「チキンアレルギーの犬が多いので、鶏に関する原料はすべて外してください」。アレルギーに配慮したドッグフードについてご相談をいただくとき、この一文から始まることがよくあります。

そこで必ず問題になるのが、「どこまでを外すのか」です。鶏肉、家禽ミール、鶏脂、卵は、いずれも鶏に関係する原料ですが、原料としての性質や確認すべきリスクは異なります。さらに、ダイジェスト、加水分解物、嗜好性コーティングなど、配合表の主原料だけでは見落としやすい経路もあります。

結論から言えば、チキンアレルギーを想定した商品設計では、最初に除外する鶏由来原料の範囲を定義する必要があります。「鶏肉不使用」「チキン不使用」「鶏由来原料不使用」では、意味する範囲が同じではありません。除外対象が決まらなければ、レシピ、原料仕様書、工場への確認項目、パッケージの表示文言も決められません。

なかでも判断が難しいのが鶏脂です。鶏脂に残るたんぱく質について、「この量以下ならアレルギー反応を起こさない」と判断できる共通基準は、公開された規制や一次研究の範囲では確認できません。測定が不可能なのではなく、測定結果を犬の臨床的な安全性へ結びつける共通基準が公開されていないということです。

だから、鶏脂を一律に「安全」「危険」と判断することはできません。同様に、加熱、精製、加水分解といった処理だけを理由に、アレルギーの心配がないとも判断できません。商品開発側にできるのは、想定する用途と表示内容を整理し、除外対象、原料仕様、製造工程、検査条件、記録方法を具体的に定めることです。

本記事で分かること

  • 鶏由来原料は、生肉、家禽ミール、鶏脂、卵の4区分に分けて考える必要があります。ダイジェストやコーティング材など、別途確認すべき原料もあります。
  • 「鶏肉不使用」「チキン不使用」「鶏由来原料不使用」では、除外対象となる原料の範囲が異なります。
  • 鶏脂の残存たんぱく質や加水分解の程度には、犬の臨床的な安全性を判断できる共通基準がありません。
  • 「不使用」「交差混入がないこと」「臨床的な低アレルゲン性」は、それぞれ別の根拠が必要です。

鶏由来原料は4区分で考える

鶏由来の原料は、少なくとも4つの区分(取り出される部位・成分のかたまり)に分けて考える必要があります。一括りに「チキン」と呼んでいるあいだは、設計判断ができません。

「チキン」の一語には、肉・ミール・脂・卵という性格の違う原料が同居しています。

鶏由来原料|生肉・ミール・鶏脂・卵

本記事では、鶏由来原料を①生肉(鶏肉、鶏レバーなど)、②家禽ミール(レンダリング=加熱・脱脂・粉砕を経た乾燥たんぱく質原料)、③鶏脂(chicken fat。チキンオイル等の名称で流通することがありますが、名称だけで工程や規格が同一とは限りません)、④卵の4つに分けて扱います。①②④はたんぱく質を主体とする区分で、③だけが脂肪を主体とする区分です。この非対称が、あとで効いてきます。

First Reach の見解

弊社の見解として、この4区分の整理は、本記事が OEM のレシピ設計向けに再整理した独自の実務フレームです(業界標準の分類ではありません)。規制上の原料区分とも、学術上のアレルゲン分類とも一致しません。

あわせて、実務では第5の確認経路を置いてください。ダイジェスト、加水分解物、グレイビー、嗜好性コーティングです。生物学的な第5の区分ではありませんが、配合表の主原料だけを見ていると、コーティング工程で入る鶏由来原料を見落とします。

鶏アレルギーはどれくらい報告されるか

事実として、除去食と再暴露試験を集めた系統レビュー(Mueller ら 2016, BMC Vet Res 12:9)では、食物有害反応が確定した犬297頭のうち鶏の関与が45頭(15%)で報告され、牛肉(102頭・34%)、乳製品(51頭・17%)に次ぐ3番目でした。

これは食物アレルギー確定犬を分母とした報告頻度であって一般の犬の有病率ではなく、また対象は鶏肉であり精製鶏脂ではありません。

鶏脂に含まれるたんぱく質について

まず押さえておきたいのは、鶏脂に残っているたんぱく質について、「この量以下なら表示しなくてよい」「この量以下ならアレルギー反応を起こさない」といった共通基準が、犬用ペットフードの分野では確認されていないことです。

これは、残存たんぱく質を測定できないという意味ではありません。測定は可能ですが、その数値を判断するための統一された基準がないということです。

ペットフード(犬)の領域では、鶏脂にたんぱく質がどれだけ残ってよいのかを決めた公開ルールも、それを臨床の安全性に結びつける公開データは現時点ではありません。

粗たんぱく質の表示義務がない

事実として、EUとカナダの飼料原料規定では、動物性脂肪について粗たんぱく質の測定・表示は一律に求められていません。

EU飼料原料カタログの「Animal fat(動物性脂肪)」で表示が義務付けられているのは、粗脂肪と、含有量が1%を超える場合の水分です。粗たんぱく質の表示義務はありません。

カナダの飼料原料表でも、動物性脂肪について表示が求められるのは、水分、不溶性物質、不けん化物、遊離脂肪酸の上限値です。粗たんぱく質の保証値は求められていません。ただし、この原料表は家畜用飼料を対象としており、犬猫用ペットフードに直接適用されるものではない点には注意が必要です。

つまり、ミールなどのたんぱく質原料には粗たんぱく質の表示が求められる一方、動物性脂肪には求められていません。これは「脂肪にたんぱく質がまったく含まれない」という意味ではなく、残存たんぱく質について共通の測定・表示基準が設けられていないということです。

残存たんぱく質を示す公開データがない

今回の調査では、精製された鶏脂に、たんぱく質がどの程度残っているかを測定した査読論文や公的な分析データは確認できませんでした。

また、犬に鶏脂だけを与えてアレルギー反応を調べた試験や、食物アレルギーの除去食に鶏脂を使用できるかを直接検証した研究も確認できませんでした。原料仕様書や一般的な成分表に粗たんぱく質の目安が記載されることはありますが、測定方法や検出限界まで明示された信頼性の高い公開データは見当たりません。

ただし、これは「油脂に残ったたんぱく質を測定できない」という意味ではありません。ヒト用食品の研究では、加熱した植物油に含まれる微量のカシューたんぱく質を、LC-MS/MSという分析方法で測定できることが報告されています。100 ppmのカシューたんぱく質を添加した油では、138℃で30分加熱した後も90%超、166℃では50%超が検出・回収されました。

ただし、この研究は植物油を使った実験であり、鶏脂などの動物性脂肪を調べたものではありません。そのため、鶏脂に残るたんぱく質量や犬への影響を直接示す根拠にはできません。あくまで、油脂に含まれる微量のたんぱく質をppm単位で測定すること自体は可能だと示す事例です。

調査範囲と注意点

本調査は2026年8月1日に実施し、8月3日に追加調査を行いました。Crossref、Europe PMC、EUR-Lexのほか、各国政府機関・業界団体の公開資料を確認し、査読論文と公的な分析データを調査対象としています。

今回、該当するデータを確認できなかったからといって、「そのようなデータが存在しない」と断定することはできません。また、データが見つからなかったことは、鶏脂の安全性を証明するものでもありません。

残存たんぱく質は「量」だけでは判断できない

「鶏脂にはたんぱく質が少ないため、アレルギーの心配も少ない」とは、単純には判断できません。重要なのは、たんぱく質の総量だけでなく、どの種類のたんぱく質が残っているかです。

Olivry & Bexley(2018)の研究では、トウモロコシに反応する犬の血清IgEが、コーンフラワーでは20/30検体(67%)で反応した一方、コーンスターチでは40検体すべて反応しませんでした。試験に使用した抽出物のたんぱく質濃度は、いずれも同じ5 µg/mLに調整されていました。

つまり、反応の違いは単純なたんぱく質量の差では説明できません。著者は、含まれているたんぱく質の種類や構成が異なる可能性が高いと考察しています。

この研究は、精製されたコーンスターチのアレルゲン性がコーンフラワーより低いと結論づけています。ただし、その理由を「精製によってたんぱく質の量が減ったから」とだけ説明することはできません。残っているたんぱく質の種類も重要だということです。

鶏についても、Olivryら(2022)は、犬の血清IgEが反応する主要な鶏アレルゲン7種類と微量アレルゲン1種類を特定しています。その一つが、脂肪酸と結合する性質を持つ血清アルブミンです。

ただし、この研究は血液を使った試験であり、鶏脂そのものを分析したものではありません。そのため、これらのアレルゲンが精製後の鶏脂に残るのか、残るとすればどの程度なのかは、この研究から判断できません。公開データでも確認できませんでした。

なお、2018年の研究はRoyal Caninの資金提供を受けてAvacta Animal Healthが実施しています。著者と両社との関係も開示されているため、研究結果を評価する際には、この点も考慮する必要があります。

鶏由来原料ごとの設計判断

区分ごとに、規制上の扱いも、犬での一次データの有無も、設計上の論点も違います。「鶏を外す」ではなく「どの区分を、なぜ外すのか」を書けるかどうかが、設計品質の分かれ目になります。

肉・ミール・脂・卵・加水分解は、それぞれ別の判断が要ります。根拠の強さが違うからです。

区分(区分・処理)規制・資料上の扱い
(確認した法域)
犬での一次データ設計上の論点
生肉原材料名として表示主要アレルゲン7種+微量1種(血清IgE)たんぱく質区分の知見を脂肪に外挿できない
家禽ミールAAFCO・カナダCFITでは定義があるが種名表記は任意非加水分解ミールが血清IgEで認識される「poultry」では単一種か混合か不明
鶏脂確認したEU・カナダ規定では粗たんぱく質の申告・保証の規定なし公開データを確認できず共通基準がない領域を仕様で定義する
原材料名として表示全卵抽出物レベルの報告のみ確認複数の一次研究で鶏肉と別品目として扱われる
加水分解(処理)確認したEU規定では分子量の数値規定なし分子量の目安が出典ごとに食い違う共通基準がなく仕様で定義する

① 生肉

この分野は、比較的研究データが多くあります。ただし、鶏を避ける目的でアヒルや七面鳥に置き換える場合には注意が必要です。

鶏に対する特異的IgEが検出された犬30頭を調べた研究では、鶏肉には全頭が反応し、アヒル肉と七面鳥肉にもそれぞれ97%が反応しました(Olivryら、2017)。つまり、犬の血清IgEは、鶏肉だけでなく、アヒル肉や七面鳥肉もほぼ同じように認識していたことになります。

ただし、これは血液を使った検査の結果です。犬に実際に食べさせて症状が出るかを確認する誘発試験は行われていません。また、この研究では卵も調べられていません。

この結果から、鶏をアヒルや七面鳥に置き換えるだけでは、「新奇たんぱく質」として十分に差別化できない可能性があります。鶏との交差反応を避けることを重視するなら、鳥類以外の動物種を選ぶほうが、原料選定の考え方として一貫しています。

② 家禽ミール

この区分は、原料名だけでは中身を判断しにくい点に注意が必要です。

AAFCO公式サイトの定義とカナダCFITでは、「Poultry Meal」と「Poultry By-Product Meal」は、それぞれ異なる原料として定義されています。ただし、どちらも鶏や七面鳥などの具体的な鳥の種類を表示するかどうかは任意です。そのため、ラベルに「poultry」とだけ書かれている場合、単一の鳥類を使用しているのか、複数の鳥類が混ざっているのかを特定できません。

加工後のたんぱく質に関するデータもあります。Olivryら(2017)の血清IgEを用いた試験では、加水分解されていないレンダリング済みチキンミールの抽出物に、鶏に感作された犬の血清の73%が反応しました。鶏肉への反応は100%、比較対象の牛肉への反応は3%でした。

この結果は、レンダリングのような加熱加工を受けたチキンミールでも、犬のIgEに認識される鶏由来たんぱく質が残る可能性を示しています。そのため、「加熱しているからアレルギーの心配はない」とは言えません。

ただし、試験に使用されたのは、アセトンで脂肪を取り除いたチキンミールのたんぱく質区分です。精製鶏脂に残っているたんぱく質を調べた研究ではないため、この結果をそのまま鶏脂に当てはめることもできません。

③ 鶏脂

前章で説明したとおり、鶏脂に残るたんぱく質については、公開された共通の基準がありません。そのため、商品設計では原料名だけで判断せず、原料仕様書の確認や製造工程の管理が重要になります。

精製方法によって残存たんぱく質の量が変わる可能性はあります。しかし、それを裏づける公開データが確認できない以上、「この鶏脂は残存たんぱく質が少ない」と訴求するには根拠が不足しています。

実際の配合例として、次の2つがあります。

北米市場向けのある獣医療用加水分解たんぱく食では、メーカー公式サイトの原材料表示が「米、加水分解大豆たんぱく、鶏脂」の順となっており、鶏脂が3番目に記載されています。ただし、これは加水分解たんぱく食に鶏脂が使用されている一例にすぎません。鶏脂が安全であることや、アレルギー反応を起こさないことを示すデータではなく、配合量も公開されていません。

英国市場向けの別の獣医療用食では、油脂は動物種を特定しない「animal fats」と表示され、たんぱく源として「加水分解家禽レバー」が別に記載されています。EU・英国の表示規則では、油脂の由来となる動物種を記載する義務がないため、この「animal fats」が鶏由来かどうかは、表示だけでは判断できません。

なお、加水分解したたんぱく質を使用することは、この種の療法食における基本的な設計方法です。そのため、家禽由来の原料が記載されていること自体が、製品の設計と矛盾するわけではありません。これらはあくまで実際の配合例であり、鶏脂の安全性やアレルギー性を証明するものではない点に注意が必要です。

④ 卵

卵は、研究では鶏肉とは別の原料として扱われています。Muellerら(2016)がまとめた複数の一次研究でも、鶏肉と鶏卵はそれぞれ別の原料として負荷試験が行われていました。

ただし、これは各研究で鶏肉と卵を分けて調べていたという事実を示すものです。「卵は鶏肉と必ず分けて判定すべき」と定めた教科書やガイドラインを確認できたわけではありません。

また、鶏肉に反応する犬のうち、どの程度が卵にも反応するのかを、実際に食べさせる誘発試験で調べた研究も確認できませんでした。

したがって、「鶏肉に反応する犬は卵にも反応する」とも、「卵は鶏肉と別なので使用できる」とも、現在の犬の研究データからは判断できません。

⑤ 加水分解

加水分解は原料の種類ではなく、たんぱく質を細かく分解する加工方法です。ただし、低アレルゲン製品を設計するうえでは重要な検討項目になります。

加水分解たんぱく質について、「分子量をこの数値以下にすれば安全」と判断できる共通基準はありません。査読論文で示されている分子量の目安も、文献によって異なります。

さらに、その根拠をたどると、犬を対象とした系統的レビューだけでなく、査読を受けていない学会抄録やヒトを対象とした総説も含まれています。つまり、犬に異なる分子量や量のたんぱく質を与え、どの水準から反応が起こるかを検証した試験から導かれた基準ではありません(Lesponneら、2018/Masudaら、2020)。

商品設計とアレルギー診断は別のもの

アレルギー対応フードを設計する際に、開発前に個々の犬のアレルギー原因を調べるわけではありません。商品開発側が決めるのは、「どの原料を除外し、どのような用途の商品にするか」です。一方、その商品が個々の犬に適しているかどうかは、獣医師の管理下で食事試験を行って判断します。

開発側は「何を除外した商品を作るか」を決め、獣医師は「その犬が何に反応するか」を判断します。

開発側が決めること

商品開発では、すべての犬に共通するアレルギー原因を特定してからレシピを作るわけではありません。次のような条件をもとに、商品として除外する原料や使用するたんぱく源を決めます。

  • どのような用途を想定するか
  • どの原料を除外するか
  • 新奇たんぱく質と加水分解たんぱく質のどちらを採用するか
  • パッケージや広告で何を表示・訴求するか
  • 工場で原料を分別し、交差混入を管理できるか
  • 原料の由来や製造工程をどこまで確認できるか
  • 使用後もどの程度のリスクが残るか

したがって、「アレルギー対応」という言葉だけでレシピは決まりません。想定する用途と表示内容に合わせて、除外対象や管理水準を具体的に定める必要があります。

個々の犬への適否は食事試験で判断する

2026年時点の総説でも、犬・猫の食物有害反応を診断する最も信頼性の高い方法は、除去食試験と誘発試験の組み合わせとされています。

除去食試験では、原因として疑われる食材を含まない食事を一定期間与え、症状が改善するかを確認します。その後の誘発試験では、疑わしい食材を再び与え、症状が再発するかを確認します。

血清IgE・IgG、唾液、被毛を使った検査は、十分な信頼性がなく、これらの食事試験の代わりにはならないと結論づけられています(Mueller & Olivry、2017/Udraite Vovk & Mueller、2026)。これは犬と猫を対象とした総合的な結論です。

ただし、食事試験にも不確実性があります。犬12頭を対象とした二重盲検プラセボ対照試験では、半数がプラセボにも陽性反応を示しました。著者自身も、単一食材による誘発試験の判定には疑問が残ると指摘しています(Sofouら、2026)。

つまり、アレルギー対応フードとして設計された商品であっても、すべての犬に適しているとは限りません。個々の犬への適否は、製品名や原材料表示だけでは確定できず、獣医師の管理下で確認する必要があります。

診断用の除去食には給与期間も関係する

犬209頭の症例データをまとめた系統的レビューでは、除去食を開始してから8週間以内に、95%を超える犬で皮膚症状の改善が確認されました。皮膚症状を伴う食物有害反応を90%以上見つけるためには、除去食試験を最低8週間続けることが推奨されています(Olivryら、2015)。

ただし、研究者が犬209頭を同じ条件で試験したものではありません。過去の複数の研究から、除去食開始後の症状改善時期が分かる症例を集めて分析した結果です。そのため、8週間が最適な期間であることを比較試験で直接証明したものではありません。

そのため、診断用の除去食として使用される商品を開発する場合は、8週間継続して与えられる容量や販売単位も設計上の検討事項になります。一方、一般的な「アレルギーに配慮したフード」であれば、8週間分の容量設計が必須というわけではありません。

商品開発側の役割は、個々の犬を診断することではありません。商品の用途、除外する原料、表示内容、製造管理の範囲を明確にし、「何を管理でき、何を保証できないのか」を具体的に示すことです。

「不使用」表示は工程管理で裏づける

残存たんぱく質や混入量に共通基準がない以上、原料名だけでは、対象原料がどの工程で使用され、どの程度の混入リスクが残るかを判断できません。

「不使用」と表示するには、対象原料がすべての製造工程で使用されていないことを、原料仕様書、工程管理、検査結果、製造記録などによって裏づける必要があります。

ただし、「不使用」は、意図しない交差混入を含めて対象成分が完全に存在しないことや、すべての犬にアレルギー症状が起こらないことを保証するものではありません。

「何を使用していないか」は、原料名だけでは裏づけられません。原料確認、混入防止、検査、記録を組み合わせ、表示できる範囲を決める必要があります。

表示にない原料が検出されることがある

犬猫用ペットフードの表示不一致に関する18件の研究をまとめた2018年の系統的レビューでは、表示にない原料が検出された製品の割合は、研究によって0~83%、中央値は45%でした。

「新奇たんぱく質」や「限定原料」をうたう除去食向け製品に限っても、33~83%で表示にない原料が検出されました。

ただし、各研究で検査されたのは一部の原料だけです。著者は、検査対象を広げれば、実際の表示不一致率はさらに高くなる可能性があると指摘しています。なお、このレビューは2018年1月までに公表された研究を対象としています。

一方、表示にない原料が検出されたことは、その製品によって実際にアレルギー症状が起こることを意味しません。表示不一致が確認された製品を、該当原料にアレルギーのある犬猫へ与えて症状の有無を調べた研究は、2026年8月時点では確認できませんでした。

したがって、「原料由来成分が検出されたこと」と「犬に症状が起こること」は、分けて考える必要があります。

ブランド独自の管理基準は設定できる

Lesponneら(2018)の研究では、ある高度加水分解食の製品ラインについて、意図しない付随たんぱく質の混入許容水準を0.5%に設定しています。

さらに、これに対応する総DNA濃度2.1 µg/gに安全裕度を加え、1.2 µg/gを製品の合格基準としています。

ただし、0.5%や1.2 µg/gは、その製品ラインのために設定された社内基準です。法令上の基準でも、ペットフード業界全体に適用できる共通基準でもありません。著者自身も、許容できる混入量について明確な共通見解はないと述べています。なお、この研究にはRoyal Canin/Marsの社員が著者として参加しています。

このように、分析方法や合否基準を具体的に定めれば、ブランドオーナーとOEM工場の間で、ロット判定に使用する独自の管理基準を契約上設定することは可能です。

ただし、その数値を「すべての犬にアレルギー症状を起こさない安全基準」と位置づけることはできません。設定できるのは、原料調達・製造・検査における管理基準であり、臨床上の安全性を保証する共通閾値ではありません。

残存たんぱく質を減らせる可能性

製造工程によって油に残るたんぱく質を減らせる可能性は、ヒト用食品の研究で報告されています。

実際の製造に近い小規模試験では、カシューを15バッチ揚げた後の共用油から、70~130 ppmのカシューたんぱく質が検出されました。その油を続けて使用したところ、ピーナッツから23.0 ppm、ポテトチップスから193.5 ppmが検出されました。

一方、11 µmまたは25 µmのフィルターや珪藻土を使って油を処理すると、200 ppmを超えていたたんぱく質を10 ppm未満まで減らせたと報告されています(Chen, Baumert & Downs、2026)。

この結果は、ろ過などの工程管理によって、油に含まれるたんぱく質を減らせる可能性を示しています。

ただし、研究対象はヒト用食品で使用される植物性の共用フライ油であり、鶏脂を調べたものではありません。また、同研究は、検出された濃度が食物アレルギーのある人に健康上のリスクを与える可能性があるとも結論づけています。

したがって、この結果をそのまま鶏脂に当てはめたり、「ろ過すれば安全」と判断したりすることはできません。鶏脂については、処理方法、検査対象、検出限界、検査頻度、合否基準を個別に設定する必要があります。

仕様で定められる事と、判断できない事

数値や検査条件を仕様として定めても、それだけですべてのリスクを否定できるわけではありません。管理できる範囲と、その結果から判断できない範囲を分けておく必要があります。

論点仕様として定められることその結果だけでは判断できないこと
鶏脂分析方法、対象たんぱく質、定量限界、検査頻度、報告形式すべてのアレルゲンが存在しないこと、すべての犬が反応しないこと
原料の動物種単一種での表示、種特異的検査の指定「poultry」などの表示だけによる単一種の保証
ライン切替洗浄手順、切替記録、先行洗浄ロットの扱い交差混入が完全にゼロであること
検査対象種、分析方法、検出限界、検査頻度、合否基準陰性結果を対象原料の完全な不在とみなすこと
加水分解原料の由来、分解度の定義、測定方法一定の分子量以下なら、すべての犬が反応しないこと

OEM工場に確認する10項目

「鶏由来原料不使用」を裏づける確認は、レシピ・原料の確認と、製造工程の確認に分けて考えます。

最初に確認するのは、製品ごとのレシピと原料仕様です。同じ「加水分解食」シリーズでも、使用される原料はSKUごとに異なります。実際に、ある製品には加水分解鶏レバーや鶏砂肝が表示され、同じシリーズの別製品には表示されていない例があります。

そのため、「加水分解食」「限定原料食」といったシリーズ名や商品カテゴリーだけで、家禽由来原料の有無を判断することはできません。SKUごとに原材料表示、配合表、原料仕様書を確認する必要があります。

確認するのは、肉やミールなどの主原料だけではありません。次のような副原料や加工時に使用する原料も対象に含めます。

  • 主原料・副原料
  • キャリア
  • ダイジェスト
  • コーティング材

次に確認するのが製造工程です。レシピに鶏由来原料が含まれていなくても、同じ工場や設備で鶏由来原料を含む別製品を製造している場合があります。原材料表示だけでは、共用設備、製造順序、洗浄、リワークなどを通じた交差混入の可能性まで判断できません。

そこで、原料の受け入れ、保管、計量、投入、混合、成形、乾燥、コーティング、包装まで、各工程で鶏由来原料が使用または混入する可能性を確認します。

以下の10項目は、法律で一律に定められたチェックリストではありません。「すべての製造工程で対象原料が使用されていないこと」を、工場の設備や製造条件に応じて裏づけるための実務上の確認例です。

確認項目確認する理由
① 専用タンクか共用タンクか共用の場合、前に製造した製品の残留リスクを確認する必要があります
② 配管・計量系統の共用範囲共用範囲が分からなければ、洗浄対象と記録範囲を決められません
③ コーティング設備の共用ダイジェストなどのコーティング材は、見落とされやすい混入経路です
④ 生産の切替順序鶏由来原料を含む製品の直後かどうかで、残留リスクが変わります
⑤ 洗浄手順と洗浄検証洗浄手順の存在だけでなく、その効果を確認する必要があります
⑥ フラッシュ品の扱い廃棄、再投入、他製品への使用によって、残留物の行き先が変わります
⑦ リワークの投入可否と記録リワークを通じて、対象外の原料が持ち込まれる可能性があります
⑧ 変更管理の通知条件原料や工程が変更されると、不使用表示の前提が変わります
⑨ サンプリング計画採取場所、時期、点数が決まらなければ、検査結果を適切に評価できません
⑩ 記録の保管期間と提示方法表示の根拠資料を所定期間保管し、照会時に提示できる状態かを確認します

検査を行う場合は、「PCR検査済み」と記載するだけでは十分ではありません。対象とする動物種、DNAとたんぱく質のどちらを調べるか、分析方法、検出限界、検査頻度、合否基準まで具体的に定める必要があります。

また、「ペットフードの表示に関する公正競争規約」第11条は、配合設計書、スペックシート、分析データなど、表示の根拠となる資料の保管期間を定めています。

一方、資料の提出形式までは規定していません。そのため、OEM契約や品質仕様書では、保管期間に加えて、資料の提供方法、提供期限、変更時の通知方法などを定めておく必要があります。

この10項目は、「不使用」表示を裏づけるための証拠と管理方法の例です。すべての項目を一律に求めるのではなく、表示したい文言と工場の設備・製造状況から逆算し、必要な確認範囲と管理水準を決めます。

訴求で越えてはいけない線

アレルギーに関する表示は、内容によって必要な根拠が異なります。例えば、「チキン不使用」と表示するには、レシピにチキンを配合しないだけでなく、すべての製造工程で使用されていないことを確認する必要があります。

「不使用」「交差接触ゼロ」「臨床的な低アレルゲン性」は、別々の命題です。書ける根拠がそれぞれ違います。

4つの訴求類型

以下はペットフードの表示に関する公正競争規約(令和6年9月30日 公正取引委員会・消費者庁 告示第4号、令和6年10月1日施行)および同施行規則に基づく整理です。効力は規約参加事業者に及びます。

訴求類型典型的な製品類型根拠条文満たすべきこと
① チキン使用・配合の強調一般商品規約第7条内容量の5パーセント以上使用している場合でなければ、名称・絵・写真・説明文等に当該原材料を使用している旨を表示できません
② チキン・鶏由来原料 不使用限定原料商品/チキン不使用商品規約第8条第4号+施行規則第7条第4号ア無添加である原材料名等を明確に併記し、かつペットフードの全ての製造工程において当該原材料が使用されていないことが確認できること
③ 低アレルゲン・アレルギー配慮アレルギー配慮を訴求する一般商品公正競争規約に直接の定義規定なし/景品表示法および規約第10条の一般的な誤認防止原則で個別判断訴求内容に対応した合理的根拠を用意し、疾病の治療・予防・改善を暗示しないこと
④ 疾病の治療・改善獣医師管理下の除去食・療法食規約第3条第4項・第6条/施行規則第5条/施行規則第8条第3号「療法食」として適用される疾病・健康状態を記載し、公正取引協議会に報告する経路があります。一方、動物用医薬品の効能効果またはこれと同様の効能効果を標榜・暗示する表示は不当表示の類型です

表の分類と表示用語に関する注意点

「典型的な製品類型」は説明上の分類

表の「典型的な製品類型」は、この記事で分かりやすく説明するために設けた分類であり、規約上の正式な区分ではありません。「ペットフードの表示に関する公正競争規約」第4条第2号に基づく正式な目的区分は、次の4つです。

  • 総合栄養食
  • 間食
  • 療法食
  • その他の目的食

また、規約第10条第2号では、第7条または第8条の表示基準に合わない表示を、不当表示として禁止しています。

EU向けでは「不耐性」と「アレルギー」を言い換えない

EU向け製品では、使用できる用語にも注意が必要です。

Commission Regulation (EU) 2020/354の附属書Part B・項目13では、正式な表現として「Reduction of ingredient and nutrient intolerances(原材料および栄養素に対する不耐性の低減)」が定められています。

脚注(6)では、「ingredient and nutrient」の部分を、対象となる具体的な不耐性の名称に置き換えることが認められています。しかし、「intolerance(不耐性)」を「allergy(アレルギー)」へ言い換えることまでは認められていません。

また、「dietetic」という用語も自由に使用できる表現ではありません。Regulation (EC) No 767/2009第18条により、特定の栄養目的を持つ飼料に限って使用される用語です。

「鶏肉不使用」と「鶏由来原料不使用」は範囲が異なる

「鶏肉不使用」は、通常、鶏の肉を使用していないことを示します。一方、「鶏由来原料不使用」は、鶏に由来する原料全体を対象にする、より広い表現です。

「鶏由来原料不使用」と表示する場合は、鶏肉だけでなく、次の原料まで除外するのかを事前に定義する必要があります。

  • 鶏脂
  • 家禽ミール
  • ダイジェスト
  • コーティング材
  • その他の鶏由来副原料

表示文言を先に決めるのではなく、除外する原料の範囲を決めたうえで、原料仕様書と製造工程を確認します。前章で示したOEM工場への確認項目が重要になるのは、この場面です。

実際にEU市場では、「単一の動物性たんぱく源」を訴求しながら、原材料に家禽油と家禽加水分解物が記載されている製品があります(2026年8月3日確認)。

EUの食事療法用飼料では、油脂や加水分解物が「単一たんぱく源」という訴求の対象外として扱われる場合があります。そのため、この表示だけで虚偽表示とは判断できません。

この実例から分かるのは、「単一たんぱく源」などの商品カテゴリーや訴求文だけでは、家禽由来の油脂や副原料まで使用されていないとは判断できないということです。なお、当該製品の配合率は公開されていません。

「不使用」は工程要件

本記事でもっとも実務に効く点です。「チキン不使用」と書けるかどうかは、レシピの問題ではなく製造工程の問題になります。

施行規則第7条第4号アは、添加物以外の原材料について「無添加」「不使用」等の用語を、無添加である原材料名等が明確に併記され、かつ「ペットフードの全ての製造工程において当該原材料が使用されていないことが確認できる場合」に限り表示できるとしています。条文が求めているのは「確認できる」という状態であり、具体的な検査項目を一律に列挙したものではありません。前章の10項目は、その裏付けを組み立てるための実務例です。

「当該原材料を使用していない」ことと、「交差接触がゼロである」ことと、「臨床的に低アレルゲン性である」ことは、別々の命題です。第7条第4号アが求めるのは1つ目であり、2つ目・3つ目を保証するものではありません。

なお、通常使用されない原材料や添加物について「不使用」を強調し、品質等が優れているかのように誤認させる表示は、第7条第4号アを満たしていても施行規則第8条第1号ア(規約第10条第6号関係)により不当表示の類型に当たる可能性があります。

「低アレルゲン」の位置づけ

「hypoallergenic(低アレルゲン)」は、EUの飼料表示規則(EC)767/2009、PARNUTリスト規則(EU)2020/354、FEDIAFの表示規範(2019年10月版)、AAFCOのペットフード・モデル規則(2023年承認版、確認は AAFCO 公開PDF版によります)のいずれにも定義規定が存在しない用語です。

したがって使用の可否は、EUでは767/2009第11条・第13条の一般的な誤認防止・クレーム要件、米国では misbranding と医薬品クレームの枠組みで個別に判断されます。

日本の公正競争規約にも定義規定はありません。施行規則第7条第1号は「低」等の用語について基準を置いていますが、その対象は特定の栄養成分の含有の有無または量の多寡であり、アレルゲンに直接適用されるものではありません。

規制注意

疾病の治療・予防・改善を示唆する表現は、日本・EU・米国のいずれでも使えません。日本では施行規則第8条第3号が、動物用医薬品の効能効果またはこれと同様の効能効果を標榜・暗示する表示を不当表示の類型としています。

米国では、FDA が疾病の治療・予防・緩和を示す明示的または黙示的なクレームは新動物用医薬品としての承認を要するとの立場を公式に示しています。EU では Regulation (EC) No 767/2009 第13条第3項(a)が、飼料が疾病を予防・治療・治癒すると主張することを禁じています。

根拠資料の保管

景品表示法第7条第2項は、消費者庁が措置命令に関し表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求めた際、事業者が提出しないときは、措置命令の適用上その表示を優良誤認表示(第5条第1号該当)とみなすと定めています。

あわせてペットフード公正競争規約第11条は、表示の根拠となる配合設計書・スペックシート・分析データ等を、賞味期限が2年以内のものは当該商品の最終製造日から2年間、2年を超えるものはその最終製造品の賞味期限の満了日まで保管するものとしています。

「不使用」表示の工程記録も、この保管対象に含めて設計しておくのが実務的です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 除去食に鶏脂を含めてよいですか

公開された規制と一次研究の範囲では、鶏脂の残存たんぱくについて、一般化できる申告基準や臨床閾値は確認できません。測定が不可能なのではなく、ペットフード(犬)の領域には、測定結果を臨床的な安全性へ変換する共通基準が公開されていないということです。したがって含める・含めないの判断は、担当獣医師に委ねられる領域になります。製品側では、鶏脂の有無を原材料表示で明確にしておくのが現実的です。

Q2. 「家禽ミール」と表示された原料は鶏だけと考えてよいですか

特定できません。AAFCO・カナダCFIT のいずれの定義でも種名表記は任意です(CFIT は家畜用飼料の原料表です)。単一種を前提とするなら、原料仕様書の側で種を指定し、証跡を求める必要があります。

Q3. 「チキン不使用」とパッケージに表示できますか

原材料としてチキンを使っていないことに加えて、工程の確認が要件になります。公正競争規約の施行規則第7条第4号アは、「無添加」「不使用」等の用語を、無添加である原材料名等が明確に併記され、かつペットフードの全ての製造工程において当該原材料が使用されていないことが確認できる場合に限り表示できるとしています。

条文が求めているのは「確認できる」という状態であり、特定の検査項目を一律に指定しているわけではありません。なお「不使用」は、交差接触がゼロであることや臨床的な低アレルゲン性を意味しません。

Q4. 原材料表示にない動物種が混ざることは、どのくらいあるのですか

18報を統合した2018年の系統レビューでは、表示にない原料が検出された製品の割合は研究間で0〜83%(中央値45%)、除去食向けの「新奇/限定原料」製品に限っても33〜83%でした。ただし著者自身が、実際の不適合率はこれより高い可能性が非常に高いと述べています。検出と発症が結びついていない点は本文のとおりです。

Q5. パッケージに「低アレルゲン」と書いてよいですか

「hypoallergenic(低アレルゲン)」は、EUの767/2009、2020/354、FEDIAF表示規範、AAFCOモデル規則のいずれにも定義規定が存在しない用語です。日本の公正競争規約にも定義規定はありません。

禁止語ではありませんが、根拠は自社で用意することになります。日本では景品表示法第7条第2項の不実証広告規制があり、求められた際に提出できる根拠資料が必要です(保管期間は本文の「根拠資料の保管」をご参照ください)。

ただし、アレルギーの治療・改善を示唆する文脈で用いると施行規則第8条第3号の不当表示に当たり得ます。表示の可否は個別判断となるため、文言確定前にペットフード公正取引協議会へご相談ください。

参考文献・出典一覧

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