃)、摩擦由来の熱は約3%にとどまる、とされています。同じ装置でも、事前に温めて入れるほど摩擦由来の上昇分は小さくなる、という関係が読み取れます。
実際のコールドプレスの到達温度は、配合・水分・ダイの厚み(圧縮比)・設備によって変わるため、一律の数値で断定はできません。ここで押さえるべきは具体的な数値そのものではなく、外部加熱を抑える限り、摩擦熱による上昇は穏やかな範囲にとどまる傾向にあるという機構の理解です。
なぜ「膨らまない(無発泡)」のか
コールドプレスを他の乾燥製法から決定的に分けるのが、この「無発泡」です。
エクストルードでは、高温・高圧の状態でデンプンが糊化し、ダイ出口で一気に常圧へ解放されることで、加圧下にあった高温の水分が瞬時に蒸気化して粒を膨らませます(後述)。コールドプレスにはこの「高温高圧→常圧で蒸気が一気に抜ける」という条件がありません。低温・無発泡のまま、機械的な圧縮とバインダー(つなぎ)によって粒が成形されます。
その結果、コールドプレスの粒は内部に大きな空隙を持たず、ぎゅっと詰まった密度の高い構造になります。UK Pet Food もコールドプレスを「密度の高いペットフード」と表現しています。この「無発泡=高密度」という性質が、後述する密度・浮き沈み・崩れやすさといった設計特性すべての出発点になります。
デンプンに水と熱が加わると、デンプンの粒が水を抱え込んで膨らみ、構造が崩れて糊状になる現象を「糊化(gelatinization)」といいます。エクストルードはこの糊化を積極的に起こして生地をまとめ、膨化させます。コールドプレスは高い外部加熱をしないため、糊化に依存した結着の度合いは相対的に小さく、機械的な圧縮とバインダーで成形する設計になりやすい、と一般に理解されています。
エクストルード製法との違い
最大の違いは「膨らませるか、膨らませないか」です。エクストルード(押出)は高温・高圧で生地を膨化させて軽い多孔質の粒を作り、コールドプレスは膨化させずに密度の高い粒を作ります。市販ドライフードの大多数はエクストルードで、コールドプレスはその対極にある製法だと理解すると、両者の設計思想の違いが見えてきます。
この節は本記事の背骨です。なぜなら、コールドプレスを理解するには、まず「普通のドライフードがどう作られるか」を正確に押さえる必要があるからです。エクストルードの工程そのものについては、別記事でさらに詳しく解説しています(後述の内部リンク参照)。
エクストルードの膨化はなぜ起きるのか
エクストルードの粒がふくらんで多孔質になるのは、しばしば「真空にするから」と誤解されますが、これは正確ではありません。実際の機構はこうです。
エクストルーダーの内部では、原料が高温・高圧・高せん断(強い練り込み)で加熱混練され、デンプンが糊化して流動性のある生地になります。この生地がダイ(出口の型)を通って外へ押し出された瞬間、圧力が一気に常圧へと下がります。加圧下では沸点より高温でも液体のままだった水分が、常圧に解放された途端に過熱状態となり、瞬時に蒸気化します。この蒸気が生地を内側から膨らませ、無数の気泡(空隙)を作ります。乾燥後にその気泡が残り、軽くて多孔質な粒になるのです。
要するに膨化は「真空だから」ではなく、「高温高圧の状態から常圧へ急減圧する」ことが原因です。ここを正しく理解しておくと、コールドプレスがなぜ膨らまないのかも腑に落ちます。
多孔質ゆえの「後コーティングしやすさ」
膨化した粒は内部・表面に空隙が多いため、成形後に脂や嗜好性増進剤を吹き付けてしみ込ませる「後コーティング」が容易です。市販ドライフードで「外側に油脂やパラタントをコーティングして嗜好性を高める」設計が一般的なのは、この多孔質構造があるからです。逆にコールドプレスは無発泡で空隙が少ないため、この後コーティングに頼りにくく、前述のとおり油脂を内包する設計が取られやすくなります。
温度の桁が違う
エクストルードとコールドプレスは、かかる温度が異なります。エクストルードでは、工程内でも加熱段階によって温度が変わります。例えば、ドッグフードの押出において、プレコンディショナー(蒸気で予熱・予備調湿する工程)の温度を約90℃前後に設定するケースがあったりします。さらに、これに続く押出のバレル(シリンダー)内は機械的エネルギーと外部ヒーターで120〜150℃級に達し、内圧は30〜60 bar に及ぶとされています。
つまりエクストルードは、プレコンディショナーで約90℃前後、バレルでは120〜150℃に達する例もあり、一般的に90℃を超える加熱域で運用される製法です。一方コールドプレスは、前述のとおり高い外部加熱を行わず、低温乾燥で仕上げます。この温度差が、両製法の「原料への熱負荷」の違いを生みます。
エクストルードとコールドプレスの違い
| 観点 | エクストルード(押出) | コールドプレス |
|---|---|---|
| 生地の膨化 | 膨化する(多孔質・軽い) | 膨化しない(無発泡・密度が高い) |
| 主な原理 | 高温高圧→常圧で水分が蒸気化 | 圧力でダイ穴に押し込み圧縮 |
| 加熱の大きさ | 大きい(一般に90℃超の加熱域。プレコン約90℃前後/バレル120〜150℃) | 小さい(高い外部加熱なし+低温乾燥) |
| デンプン糊化 | 積極的に起こす | 依存度は相対的に小さい |
| 後コーティング | しやすい(多孔質ゆえ) | しにくい(油脂内包設計が一般的) |
| 粒の密度 | 低め(膨化により空隙が多い) | 高め(無発泡で詰まっている) |
| 市場での普及 | 市販ドライの大多数 | 限定的(プレミアム領域中心) |
※温度・密度は配合・設備により変動します。「参考」の範囲としてお読みください。
オーブンベイク・コールドプレス・エアドライの比較
3つの製法は「熱のかけ方」と「仕上がりの質感」で住み分けられます。オーブンベイクは低温で時間をかけてゆっくり焼き固め(低温スロー焼成)、コールドプレスは低温で押し固め、エアドライは低温の乾燥で水分を抜きます。原料にかかる熱負荷の傾向はおおむね「エクストルード > オーブンベイク > コールドプレス」の順とされ、エアドライは乾燥主体で位置づけが少し異なります。
プレミアム領域では、エクストルード以外の選択肢としてオーブンベイク・コールドプレス・エアドライがよく比較されます。それぞれの特徴を整理します。
熱負荷の傾向
主要な乾燥系製法を「原料にかかる熱負荷の傾向」で並べると、一般的に次の順とされています。ここで比較しているのはピーク温度の絶対値そのものではなく、製法として原料にどれだけ熱を負荷するかの傾向です。
エクストルード:一般的に90℃超の加熱域
熱負荷が最も大きい領域。デンプン糊化・膨化・病原体の不活化が起こりやすい(例:プレコン約90℃前後、バレルは120〜150℃級に達する)。
オーブンベイク:低温・長時間のスロー焼成
エクストルードより熱負荷が穏やかとされる領域。ペットフードのオーブンベイクは、家庭用オーブンや焼き菓子のような高温で一気に焼くのではなく、低温でゆっくり時間をかけて焼き固める(低温スロー焼成)のが一般的です。
たとえばプレミアムブランドの製法解説では、ベイクドキブルを「低温でゆっくり(low & slow)」「低速のコンベヤー上で低温で約10分間焼く」とし、焼成後に「少なくとも175℉(約79℃)」に達すると説明する例があります。ただし、これは特定ブランドが公開している製法例であり、すべてのベイクドキブルの標準条件ではありません。
実際の温度・時間は、設備、粒サイズ、水分、原料構成、食品安全計画によって変わります。UK Pet Food も「ベイクは押出より低温」「より密度の高い製品になる」としています。
コールドプレス:高い外部加熱なし+低温エアドライ
圧縮成形では大きな外部加熱をかけず、仕上げの乾燥も低温。熱負荷が最も穏やかな領域。
一般的なオーブンで食品を焼くときの温度帯(300〜400℉=約150〜200℃)を、ペットフードのオーブンベイクの温度として紹介する情報源もあります。ただし、これは家庭用オーブンや焼き菓子に典型的な高温焼成の温度帯であり、ペットフードのオーブンベイクで一般的とされる「低温・長時間のスロー焼成」は、これより低い運用が一般的です(前述のとおり、焼成後の品温として約79℃を挙げる例があります)。本記事の加熱スペクトラム(エクストルード>ベイク>コールドプレス)は、こうした低温スロー焼成を前提に、原料への熱負荷の傾向として整理しています。
この順序はあくまで「一般的な傾向」であり、温度は配合・設備によって変わります。重要なのは絶対値そのものより、「製法によって原料にかかる熱負荷が段階的に異なる」という設計上の含意です。
エアドライの位置づけ
エアドライ(低温乾燥)は、コールドプレスの仕上げ工程としても登場しますが、それ単独で1つの製法カテゴリーとしても語られます。UK Pet Food はエアドライを「凍結させずに低温でゆっくり乾燥させ、徐々に水分を取り除く」製法と説明し、「キブルより柔らかい質感だが常温保存が可能」「栄養素の保持」を特徴として挙げています。コールドプレスが「圧縮成形+低温乾燥」であるのに対し、エアドライ製品は「圧縮成形を主目的とせず、低温乾燥で仕上げる」点で質感・設計思想が異なります。
比較のための整理
| 製法 | 熱のかけ方(一般的傾向) | 構造 | 主な質感 |
|---|---|---|---|
| エクストルード | 高温高圧(一般的に90℃超の加熱域) | 多孔質・膨化 | 軽い・サクサク |
| オーブンベイク | 低温・長時間のスロー焼成(押出より穏やか) | 密度が高め | 焼き固め |
| コールドプレス | 低温圧縮+低温乾燥 | 無発泡・高密度 | ぎゅっと詰まる |
| エアドライ | 低温乾燥が主体 | 乾燥成形 | やや柔らかい |
※温度・質感は配合・設備により変動。傾向としての整理です。
製品コンセプト別の選び方
製法選びは「どんなコンセプトの製品を作りたいか」から逆算します。とくに「生肉(フレッシュミート)をどれだけ入れたいか」「動物性タンパクの比率をどこまで上げたいか」は、採用できる製法を左右します。ただし、その上限は製法だけで一律に決まるものではなく、設備や配合に強く依存します。プレミアムで肉のリッチさを訴求したいなら、製法ごとの傾向と、最終的には工場ごとのテストが必要になることを理解しておくことが、企画段階での重要な判断材料になります。
ここは最も実務に直結する節です。製法は「良し悪し」ではなく「コンセプトとの相性」で選ぶもの、という視点で読んでください。
生肉の使える量は設備・配合で変わる
肉のリッチさをうたうプレミアム製品では、「生肉をどれだけ配合できるか」が訴求の核になります。ただし、生肉や高水分原料の配合上限は、製法だけで一律に決まるものではなく、設備、原料の水分、脂質、粒径、バインダー、乾燥条件によって大きく変わります。
一般的に、コールドプレスは無発泡で押し固めるため、高水分原料を増やしすぎると粒の硬さ・形状維持が難しくなります。一方、エクストルードも膨化・成形性とのバランスが必要であり、最終的な上限は製造工場ごとのテストで確認する必要があります。製法カテゴリーとしての傾向を大づかみに整理すると、次のようになります(一般論/設備・配合により変動)。
- オーブンベイク:生肉は基本的に使いにくい — 焼成プロセスの性質上、高い生肉比率の設計は取りにくいとされます。
- コールドプレス:高水分原料を増やしすぎると成形が難しくなる — 無発泡で押し固めるため、食感・硬さ・粒形状の維持が制約になります。
- エクストルード:膨化・成形性とのバランスが必要 — 高水分原料の比率は膨化成形の成立とのトレードオフになります。
数値の目安が必要な場合もあるため補足すると、一部のOEM現場では、コールドプレスで25%前後、エクストルードで30%前後が検討目安になる場合もあります。ただしこれは設備・配合に依存する実務目安であり、一般保証値ではありません。
ここで言う配合上限は、嗜好性のためだけでなく、粒として成形が成立するかという製造側の制約から来ます。生肉(高水分の原料)を増やしすぎると、無発泡で押し固めるコールドプレスでは粒の硬さ・形状維持が難しくなる、という関係です。
動物性タンパク比率の考え方
「生肉の量」と「動物性タンパクの総量」は別の指標です。動物性タンパクの総量は、生肉だけでなく、ミール、乾燥肉、加水分解タンパク、油脂との組み合わせで設計します。製造先や設備によっては高い動物性原料比率を検討できる場合もありますが、70〜80%といった水準は、成形性・乾燥性・コスト・栄養バランスを含めた個別検証が前提になります。
つまり実務上は、次のように考えると整理しやすくなります。
- 「生肉のフレッシュさ」を前面に出したい → 高水分原料の配合余地が比較的取りやすい製法(エクストルード/コールドプレス)を軸に、工場ごとのテストで上限を確認しながら検討。
- 「動物性タンパクの総量・高タンパク」を訴求したい → ミールや加水分解タンパクの活用で、ベイク・プレスでも高比率を狙える場合がある(成形性・乾燥性・コストとの個別検証が前提)。
- 「低温・原料の香りを活かす」コンセプト → コールドプレスやエアドライが相性良い。
製品コンセプト別・製法の相性
| 製品コンセプトの軸 | 相性の良い製法(傾向) | 補足 |
|---|---|---|
| 生肉のフレッシュさ訴求 | エクストルード/コールドプレス | 高水分原料の配合余地は設備・配合により異なる(工場ごとに要確認) |
| 高タンパク(総量)訴求 | ベイク/プレス(ミール等併用) | 動物性タンパクを高める設計は可能だが個別検証が前提 |
| 低温・香り・原料感 | コールドプレス/エアドライ | 高い外部加熱を避ける |
| サクサク食感・コスト効率 | エクストルード | 市販主流・後コーティング容易 |
| しっとり柔らかめ | エアドライ | 乾燥主体でやわらかい質感 |
※すべて「一般的な相性の傾向」であり、最終的な製造可否・配合可否は原料・設備・規格により個別確認が必要です。
設計上の論点
コールドプレスを選ぶときは、「低温であること」の利点と制約を両面で押さえる必要があります。温度とビタミンの関係、密度(給与量・腹持ち)、動物性タンパク比率、そして「水分・胃酸で崩れやすい設計が可能」という点まで含めて、メリットだけでなく設計上の注意点を理解しておくことが、失敗のない製品化につながります。
この節は深掘り層です。やや専門的になりますが、企画・処方設計の意思決定に直結する論点を整理します。
論点1:温度とビタミン
低温製法の利点としてよく語られるのが「熱に弱い栄養素への配慮」です。実際、エクストルードのような高温・高せん断の工程では、ビタミンの一部が失われることが知られています。査読・総説レベルの知見では、押出の前に配合したビタミンの30〜40%程度が押出工程で失われ得ること、ビタミンAでは予備調湿(プレコンディショニング)の時点で約26%が失われ、その後の押出・乾燥を経た時点で初期比の累計で約34%(=予備調湿後にさらに約8%)の損失に達したという報告もあります。ここでの34%は各工程の損失を単純に足したものではなく、初期配合量を基準とした累積の損失率である点に注意が必要です。このため実務では、損失を見込んでビタミンプレミックスを過剰配合して仕込む対応が一般的とされています。
コールドプレスは高い外部加熱を避ける製法であるため、こうした熱由来のビタミン損失を相対的に抑えやすい可能性があります。ただしこれはコールドプレス自体の比較試験にもとづくものではありません。また「低温だから栄養素が完全に保持される」と断定はできません。乾燥・保管中の酸化など、温度以外の要因でも栄養素は変化し得ます。栄養設計の最終的な充足は、製法にかかわらず原料・配合・保管設計を含めて個別に検証する必要があります。
「低温だから栄養が壊れにくい」「消化にやさしい」といった表現は、製品パッケージや広告でそのまま使えるとは限りません。日本では景品表示法・ペットフード安全法等の観点から、効果・栄養に関する訴求には根拠と表現上の注意が求められます。本記事は製法の技術解説であり、特定の効能を保証するものではありません。表示可否は別途ご確認ください。
論点2:密度(かさ密度)と給与量
コールドプレスは無発泡で密度が高いため、同じ容積あたりの重量(かさ密度/バルク密度)が、膨化したエクストルード粒より大きくなる傾向があります。かさ密度とは「1リットルあたり何グラムか」で表す指標で、たとえば「600g/L級」なら1リットルの容器に約600g(粒の間の空隙込み)入る、という意味です。
エクストルード粒は膨化により空隙が多く密度が低めで、ものによっては水に浮きます。実際、研究では押出キブルのウェットかさ密度を330 g/L に調整した例も報告されています。一方コールドプレスは詰まっているため密度が高く、見た目の量に対して重い粒になります。これは給与量の設計や「腹持ち」の訴求に関わる要素です。なお具体的な密度の数値は製品ごとに異なり、特定の固有値として断定はできません。
論点3:崩れやすさと「はき戻し」
コールドプレスの粒は密度こそ高いものの、エクストルードのように糊化デンプンのマトリクスでガッチリ結着しているわけではなく、機械的な圧縮とバインダーで成形されているのが一般的です。そのため、水分や胃酸に触れると比較的崩れやすい設計が可能とされています。実際、UK Pet Food やプレミアム製法の解説では、コールドプレス製品が「水に浸すと粥状にほぐれる」「外側から溶けていく」と表現されることがあります。
この「崩れやすさ」は、しばしば「はき戻し(早食いによる未消化の吐き戻し)対策に良い」と語られます。ただし、崩れやすい設計が、はき戻しを防ぐと断定することはできません。はき戻しは早食い・給与方法・個体差など複数の要因が絡むため、製法だけで結論づけるのは不正確です。本記事では「水分・胃酸で崩れやすい設計が可能」という製造特性の事実にとどめ、特定の症状改善を保証するものではない、と整理します。
コールドプレスは「低温・無発泡・高密度・崩れやすい設計が可能」という特性のセットを持ちます。これらは「原料の香りを活かしやすい」「給与量・腹持ちの設計に効く」「胃の中でほぐれやすい設計が取れる」といった製品コンセプトと相性が良い一方、「後コーティングに頼れない」「高水分原料を増やすと成形が難しくなる」「成形の制約がある」という制約も伴います。利点と制約を両面で理解したうえで、コンセプトに合うかを判断することが重要です。
日本市場での位置づけ
日本市場では、エクストルード製品に比べると、コールドプレスを前面に打ち出した商品や日本語での技術解説はまだ多くありません。そのため、製法の意味を正確に説明できるブランドには、差別化の余地があります。海外のプレミアム領域では確立した製法カテゴリーである一方、日本語での解説情報が乏しく、消費者・企業の理解も発展途上です。
日本のドライフード市場は、流通の大半がエクストルード製品です。オーブンベイクやエアドライは一部のプレミアムブランドで知られるようになってきましたが、コールドプレスは「名前は聞くが、仕組みを説明できる人が少ない」段階にあります。
この状況には、企画・マーケの観点から2つの含意があります。
- 先行者の余地:まだ説明が出回っていないからこそ、「なぜこの製法なのか」を正確かつ分かりやすく語れるブランドは、製法そのものをブランドストーリーの一部にできます。本記事のような「仕組みの理解」を自社の言葉で消費者に翻訳できることが、差別化の起点になります。
- 誤解を避ける必要:一方で、「コールドプレス=生」「低温だから栄養が完全」といった不正確な訴求は、規制・信頼の両面でリスクになります。正確な理解にもとづいた、ヘッジの効いた表現設計が求められます。
製法は、単なる製造方法ではなく「ブランドが何を大切にしているか」を語る言語でもあります。コールドプレスという選択肢を、自社のコンセプトにどう位置づけるか—そこに企画の腕の見せどころがあります。
まとめ
- コールドプレスとは、高い外部加熱をかけず、圧力で押し固めて成形し、低温で乾燥させる製法です。「最小限の加熱」と「圧縮」が本質です。
- 仕組みの核は「圧力・摩擦・無発泡」。ペレットミルに近い圧縮成形で、ダイ穴の抵抗が内部圧力を高めて粒子を密着させます。摩擦熱は出ますが、その上昇分は事前の温度・水分・圧縮比に依存し、外部加熱を抑える限り穏やかな範囲にとどまる傾向にあります(家畜飼料のペレット成形で測定された例があります)。
- エクストルードとの決定的な違いは「膨化するか・しないか」。膨化は「真空だから」ではなく「高温高圧→常圧への急減圧で水分が蒸気化する」ことが原因です。コールドプレスはこの条件がないため無発泡で、密度が高くなります。
- 製法選びはコンセプトから逆算。生肉や高水分原料の配合上限は製法だけで決まらず、設備・配合により異なるため、工場ごとのテストで確認します(OEM現場ではプレス25%前後/エクストルード30%前後が検討目安になる場合もありますが、一般保証値ではありません)。動物性タンパクを高める設計(70〜80%水準など)も可能な場合がありますが、成形性・乾燥性・コストを含む個別検証が前提です。原料への熱負荷の傾向はエクストルード>オーブンベイク(低温スロー焼成)>コールドプレスの順とされます。
- 設計上は利点と制約を両面で。低温ゆえビタミン損失を相対的に抑えやすい可能性はあるものの、これはコールドプレス自体の比較試験にもとづく結論ではありません。後コーティングに頼れず、高水分原料を増やすと成形が難しくなる制約もあります。「崩れやすい設計が可能」ですが、特定の症状改善を保証するものではありません。
- 日本ではコールドプレスを前面に打ち出した商品や日本語の技術解説がまだ多くない=先行の余地。製法の意味を正確に語れるブランドには差別化の機会があります。
製法は「良し悪し」ではなく「コンセプトとの相性」で選ぶものです。コールドプレスは、低温・無発泡・高密度という特性のセットを通じて、特定のブランドコンセプトを強力に支える選択肢になり得ます。
よくある質問(FAQ)
Q1. コールドプレスは「生(ローフード)」と同じですか?
いいえ、同じではありません。コールドプレスは低温の製法ですが、無加熱の生食とは異なります。とくに動物由来原料を使う場合、UK Pet Food は「ペレット化の前に加熱処理される」と明記しており、「原料段階で加熱済みのものを低温で押し固める」構成があり得ます。低温=生、と誤解しないことが重要です。
Q2. コールドプレスの方がエクストルードより必ず消化が良いのですか?
「必ず」とは言えません。低温製法は熱に弱い栄養素への配慮がしやすい一方、消化性は原料・配合・個体差など多くの要因に左右されます。製法だけで消化性の優劣を断定するのは不正確です。消化性に配慮した設計は可能ですが、最終的な評価は個別の検証が必要です。
Q3. なぜコールドプレスは脂を後からスプレーしないのですか?
コールドプレスは無発泡で内部の空隙が少なく、後コーティングで脂をしみ込ませにくいためです。代わりに、油脂を最初からドライブレンドに内包する設計が一般的で、これが「原料本来の油脂・香りを生地全体に行き渡らせやすい」という特徴につながります。
Q4. コールドプレスの粒が「水に浸すとほぐれる」のはなぜですか?
糊化デンプンでガッチリ固めるのではなく、機械的圧縮とバインダーで成形しているため、水分・胃酸で比較的崩れやすい設計が可能だからです。ただし、これが「はき戻しを防ぐ」と断定はできません。あくまで製造特性としての「崩れやすさ」であり、特定の症状改善を保証するものではありません。
Q5. オーブンベイクは家庭のオーブンのように高温で焼くのですか?
いいえ、一般的には異なります。ペットフードのオーブンベイクは、家庭用オーブンや焼き菓子のような高温で一気に焼くのではなく、低温で時間をかけてゆっくり焼き固める(低温スロー焼成)のが一般的とされます。あるプレミアムブランドの製法解説では「低温でゆっくり(low & slow)」焼き、焼成後の品温として約79℃を挙げる例があります(ただしこれは一社が公開する製法例であり、すべてのベイクドキブルの標準条件ではありません)。この低温スロー焼成ゆえに、エクストルード(押出)より原料への熱負荷が穏やかとされ、本記事の加熱スペクトラム(エクストルード>ベイク>コールドプレス)の根拠になっています。
Q6. 自社ブランドでコールドプレス製品を作りたい場合、何から検討すべきですか?
まず「製品で何を訴求したいか(生肉のフレッシュさ/高タンパク/低温・香り/腹持ち等)」を明確にし、そこから製法の相性を逆算するのが出発点です。生肉・動物性タンパク比率・密度・崩れやすさといった製造特性が、コンセプトと噛み合うかを確認します。なお、生肉や高水分原料の配合上限は設備・配合により変わり、工場ごとのテストで確認する必要があります。製造可否や表示可否は原料・設備・規制により個別判断が必要なため、設計の初期段階から製造側と一緒に詰めることをおすすめします。
OEM開発のご相談について
First Reach は、製法を「良し悪し」ではなく「製品コンセプトとの相性」で捉え、企画されたいコンセプトに最適な製法と製造ネットワーク(環太平洋を中心としたタイ・豪州・ニュージーランド・カナダのOEM製造工場)の選定を導くOEMパートナーです。コールドプレスをはじめ、エクストルード・オーブンベイク・エアドライ・フリーズドライなど、製法ごとの設計特性を踏まえた製品化のご相談を、初期相談の段階からお受けしています。
より具体的に進めたい場合は、無料相談フォームからお気軽にご連絡ください。プレミアム製法のOEMをご検討なら、まずは製法の選び方からご一緒に整理します。
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参考文献・出典一覧
- UK Pet Food(英国ペットフード業界団体)「Different pet food processing methods」 https://www.ukpetfood.org/pet-care-advice/other-advice/how-pet-food-is-made/different-pet-food-processing-methods.html
- California Pellet Mill Co.「The Pelleting Process」(造粒工学資料、PDF) https://ww1.prweb.com/prfiles/2012/01/09/9090113/Animal%20Feed%20Pelleting.PDF
- Engormix「The Pelleting Process」(California Pellet Mill 工学資料の再掲) https://en.engormix.com/feed-machinery/feed-pelletizing/the-pelleting-process_a35607/
- Wikipedia「Food extrusion」 https://en.wikipedia.org/wiki/Food_extrusion
- Corsato Alvarenga, I. et al.「Extrusion Processing Modifications of a Dog Kibble at Large Scale Alter Levels of Starch Available to Animal Enzymatic Digestion」Foods, 2021, 10(11), 2526. https://www.mdpi.com/2304-8158/10/11/2526
- 同論文(PMC オープンアクセス版) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8621379/
- 「Stability of vitamin A at critical points in pet-feed manufacturing and during premix storage」Frontiers in Veterinary Science, 2024. https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2024.1309754/full
- 同論文(PMC オープンアクセス版) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10944966/
- 「A literature review on vitamin retention during the extrusion of dry pet food」Animal Feed Science and Technology(ScienceDirect) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0377840121001619
- All About Feed「Extrusion temperature: a critical control point in pet food processing」 https://www.allaboutfeed.net/animal-feed/feed-processing/extrusion-temperature-a-critical-control-point-in-pet-food-processing/
- PetfoodIndustry「Bulk density and palatability of dry petfoods」 https://www.petfoodindustry.com/articles/251-bulk-density-and-palatability-of-dry-petfoods
- Feed Strategy「How pelleting influences particle size in animal feed」 https://www.feedstrategy.com/animal-feed-manufacturing/article/15440844/how-pelleting-influences-particle-size-in-animal-feed
- WUR(ワーゲニンゲン大学)edepot「Extrusion processing: effects on dry canine diets」 https://edepot.wur.nl/121964
- Stella & Chewy’s「Benefits of Baked Kibble」(ベイクドキブルの低温スロー焼成プロセス解説) https://www.stellaandchewys.com/blogs/articles/baked-kibble-benefits